「花が咲いたみたいだよ、椎茸がひらいたときは」4万本の椎茸の原木と3組の夫婦の願いを継いでくれる人、募集【秋田県湯沢市】

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秋田県南に位置する湯沢市院内地区では55年前、出稼ぎのため湯沢から多くの人が出ていく状況にあった。そんななか、同級生の男性3人が、冬でもできる地元の仕事として、原木の椎茸の栽培を始めた。3人はこの地で結婚をし、3組の夫婦で椎茸栽培を続けた。

現在、3人の男性のうち1人が亡くなり、1人は椎茸の仕事が難しくなってしまった。後継者もいないため、4万本の椎茸の原木と設備は残された小松さんご夫婦が栽培を辞めてしまったら使われなくなってしまうのだという。「満開の花が咲くように椎茸がひらく楽しみや、椎茸栽培によってつながれた人の縁に支えられて生きてきた」という小松良一さん、公子さんご夫婦にお話を伺った。

「これからのことっつうと話すことは何にもない」

農事組合法人雄勝(おがち)椎茸栽培組合の小松良一さん・公子さんご夫婦は、55年に渡って湯沢市院内地区で原木の椎茸を栽培してきた。4万本の原木が広がる外の風景や栽培当初から今なお使われている設備を見ながら、良一さんは「これからのことっつうと(というと)話すことは何にもない」とこぼす。現在は小松さんご夫婦が中心となって椎茸栽培を続けているが、立ち上げて続けてきた同級生3人のうち1人は亡くなり、もう1人の方も椎茸の仕事をすることが難しくなってしまった。小松さんご夫婦がこの仕事を辞めれば、椎茸栽培も終わってしまう。

山がいっぱいあるから、山の木を使って椎茸栽培を

60年ほど前の院内地区で、中学を卒業した人の半分は就職して半分は高校に行くという状況の中、良一さんたち同級生3人は、中学を卒業した後、家の手伝いをしていた。当時、冬の時期になると、ほとんどの人は、外に出稼ぎに行って生計を立てていたそうだ。減反政策の影響や都市部で労働力が求められていた時代について、「ここさ、残ってるのが恥ずかしいくらい、みんなだーれもいなぐなって」と良一さんは言う。

良一さんたちが20歳すぎの時、「出稼ぎではなくて、ここに残って仕事をしなければ嫁さんも来ないのではないか」と思い、冬でもこの地で続けていける産業として、原木の椎茸の栽培を始めた。良一さんは、「山がいっぱいあるから、山の木を使って椎茸栽培をやりましょうと。山さ行って木ぃ切ってきて、初めは5千本、それから1万本と増えていって。そのうち嫁さんも来て」とはにかんだ。

「出稼ぎに行くことだけがステータスを得るわけではない」

「椎茸栽培をやっていてよかったと思うことはありますか?」とお聞きすると、公子さんは、「私らはね、普通に農家をやっていると、お家の仕事だけで、外に出るって機会はあんまりないと思うんだな。でもこういう仕事してると、その人たちの集まりってあるんだよ。椎茸であれば椎茸部会、きゅうりであればきゅうり部会って。椎茸部会には夫婦で行かせてもらったから、そこで外のことがわかるっていうか」と楽しそうに語る。そして「飲み会にも連れて行ってもらったし。若いからやっぱり、飲みたいわけですよ!」と笑う。

椎茸栽培はこの場所に仕事だけをもたらしたのではない。出稼ぎにいかず、この地で仕事をすることで、良一さんたちはこの地で結婚することができ、公子さんは家の外で人と語らう時間を持つことができた。

「出稼ぎに行くことだけがステータスを得るわけではない」、「家の仕事を手伝うことだけが人生ではない」ということを3組の夫婦が身を持ってしめすこととなった。

4万本の椎茸の原木に花を咲かせてくれる後継者を待つ

椎茸の原木がずらっと並ぶビニールハウスを見ながら、良一さんは「椎茸栽培にはナラの木がいいんだ。ここで使ってんのはコナラの木。ここに置いてると芽が出てくる」と語る。4万本の原木や設備は、そっくりそのまま使えるような状態だが、仕事を継いでくれる後継者はいない。

良一さんは、「椎茸菌が自分で生きていくためには、どれぐらいの水分あればよぐなるか、ってこともわかってるんだ。やりたい人がいたらそっくりそのままやらせるんだけどな」と話す。55年のなかで培われたノウハウを、ご夫婦から教えていただくなら今がチャンスだ。

公子さんは、「圧巻だよ。花が咲いたみたいだよ、椎茸がひらくときは!」と誇らしそうに教えてくれた。木から生えてきた椎茸の裏は真っ白で、本当に花畑のようになるのだそう。椎茸栽培によってこの地で人とつながって生きてきた小松さんご夫婦は、4万本の椎茸の原木に花を咲かせてくれる後継者を待っている。

取材:農事組合法人雄勝椎茸栽培組合の小松良一さん・公子さん

一條花さんの投稿

ふるさとミライカレッジ×ローカリティ!in湯沢院内

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「ふるさとミライカレッジ」は、秋田県が進める地域づくりワークキャンプです。
今回はカリキュラムのひとつとして「ローカリティ!」が湯沢市院内地区においてワークショップを実施し、参加した大学生たちが地域の人に出会い、祭りや地域の宝、そして日々の営みを取材をし、記事制作を行いました。

その土地に、何か想いを持てば、 そこはあなたの大切なふるさとになります。 大学生のフレッシュな視点で綴られた、地元愛爆発の素敵な記事をご紹介します!

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