
「世の中は(まっすぐ)と(丸)でできている」。これは最近わたしが気がついた空間を構成する原則ですが、そこから考えついたのが、大きな公園内や旧街道に遊歩道、はたまた商店街などを往復する「まっすぐ散歩」。練馬区の都立光が丘公園内には、園内をまっすぐに南北に横断する大きな並木道があり、この散歩が可能です。でもなぜそんな道が園内を?その意外な歴史的な理由を解説します。
日の丸だってそうですし、建物や自動車、植物の葉や動物も人間も、まずは世の中のありとあらゆるカタチは、このまっすぐと丸の組み合わせで出来ています。
そこでこのシンプルな原理に着想を得た、ただまっすぐ行けるところまで行って、往復して来た道を戻るというシンプルな「まっすぐ散歩」を提案します。
そもそも日課で毎日散歩するにしても、感性の磨かれたベテランになると、毎日同じコースのようでも、天気や時間による日差しや風向きの違いや、それによる草木の表情の微妙な移ろいを感じることができるものです。
昨日と同じ様でどこか微妙に違うというこの感覚は、散歩を重ねるうちに誰でも養われていくものだと思います。時に虫たちの営みを面白がったり、見上げる青空に浮かぶ雲を見て、解放感を味わいナチュラルハイになったりと、色々な日々違う刺激を受けながら歩くことができます。
そのため見知らぬ土地で行うこの「まっすぐ散歩」なら、なおさら新鮮な体験ができるはずです。しかもこの散歩なら、分かれ道でのコース選択に悩まなくてもいいし、知らない場所に行きついて、さらに脇道に入って、ぐるぐる巡っているうちに迷ってしまい、しまいには散歩なのか路頭に迷っているのか分からなくなることも無く、特に高齢者にはストレスフリーな散歩といえます。
ただシンプルな一直線を往復するだけで、後半折り返したコースはすでに歩いて見ているから面白くないのではと思うかもしれませんが、それが意外に違うものなのです。
人間には利き腕があるように、利き目があるのをご存知でしょうか。常に見る場合に脳が意識を置いて見ている側といいましょうか。これは私の経験でよくあることですが、右目が利き目の私は、このまっすぐ散歩なら、例えば商店街を往復する場合には、最初に見逃して通り過ぎていた左側にあった間口の小さな立ち飲みの看板を、後半の折り返しで右側になった途端に再発見して、ひとりプチ感動するという具合です。それはまるで、往復で人格が2人いたのかと思うぐらいに認知するものが違うことがよくあります。
とそんな「まっすぐ散歩」がある特殊な理由でできる、練馬区にある大きな緑地公園に「都立光が丘公園」があります。

もともとこの公園は1940(昭和15)年に紀元2600年記念事業として、練馬大根でおなじみの農村地帯だったこの一帯を、広大な緑地公園として造成されたことに始まります。
しかし時代は太平洋戦争開始という戦時下ということで、急きょ帝都防衛のため1942年に日本陸軍の飛行場「成増陸軍飛行場」として整備されたのでした。
その後は途中から「特別攻撃隊」(陸軍では「特別攻撃隊」、海軍では「神風特別攻撃隊」の区別有り)の出撃基地にもなり、1945(昭和20)年8月の終戦ギリギリまで、米軍のB29爆撃機への体当たり攻撃の前線基地としての役割を果たしました。
主に配備された戦闘機は当時世界最速の四式戦闘機「疾風(はやて)」でした。そして戦後になるとこの広大な敷地を米軍住宅地「グラントハイツ」として接収されるのです。
ちなみにこの住宅地の名称グラントは、第18代アメリカ合衆国大統領ユリシーズ・グラントから名付けたもので、ちなみに現在アメリカの50ドル紙幣にもなっている人物です。
そしてこの広大な敷地を全面返還されたのが1973(昭和48)年で、その翌年から公園の造成を始め8年後の1981年12月26日に開園となりました。
その広さは日比谷公園の約4倍にもなる、60.7ha(60万7000平方メートル)で、都内でも有数の公園です。当時から植えられた木々は、現在では都内とは思えないほどの深い森となっています。

そしてこの公園には都営地下鉄大江戸線・光が丘駅から、南北にそのまま成増方面までまっすぐ約2キロほどの長い並木道が、この広い公園を南北に横断していますが、これが「まっすぐ散歩」にうってつけなのです。
意外に森林公園でここまでまっすぐ伸びた幅広の並木道はありません。それもそのはず実はこの並木道の一部は、かつて特攻隊が飛び立ったおよそ1200メートルに及ぶ成増飛行場の滑走路跡だったのです。どうりでまっすぐなはずです。

まず園内にある案内図を見てみると園内中央を並木道が貫いているのが分かります。実際に歩いてみると、想像以上に道幅は広く、この並木道がかつて戦闘機の滑走路だったのかと思うと不思議な気持ちになるのでした。
その道がまっすぐなのには、歴史的な理由が必ずあります。時にその歴史に触れ、先人の苦労や文化に思いをはせながら、いろんなところでこの「まっすぐ散歩」を楽しんでいただければと思います。
参考サイト
■TokyoMXTV
https://s.mxtv.jp/tokyomxplus/mx/article/202508131020/detail
■参考文献
「日本陸軍がよくわかる事典」PHP文庫(太平洋戦争研究会著)




