関わった人のパワーで打ち上げられる紙風船。人をつなげ地域を強くする上桧木内の紙風船上げ【秋田県仙北市】

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雪の夜空に灯りのともった紙風船が次々と打ち上がり夜空に舞い上がる。秋田を代表する小正月行事、仙北市の上桧木内(かみひのきない)の紙風船上げ”が2024年2月10日に開催されました。

雪が少なく道路状況に心配がなかった影響からか、開催当日は15時の開場を待たずに会場には多くの人が訪れ、木の枝に吊り下げられた小型の紙風船を買い求めたり、ずらりと並ぶキッチンカーで販売される温かい飲み物や食べ物を楽しむ観光客や家族連れで賑わいました。

新型コロナウイルス感染症が5類へ移行されて初めての開催であり、県内外からたくさんの来客が予想された今回、運営の人手不足を担う関係人口として、筆者自身が会場スタッフとして関わりました。

真剣な表情で願い事を紙風船に託す多くの人

いよいよ神事が始まり会場の雰囲気は一転、その瞬間空から雪が舞い降り、神聖な空気に包まれました。

紙風船上げの1番の見どころは18時と19時に行われる一斉打ち上げ。中でも、19時には会場を訪れた人の願い事が書かれた高さ6メートルの大きな紙風船が2つ打ち上がります。

「みんな笑顔で過ごせますように」「世界平和」「お父さんの病気が良くなりますように」「家族仲良く」「高校合格できますように」など、願い事を書くコーナーにはひっきりなしに人が訪れ、みな真剣な表情で紙風船に願いを託します。

いくつかに折り重ねられた紙風船は願い事で埋め尽くされ、会場スタッフがその度に面を変えて順番を待つ人を誘導します。それは最後の打ち上げ間際まで休みなく続きます。

鉄道ファン、鉄道写真の愛好家たちにも人気のある紙風船上げ

会場のそばを通る秋田内陸縦貫鉄道も打ち上げの時間に合わせ、乗客に紙風船や花火を楽しませるために列車のスピードを落として運行します。

関東から来たという50代の男性は、「趣味で鉄道の写真を撮っているが、列車に加えて花火と紙風船が一緒に撮れる、他にはないいい場所だ」と鉄道ファンの間でも話題だと話してくれました。紙風船上げは鉄道写真や鉄道の愛好家にも注目されています。

海外にも波及している紙風船上げの魅力

※仙北市役所観光課課長の泉谷さん

「今回の紙風船上げには、台湾を始め海外からの観光客の方に多く来てもらっているように感じます。また、昨年秋に羽田空港で開かれたイベントの関係者の方にも来ていただいているようです」仙北市役所観光課課長の泉谷衆(いずみたに・たみ)さんはそう話します。

2023年12月に台湾チャーター便が秋田空港に就航したことに加え、秋田県や仙北市によるSNSなどで、海外への多言語の発進力が強化されているほか、同年10月に「Find Your Sky in HANEDA 〜秋田県〜」と称し羽田空港で行われたイベントで紙風船上げの願い事を書くコーナーが設けられるなど、多方面から上桧木内の紙風船上げの認知が広まったことがうかがえます。

「台湾や東南アジアでは天燈(てんとう)上げやコムローイなど、紙風船と同じように願いを込めて上げる文化があります。同じような文化でも、ここまで大きい紙風船を上げるのはここだけなんですよ。そこに注目して驚いてもらえているのは嬉しいことです」

今回、台湾や香港など海外から参加された方がとても多く、紙風船への願い事も中国語で書かれたものも多く見られました。また、欧米からの観光客も目立ったほか、海外メディアからの取材もあり、訪れた人にしかわからないその臨場感と興奮は国内だけにとどまらず海外にも波及しています。

関係人口の参加が伝統を残す今後の重要な鍵

紙風船上げの準備は前年の12月から始まります。

上桧木内の8つの集落では、それぞれの会館に住民らが集まり、紙の裁断からその年の願いを表現する絵柄を考えたり描いたり、風船の形に貼り合わせるなどの一連の作業を共同で進めています。

※観光協会の石郷岡宗幸さん

「紙風船は最盛期には100個上がっていましたが、今回は50個ほど。高齢化に伴い紙風船作りに関わる人が減り、数が限られてきています。紙風船上げの来場者数は昨年は3500人でしたが、2024年の開催は6500人もの人出があったと保存会では推定しています。海外からも来て喜んでくれる人がいる。紙風船の数を減らすことなく伝統行事を残していくにはマンパワーが必要です」

(一社)田沢湖・角館(かくのだて)観光協会西木支部長の石郷岡宗幸(いしごうおか・むねゆき)さんは、関係人口の参加が今後の重要な鍵になると話します。

※保存会会長の阿部明雄さん

また、上桧木内紙風船上げ保存委員会会長の阿部明雄(あべ・あけお)さんは「紙風船上げは、先代の方々が作り上げてきた伝統行事。紙風船を作るところから作業に関わってくれる人がいたら大いに盛り上がります。いっしょに紙風船を作る仲間になってください」と笑顔で話します。

作った人、参加した人。関わった人が皆ひとつになって紙風船を上げる瞬間。伝統が地域を強くする。

紙風船上げ打ち上げの様子、1分程度動画

いよいよ打ち上げの時間になり、ガスバーナーなどを使って風船内部に熱気を送り込むと紙風船は膨れ上がります。風船下部の竹輪の部分を持ち、熱気がいきわたるように静かに回転させます。

風船内に熱気が十分入り、取り付けられたタンポに火をつけ、タイミングを合わせて手を離すと、灯火によって鮮やかに照らし出された願い事やそれぞれの絵が描かれた紙風船が静かに夜空へ舞い上がります。

また、昨年クマ被害に悩まされた地域住民の願いを込め、「山に帰って静かに暮らしてね」とクマ型の紙風船も上がるなど、各集落が来てくれた人を喜ばせるための工夫が随所に見られました。

あちらこちらから紙風船が上がるたびに歓声が湧き上がり、祭りの熱気は最高潮に達します。

今回会場スタッフとして関わった筆者は、各集落の紙風船をつくる人、祭りの運営に関わる人、参加する人が同じ場所に集まり願いを込めて打ち上げられる紙風船上げのパワーに圧倒されました。

「8つある集落のみんなが紙風船上げに真剣に取り組んでいる。人手が減ってはいるけれど紙風船上げがあるから地域が結束している。だから地域の力が強いんです。見に来てくれる人がいるからこそ頑張れるし、そこに関係人口として関わってくれる人がいればなお一層頑張れる」と阿部さん。

地域の人同士のつながりが深くなければ伝統的な祭りを残していくのは難しいことです。伝統行事が人をつなげ地域の力を強くしています。そこに関係人口として参加し、「ただいま」「おかえり」といえる場所づくりをすることで地域はますます強くなり伝統が末永く続いていくのかもしれません。

「関係人口の受け入れは重要。これからも続けていきたいので興味があったら連絡をしてください!」と石郷岡さん。「一緒に作ってくれる人がいたらぜひ!」と阿部さん。お二人から、関わってくれる人をぜひ迎え入れたい!という力強い言葉をいただきました。

連絡先

(一社)田沢湖・角館観光協会

西木支部事務局長 

石郷岡宗幸

電話 0187-42-8480 

Eメール ishigouoka.muneyuki@gmail.com

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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