ローカリティ!時代の開拓者たち

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沖縄から世界へ。歴史と多文化が交差する土地で挑む、国際バカロレアの教育【沖縄県那覇市・南城市】

4 min
  • 南城市
  • 沖縄県
  • 那覇市
  • オキナワインターナショナルスクール
  • 国際バカロレア
  • 真理の探究者

沖縄という土地には、戦争の記憶、基地とともにある現実、多文化が交差してきた歴史があります。そうした土地の文脈を土台に、「人権と平和」「自然環境との共生」「多文化理解」を軸とした探究教育を実践してきたのが、沖縄初かつ唯一の国際バカロレア一貫校であるオキナワインターナショナルスクールです。

国際バカロレアとは、多様な文化への理解と尊重の精神を通じて、より良く、より平和な世界の実現に貢献する、探究心・知識・思いやりに富んだ若者の育成を目的とした国際的な教育プログラムです。

オキナワインターナショナルスクールは、2003年に英語環境での幼児教育からスタートし、初等教育課程、中等教育課程、ディプロマ・プログラムへと歩みを重ねてきました。

同校が掲げるのは、すべての学習者が「真理の探究者」となること。民族・国籍・言語・宗教・政治の違いを超えて互いを理解し、尊重しながら、自ら課題を見出し、考え、行動し、社会へより良い変革をもたらす人を育てることを目指しています。

なぜ沖縄でこの教育をやるのか。なぜ「真理の探究者」を育てるのか。理事長の知念正人(ちねん・まさと)さんに、その思想と挑戦、そして未来像を聞きました。

沖縄だからこそ生まれた教育思想

2003年、英語環境の幼児教育から始まったこの学校は、当初から現在の形を描いていたわけではありません。成長の中で、「なぜこの教育をするのか」という問いと向き合いながら、磨いてきたと知念さんは語ります。

原点は、沖縄という土地そのものです。

沖縄戦で多くの県民が犠牲となった歴史、今なお続く基地問題、自然とともに成り立つ地域社会、そして琉球王国以来、多文化と共生してきた歴史。こうした背景が、学校の教育観の土台になっています。

「平和は沖縄では『観念』ではない。生きたテーマである」
「沖縄の自然を守ることは、暮らしや地域の未来を守ることでもある」
「沖縄は日本の南の入口。多文化理解は“英語ができること”ではなく、共生の知恵」

知念さんが取材のなかで語った言葉どおり、理念として言語化された「人権と平和」「自然環境との共生」「多文化理解」の三本柱は、外から持ち込まれたものではなく、この土地から育まれてきたものでした。

つまり、同校が掲げる理念は、沖縄であるからこそ生まれた教育思想なのです。

世界基準の教育を沖縄でどう実現するか

英語環境での幼児教育から始まったオキナワインターナショナルスクールは、2005年に小学校設立を見据えた時、大きな選択に向き合いました。当初取り組んでいたモンテッソーリ教育を発展させる道もありました。モンテッソーリ教育とは、子どもが本来持つ自己教育力を引き出すため、発達に応じた環境を整えることを重視する教育です。

しかし、その先に設立を予定していた中学部・高等部まで見据えると、それだけでは「その先まで貫く教育の柱」として弱さも感じていたといいます。

そこで知念さんが着目したのが、国際バカロレア(International Baccalaureate、以下IB)でした。

「ローカルを学んでグローバルへ。英語だけではないというところも、私たちの考え方に合っていました」

さらに決め手となったのが、沖縄にいてもグローバルスタンダードの教育を維持できる教員育成の仕組みでした。ただ、導入はゼロからの挑戦でした。校内に経験者はおらず、コーディネーターを育てるところから始まり、認定取得まで5年を要しました。

「大変だったことしかないですね」知念さんはそう笑いながらも、その言葉の奥に、ゼロから教育の基盤を築いてきた時間の重みをにじませます。

こうして同校は2011年に認定を取得しIB認定の一貫校として歩み始めました。当時、日本国内ではまだ限られていたIB認定校も、その後大きく数を増やしていきました。その中で知念さんは、改めて学校の存在意義を問い直したといいます。

「国際バカロレアが先に走って、学校が後ろについていくようになってはいけない。だからこそ、なぜ沖縄でこの教育を行うのかという理念を、改めて立て直した」

IBは看板ではなく、沖縄から世界につながる人を育てるための柱。その思想の核として、「人権と平和」「自然環境との共生」「多文化理解」という理念も、より明確になっていったのです。

