「山、地熱、そして人のつながり」地域資源を生かした活気ある温泉街を目指す小安峡温泉きらめき女子会【秋田県湯沢市】

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あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。

峡谷の脇から98℃の熱湯と蒸気が轟音と共に噴き出す”大噴湯”で知られる湯沢市の小安峡(おやすきょう)温泉には、地域内や近隣のみならず、全国から多数の観光客が訪れています。この類いまれな文化を守り、未来につなぐチャレンジをしているのが温泉街のおかみさんを中心とした団体「小安峡温泉きらめき女子会」です。地域の魅力の可視化や、関係人口を活用した地域づくりといった団体の取り組みについて、代表の佐藤恵さん(47)と副代表の柴田昌美さん(60)に話を伺いました。

江戸時代から続く、街道の温泉地「小安峡」。東日本大震災の逆風を乗り越え、おもてなしの文化を未来に繋ぐおかみさんたちのチーム

小安峡温泉は、仙台と秋田を繋ぐ小安街道(現在の国道398号)の中継地点として発展しました。小安街道は、江戸時代に仙台藩の名物だったほやを秋田藩に届けるために使われたことから、別名「ホヤ街道」と呼ばれ、当時から多くの人で賑わっていました。小安峡は山がちで稲作に向かない土地です。そのため、人々はきのこや山菜、川魚といった山の恵み、そして地熱というエネルギー資源と共に生活してきました。それらの自然の資源を生かした旅人へのおもてなしが小安峡温泉の原点であり、それが今にも受け継がれています。

小安峡には、秋田県内はもとより、仙台や、栗駒山麓をまたいだ隣県、岩手から多くの人が訪れています。特に、国道398号の冬季通行止めが解除される春には例年多くの来客が見込まれるのですが、2011年は東日本大震災で道路が閉鎖された影響で、来客が大幅に減ってしまいました。そのような逆風の中で2012年に立ち上がったのが「小安峡温泉きらめき女子会(以下きらめき女子会)」です。

きらめき女子会の集合写真。下中央が佐藤さん、下左が柴田さん。

代表の佐藤さんは「地域全体が『人が来なくて大変だ』というムードになっていました。そのような状況を自分たちで何とかしようと思って、温泉街の宿のおかみさんらと集まったのが始まりです。女性の活躍を推進する湯沢市の後押しもきっかけの一つでした」と結成当時を振り返ります。

「地元を知り、近隣の地域と繋がり、地域外の人が参画する」きらめき女子会をきっかけに生まれる関係人口の輪

きらめき女子会が最初に取り組んだのが、温泉街周辺の観光マップづくりです。「人を呼び込むためには、まず自分たちが地域のことを知らなくてはいけません。ガイドの会に小安峡周辺を案内してもらって、魅力を再発見し、可視化したのが最初の活動でした」と佐藤さん。

柴田さんは、「小安峡温泉を深く知ることで、周りの地域のことももっと知りたいと思うようになりました。市内や近隣の地域との連携を意識し始めたのもこの頃です」と続けます。2012年に「ゆざわジオパーク」が認定され、地域の資源が可視化されたことも、市内や近隣地域との連携、行き来が進んだことのきっかけの一つです。

きらめき女子会と一緒に、子宝神社に奉納する枕をつくる大学生たち。地域との特別な関わりが生まれる。


さらに、きらめき女子会の活動をきっかけに小安峡温泉に「関係人口」として関わる人も増えています。首都圏の大学生のグループが、温泉街の子宝神社に奉納する枕づくり(枕を家に持ち帰り、抱いて寝ると、子宝に恵まれるという言い伝えがある)を手伝ってくれることもありました。その大学生や、枕のお陰で子宝を授かった人が再び小安峡を訪れる時には『もはやよそ者ではない』、そんな感覚になっているそうです。

小安峡の冬と言えば「しがっこ祭り」。宿のおかみさんならではの祭りへの関わり方

こうして、新たな人の流れができつつある小安峡の冬を彩るのが「しがっこ祭り」です。大噴湯周辺の峡谷にできる高さ20m、幅80mにわたる巨大なしがっこ(つらら)をライトアップする祭りには、湯沢市内外から多くの人が訪れます。

