かつてのにぎわいを取り戻す!家具職人が仕掛ける「家守事業」【秋田県能代市】

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あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。

秋田県北西部に位置する能代(のしろ)市、かつては木材産業が盛んで「木都」と呼ばれたまちです。能代駅前から市内中心部を走る畠町(はたまち)大通りにかけてのエリアは、往時には道の両側に飲食店や商店が立ち並び、広い歩道には屋根がかけられて、お天気を気にせずに買い物などを楽しむことができる商店街でした。しかし、いまや多くの店が閉店し、かつてのにぎわいは失われてしまいました。

この駅前・畠町大通りににぎわいを取り戻す活動をしているのが、合同会社「のしろ家守舎(やもりしゃ)」(以下、「家守舎」と表記します。)の代表社員である湊哲一(みなと・のりかず)さんです。湊さんの本業は家具工房の「ミナトファニチャー」ですが、2019年から本格的に「家守事業」に取り組むようになりました。

能代は「ネタ」に困らないまち

家守事業とは概略、持ち主による利活用が難しい空き店舗などを借り、リノベーションして転貸することで、まちを再生していく取り組みです。湊さんは畠町通りにある酒屋さんだった建物を借りてリノベーション、元の酒屋さんの名前にあやかって「マルヒコビルヂング」と名付けました。1階にはカフェ、2階にはコワーキングオフィスを開き、地下には自身の家具工房も構えています。今後は畠町の他の空き店舗もリノベーションして、新たなお店をオープンできるよう計画しています。何が彼をここまで駆り立てるのでしょうか?

(家守舎がリノベーションした「マルヒコビルヂング」)

「変えていこうとしているこの通りが好き」と語る湊さんは、自身も畠町で生まれ育ちました。湊さんは、まちの魅力について、「能代は製材所が近くて木に触れられるということがめちゃくちゃ楽しいです。テーブルが欲しいと言われたら、すぐに一枚板を探せる。『能代には木材の話を普通にできる人がいる』というのは声を大にして言いたい」と話します。また、市内には秋田県立大学の研究施設である「木材高度加工研究所」もあり、木に関する様々な研究にも興味をそそられるそうです。家具作りでは木材をメインとする湊さん、長年木に触れてきた経験から見ても、木都としての能代は面白いのだそう。

そうした「木材」というメインコンテンツがありながら、他にも色々な「ネタ」があるのも能代の魅力だと湊さんは続けます。洋上風力発電やバスケットボール(能代市には漫画「スラムダンク」に登場する山王工業のモデルとなった高校があります。)、水素関連の研究推進など、能代は「ネタに困らないまち」だと笑顔で話します。

他地域の「関わりしろ」が地元でのまちづくりにつながった

今でこそポジティブなイメージでまちを捉える湊さんですが、かつてはまちに対して寂しさを感じたこともあったようです。

湊さんはかつて、横浜市青葉区にある寺家(じけ)ふるさと村という場所で仲間たちと木工教室を立ち上げ、家具を作り始めました。田んぼや畑が多く、蛍がたくさんいる環境だったそうです。「ものづくりの作家さんが多く、すぐ近くに陶芸をやっている人とかがいて、すごく刺激を与えてくれる場所だった」と湊さんは振り返ります。

時には作家さん達と集まって、お祭りのようなイベントを開催していて、そういったイベントを能代でも開催したいと感じるようになったそうです。しかし、いくらインターネットで探しても情報が出てきません。

見つかったのは同じ秋田県北にある大館市の「ゼロダテ」というアートでまちを再生するプロジェクトでした。プロジェクトの代表から「大館に来なよ」と言われたのがきっかけとなり、そこに集まるアーティストをはじめ、様々な人たちとのつながりが生まれます。このことが後にまちづくり、家守事業を行う大きなきっかけとなったそうです。

ゼロダテを起点に秋田での仕事を増やした湊さんは、2017年に能代に帰ってきました。はじめは家具づくりに専念していた湊さんですが、それまでに築いていた人脈や、地域の人達との関わりの中で、徐々にまちづくりに傾倒していきます。「木都」をテーマにしたイベントなどの開催を経て、他業種の経営者である3人の友人とともに、合同会社のしろ家守舎を立ち上げるまでに至りました。