教職員の役割が変化。沖縄から世界を目指す生徒も

オキナワインターナショナルスクールの教育を支えてきたのは、まず教職員の変化でした。探究教育では、先生が一方的に答えを教えるのではなく、生徒が自ら問いを立て、調べ、考え、表現する過程を支えることが求められます。そのためには、先生自身がIBの考え方や探究の意味を深く理解していなければなりません。

先生たちは研修や実践を重ねながら、知識を教えるだけでなく、生徒の問いを引き出し、学びの方向を支える役割へと変わっていきました。

その積み重ねの先に、生徒たちの変化がありました。同校で学んだ生徒たちは、自ら進路を選び、海外の大学へ進む姿も見られるようになりました。それは、沖縄から世界へと学びを広げていく同校の教育が、確かに形になり始めた瞬間でもありました。

AI時代に、変化を生み出すグローバルエリートを育てる

沖縄にいながら世界とつながる学びも広げています。台湾との交流や、ニュージーランドの学校との連携もその一つです。知念さんは、沖縄は多文化の歴史を持つ一方で、首都圏ほど多様な人々と日常的に出会えるわけではないといいます。

「首都圏以上に、海外とのつながりを持たないと多様性は足りない」

だからこそ、学校の外にある世界と意識的につながる。沖縄という土地に根ざしながら、世界と往復する学びをつくることも、同校が目指す教育の一部です。

その先にあるのが、同校の掲げる「グローバルエリート」の育成です。知念さんが語る「グローバルエリート」は、一般的な意味でのエリートではありません。

「それぞれの得意を生かし、自立して社会をより良くできる人」

それぞれの現場で課題を見つけ、変化を生み出せる人。そういう意味でのリーダーを育てたいといいます。さらに未来を語る中で、知念さんはAIについてこう話しました。

「AIに操られる人間を育ててはいけない」

便利な技術としてではなく、人間が主体的に活用するものとしてAIを見ること。

「私たちの教育を受けた生徒には、AIを操る側になってほしい」

この言葉には、知念さんの教育観がにじみ出ています。

街の未来を描き、ゼロから可能性を見出す

知念さんは学校を「知識を教える場所」にとどまらず、「未来を描く場」として捉えています。

沖縄には、課題がたくさんあります。だからこそ、その課題をただ受け止めるのではなく、子どもたち自身が「どんな街なら幸せか」を考え、未来のあり方を描いていくことに価値があるといいます。

「子どもたちにテーマを渡して、どういう街になったらあなたは幸せなのかと問うことがあります。それは夢を描かせるという意味では、とても価値が高いことだと考えます」

知念さん自身もまた、沖縄という土地に必要な教育を問い続け、ゼロから同校を築き上げてきました。ないところから可能性を見つけ、形にしてきたその歩みを、今度は子どもたちの学びにしているのです。

戦争の記憶、豊かな自然、多文化の歴史、そして地域課題を抱える沖縄だからこそできる教育があります。

沖縄から「真理の探究者」を育てるオキナワインターナショナルスクールの挑戦は、地域に根ざし世界とつながる学びのあり方を示し、日本のこれからの教育を先導する可能性も切りひらいています。

もっとも印象に残った言葉:
「平和は沖縄では『観念』ではない。生きたテーマである」
「沖縄の自然を守ることは、暮らしや地域の未来を守ることでもある」
「沖縄は日本の南の入口。多文化理解は“英語ができること”ではなく、共生の知恵」

※写真はすべてオキナワインターナショナルスクール提供

学校情報

学校名:オキナワインターナショナルスクール(OIS)
取材対象者:理事長 知念正人さん
創立年月:2003年4月

理念:全ての学習者が「真理の探究者」と成るべく、教育という視点で⺠族・国籍・言語・宗教・政治の違いを超えて、お互いを理解し、尊重し、交流を図りながら学習者自ら課題を見出し、考え、行動し、社会へより良い変革をもたらすことを志高く掲げるグローバルエリートを育てます。

使命:私達の教育は「人権と平和」、「自然環境との共生」、「多文化理解」の3つを基軸とした探究教育を力強く推進するために、「地域から国際社会を理解する力」、「コミュニケーション力」、「論理的思考」、「数理的分析力」、「ICT・AI スキル」、「批判的・創造的思考」、「高度な倫理観」を各教科間で連携する教育カリキュラムを提供します。

所在地:
那覇キャンパス 沖縄県那覇市壺川2-13-26 4F南城キャンパス 沖縄県南城市玉城富里143
ホームページ:https://ois.ac.jp/

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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