長崎県の離島である壱岐島。人口24,000人に対し、神社庁に登録されているだけでも150以上の神社がある。神事・仏事が生活と密着していており、今でも昔から継承される多種多様な神仏にまつわる風習が残っている。その中の一つ、春の彼岸時期の風物詩となっている「美濃の谷(みのんたん・みのんたに)さん参り」について紹介したい。
目次
祖霊が井戸に映し出される「涙川」
壱岐では、春の彼岸に先祖を供養するため、33ヵ所の札所参りを行うという風習がある。1番札所から33番札所の壱岐市芦辺(あしべ)町の美濃の谷観音堂まで順番にお参りをする。現在は参拝者は少なくなり、一番最後の美濃の谷だけをお参りするという人も多いそう。
最後の札所にあるのが「涙川(なみだごう)」と呼ばれる小さな井戸。祖霊や親しい身内の霊が井戸水に映って対面できると言われている。姉妹や親戚とお参りに来ていた同市郷ノ浦町(ごうのうらちょう)に住む会社員の米田スズ子さんは「今年は叔父がなくなったばかりなので島外からも親戚が集まって、みんなでお参りに来ました。小さい時から毎年お参りに来ていて、亡くなった両親ともここに来たら会える気がするの」と笑顔で話した。
椿の花をさした青竹の杖
参拝者は先端に椿の花を挿した1メートルほどの青竹を手にしている。ヤブ椿は市の花木にもなっており、市内全域にわたり自生し、市民に親しまれている。33ヵ所を回る際に、杖として使われていたようだが、現在も参拝者の半数ほどが持参している。青竹は供養塔の周囲に立てかけ、他の人が立てかけた青竹を持ち帰り、自分の墓に供えるのが習わしだという。
緑と赤の渦模様の「へそ菓子」をお供え
お供えは「へそ菓子」と呼ばれる直径約3センチほどの半球状で緑と赤の渦模様が入ったお菓子である。壱岐市内のスーパーや商店などで販売しており、彼岸中、美濃の谷観音堂内に出店している露店で購入することができる。壱岐市では普段からへそ菓子をお墓などにお供えする。実際に食べることもでき、ほんのり甘く麩菓子のような食感である。
年々減っているという参拝者だが、彼岸の中日である3月20日も、多くの人がお参りに訪れ、周りの道路に3〜4件の露店も出ていた。古くから伝わる伝統を、また島ならではの個性あふれる習わしを大切にしたい。
写真はすべて 2024年3月20日 筆者撮影
2 件のコメント
この行事がいつごろから始まったかを教えてください。
美濃谷まいりがいつから始まったか教えてください。
澤田様
コメントありがとうございます。
調べるのに時間がかかってしまい、すみません。
室町時代のころに始まったようです。
当時壱岐を支配していた唐津岸岳城主のおじ波多宗円という人が熊野権現のお告げを受け、仏工に作られた33体の観音像を各村々のお堂に安置したのが壱岐西国33箇所零場巡りの起こりと言われています。美濃の谷参りもそのころが発祥だと思われます。(参考:壱岐のお宝100選 発行日:2015年8月)
執筆者の田口より