 (マルヒコビルヂング地下にある湊さんの家具工房)

まちづくりにゴールは無いけれど~家守舎が目指すもの~

事業のゴールについて尋ねると、湊さんが目指すものは、家守舎のWEBサイトに掲載されているイラストそのものだと教えてくれました。そこには、空き店舗が新たなお店に生まれ変わって様々な店がオープンし、様々な世代が行き交う様子が描かれています。車道を使ってバスケットボールの3X3(スリー・エックス・スリー)の試合が行われ、それを歩道に寝そべって観ている人たちがいたり、能代の夏祭りの華である城郭灯籠(じょうかくとうろう)や屋台があったりと、新たなにぎわいを得たまちの姿が見て取れます。ただ、これも最終的なゴールではなく、「まちづくりにゴールはない」と湊さんは語ります。

(家守舎WEBサイトのイラスト)

目指す姿を達成するためのスモールゴールとしては、「首都圏にいて、このまちに戻って来たいと思っている若い世代に、このまちでも安心して商売ができるということを見せたい。そのためには、まずは3店舗を開くことがポイントになります。あと2店舗をここ数年で開きます」と話してくれました。2店舗目の計画も進行中で、今年(2024年)中には形が見えてきそうです。

順調に事業を進める一方で、課題も見えてきました。マルヒコビルヂングの1階にある「CAFE & ASOBIBA 4-6」は、コミュニティを生み出す家守事業の一環として湊さんが手がけています。ここで開催されたイベントから方々で新たなプロジェクトが生まれるなど、確かな手ごたえを感じる反面、経営面では苦戦もあるようです。

また、「いまだに家守舎って何してるの?という人たちもいっぱいいます。そこに対してどうやって伝えていくのかも課題の1つ」とも語ってくれました。

最後に、特にまちに関わって欲しいのはどんな人かを尋ねたところ、湊さんの答えは「大学が無いまちだからこそ大学生に関わってもらうのが大事」とのことでした。興味の幅が広く、卒業後は色々な進路に進む大学生に、若いうちに能代というまちに触れてもらうことで、長く関わってもらいたいという思いがあるそうです。

その思いから家守舎では大学生のインターンシップの受け入れも行っています。

(2023年のインターン報告会のチラシ)

筆者自身も、まちおこしやまちづくりにも取り組んでおり、微力ながらこの記事が家守事業の理解の助けになり、大学生をはじめ多くの人たちに伝わり、そして関わっていただけたらうれしいと思っています。

関わりしろ

まちづくりについて具体的に学んでみたい方
能代に思い入れがある方
木工に興味がある方

① 全国の大学からのインターン

「棚貸し Coten」出展者

カフェの壁面スペースにある棚をお貸しします。「いつかお店を持ちたい」という方や「趣味で作っているものを販売してみたい」という方のはじめの一歩を応援します。

1区画:1,000円~3,000円/月

③マルヒコ視察プラン

◎内容               
マルヒコの取り組み説明
施設見学案内
comore、鴻文堂、案内等
所要時間は1時間半〜最大2時間 

◎視察費用
10名まで 20,000円/組
11名〜 +2,000円/人

④不定期イベントへの参加・商品の購入

まちづくりに関するトークイベント・家守舎が関わるイベントや商品を紹介しています

情報はInstagramより
https://www.instagram.com/noshiroyamori

問い合わせ先

合同会社のしろ家守舎
〒016-0831    秋田県能代市元町4-6
マルヒコビルヂング2F
Mail : info@noshiroyamori.com

川村忠寛

川村忠寛

秋田県八峰町

第7期ハツレポーター

1983年生まれ、秋田県八峰町出身・在住です。一時故郷を離れましたが、2011年に帰郷して町役場職員として公務に従事しています。2022年に非営利法人を立ち上げ、本業の傍ら、まちおこし・まちづくりにも取り組んでおり、その活動の一環としてハツレポーターに参加しています。

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