ライトアップされた巨大な「しがっこ」が彩る小安峡は圧巻。

きらめき女子会のメンバーはほとんどが宿泊業に携わっています。その関係から、祭りの会場でスタッフとして活動することが難しく、スタッフにおにぎりを持っていったり、お客さんに振る舞う豚汁や甘酒を作ったりする裏方の役割を担っています。また、FacebookやInstagramでの祭りの告知や、それぞれの宿でのチラシの配布など、PRの面でも大いに活躍しています。佐藤さんは「会場での参加が難しく、サポートとしてやれることはあまりないけれども、やれることをやりたいなと思っています」と話します。

会場もカラフルにライトアップ。子どもから大人まで、地域内外から多数の人が訪れる

こうして、地域になくてはならない存在となっているきらめき女子会は、地域の会議への出席依頼も増えているそうです。「できる範囲内で行って、意見を述べるようにしています」と佐藤さん。このような機会でおかみさんたちの意見を取り入れていくことが、地域づくりや関係人口づくりを前進させるきっかけになるかもしれません。

「資源豊かな陸の孤島」だからこそのチャンス。関係人口と共に創る、21世紀の温泉街の姿

小安峡温泉は今後どのような姿を目指していくのでしょうか。

ゆざわジオパークのガイドも務める柴田さんは「古い資料には『小安峡温泉が大人気』という記述がたくさん残っています。ゆったり落ち着けるひなびた温泉街は珍しいので、現代人のニーズに沿った形で活気を取り戻していきたいですね。長期滞在用の湯治パックのプランがあるのですが、滞在中に貝沼(温泉街の近くの沼)でボートで立ち漕ぎをするサップを楽しんだり、渓流釣りをしたりできる滞在モデルも考え中です」と、新たなチャレンジに意欲を見せます。長期の滞在で、関係人口として地域に関わる余地ができてくるかもしれません。

一方で、課題もあります。佐藤さんは「小安峡には天然資源がいっぱいあるのですが、『陸の孤島』と言われるように、交通の便がいい地域とは言えません。通信インフラや二次アクセスの確保は大きな課題ですし、きらめき女子会や地域内のリソースだけで地域の魅力や現状を伝えるのには限界がありますから、地域外との連携が必要です」と強調します。その時に力になるのが、これまで培ってきた、そしてこれから小安峡に関わっていく関係人口の存在です。

しがっこ祭りのお手伝いや、春のクリーンアップ活動、花壇の整備に、子宝神社の枕づくり、日頃の情報発信活動の支援など、きらめき女子会を通じた小安峡温泉への関わり方はたくさんあります。これらの活動に地域外の人が参加することで、地域の人が地元の魅力を再発見するきっかけになるのです。

花壇の整備活動の様子。丁寧に整備された花壇が、昔の街道の賑わいを思わせる。

柴田さんは、「活気ある地域を実現するためには、地元の子どもたちが『一度地域を離れても、将来は地元に帰ってきたい』と思えるように、地域のことを伝えていく必要があるのではないでしょうか。そういう場面で、外から来た人の視点が生きると思います」と、交流の輪、関係人口の広がりに期待を込めました。


関係人口としての関わりしろ

・しがっこ祭りのお手伝い

・クリーンナップ活動

・花壇の整備

・子宝神社の枕づくり

お問い合わせ先

小安峡温泉きらめき女子会

公式Facebookページ
公式Instagram

畠山智行

畠山智行

神奈川県横浜市

副編集長

ローカリティ!エヴァンジェリスト
ふるさと:
宮城県仙台市(出身地) 
秋田県湯沢市(自分で選んで移住した土地その1) 
神奈川県横浜市(自分で選んで移住した土地その2)

何気ない日常がどんなに尊く、感動に満ちているか、そのことに読者の皆さんが気付けるメディアに成長させていきたいと思います!

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