
株式会社かつあき 代表取締役
Katsuaki Sato
佐藤 かつあき氏
ディレクションはアーティストと見る人をつなぐ翻訳家の役割だ。そう話すのは、熊本に拠点を置く株式会社かつあきの代表取締役・佐藤かつあき(さとう・かつあき)さん。クリエイティブディレクターとしてブランディングやデザイン全般に携わっています。20年近くクリエイティブ業界に身を置き、たどりついた「行動の共有」と「唯一性」、そしてこれから取り組みたい「クリエイティブ業界への恩返し」とは。佐藤さんにお話を伺いました。
デザイン from 熊本が始まったきっかけ
デザインに関わる仕事を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
僕は高校卒業後は大学へ進学せず、福岡に住んでいました。もともとイラストや漫画を描くことへの憧れがあり、賞にも挑戦していましたが通らず。でもクリエイティブな仕事をしたくて、たどり着いたのがグラフィックデザインでした。デザイン事務所でアルバイトをはじめた当時はマッキントッシュで原稿を作る作業が楽しくて仕方なかったですね。
そこから仕事に誘われて上京し、デザイン事務所のアシスタントをしていました。ファッションや不動産、スポーツなど幅広い業種の広告や印刷物、パンフレット制作をしました。
そこから九州・熊本に帰ってこられた経緯を教えてください。
30歳で結婚して、子どもができたことをきっかけに2010年に九州へ帰りました。僕は長崎県佐世保市出身ですが、妻が熊本県出身なので熊本にしました。

いずれは会社を立ち上げたいという思いはお持ちでしたか?
実は最初は起業するつもりはなく、就職しようと思っていました。ただ、これがなかなかうまくいかず、一時は百貨店のケーキ屋さんでアルバイトをしていました。それで「仕事が見つからないなら自分でやってみよう」と思い立ち、2014年に個人事業主として創業。そこから税理士さんからの勧めで、2018年に株式会社かつあきを設立しました。
やはり熊本でのお仕事をすることが多いのでしょうか?
最近は割合的には熊本での仕事が多いですが、福岡や東京での仕事にも関わらせてもらっています。仕事に関して、熊本にいてもまったく問題は感じていないですね。SNSの発達もあり「こういう人が熊本にいるんだ」と伝わりやすくなったと思います。
行動の共有と唯一性から生み出されるデザインとは

現在の事業内容について教えてください。
大きく分けて、受託仕事(クライアントワーク)と自主事業(セルフプロデュース)の二つの仕事があります。僕はクリエイティブディレクターとして、ブランディング、クリエイティブなど全般的に関わっています。具体的にはグラフィックデザイン、映像制作、Webサイトの作成、店舗コンセプト、設計、イベントの企画・実施など幅広いことに関わっています。
自治体が管理する公共空間のクリエイティブディレクションや、イベントのディレクション、企業や商品のブランディングも手掛けています。いずれにしてもディレクターとして、コミュニケーションで方向性を定めていくことが多いですね。
具体的な事例を教えてください。
熊本北部にある南関町(なんかんまち)にある株式会社ヤマチクさんのお仕事は7〜8年と継続的に依頼をいただいていて、代表的なクライアントです。ヤマチクさんは3代続く企業で、竹のお箸を作っています。僕は企業全体・商品・販売店舗のブランディングを担当しています。最初のきっかけは3代目代表取締役の山﨑彰悟(やまさき・しょうご)さんが僕に依頼してきてくださり、それ以来、山﨑さんのビジョンのもと、業績拡大のためのクリエイティブを二人三脚で行っています。
クライアントワークは、1回仕事が来て、納めたら終わりになることが多いです。しかしそれでは課題を一つ解決して終わる関係になってしまうため、深く関われず、長期的な目線が持ちにくいという欠点があります。「伴走で支援をすること」が理想だと考えていた時に、ヤマチクさんとは、この考えがお互いに合致して、今に至ります。もちろんそれだけが原因では無いのですが、すごい勢いで成長されていると感じています。
二人三脚とは、具体的にどういったことをしてこられたんでしょうか?
ヤマチクさんが直売店を作るプロジェクトの時に、新潟県燕三条や福井県鯖江、東京にも一緒に視察へ行き、いろいろなお店やプロダクトをみました。すると同じ景色を一緒に見ることになりますよね。いざ直売店に向けてアイデアをアウトプットしていく時に、それが生きていきます。
「ランドマークを作りたい」となったとき、「お店の前に箸を建てよう」と2人のなかで、すぐその発想にたどり着きました。なぜなら、視察の際に「燕三条は金物の町で、駅にフォークが刺さっていて、産地の顔になっていた」という共通認識を持っていたからです。もしどちらか一方しか見ていなかったら、「お店の前に箸を建てよう」と伝えても、「箸はご飯を食べるものだから、炎上するかもしれない」となるかもしれませんよね。でも僕たちは同じランドマークを見て、あれが人に不快感を与えるものではないと体感していました。それで共通認識を持って、お店の前に箸が建てられている様子を想像しながら話を進められました。
ランドマーク以外に共通認識を持って進められたことはありますか?
はい、あります。もともと南関町は人が多く訪れる場所ではなく、おしゃれな雑貨屋さんでは地元の人も入りにくいと考えました。地域にフィットする直売店と考えると「お土産屋さん」だと、すんなり結びつきましたね。お土産屋さんなら、地域の方も気軽に入れますし、学校の先生や銀行員など転勤をする方にもギフトショップとしても活用できる。市場のリアルな姿を一緒に見せていただいたので、おしゃれな雑貨屋ではなくお土産屋さんにしようと、たどり着いたわけです。
僕はおもしろいアイデアを阻害するものは「行動の共有」ができていないからだと、その時に思いましたね。同じものを見て、知って感じることが、すごく大切だと思います。

制作へのこだわりを教えてください。
クリエイティブの世界では、もう「オリジナリティは生み出せない。何かの模倣にしかならない」と言われています。しかしその中で、どうやって差別化を図るかを考えると「ユニークさ」だと僕は思います。
完全なオリジナルは難しいですが、業界では常識ではないことを掛け合わせて、その業界で唯一のところを狙う。そのポイントを毎回探しているような感じですね。ユニークさとオリジナルがごちゃ混ぜになると窮屈になってしまう。そうなった時にはオリジナリティは捨てて、唯一性を優先させていますね。丸いものを重ねて、合わせて一番重なっているちっちゃなところが唯一性であると思っています。

翻訳家と育成を担うディレクションで、クリエイティブな世界へ恩返し
どのような会社にしていきたいとお考えですか?
アーティストと見る人をつなぐ翻訳家の役割を担いたいですね。それは絵や彫刻に限らず、ダンスなどの身体表現や演劇でも、すべての表現を対象に考えています。表現をする人は「良い」と思ったものを、すべて見せようとする傾向があります。「良い」がいっぱい詰まった「おもちゃ箱」のような、ごちゃ混ぜの状態になっていることが多いです。しかしそれではお客さまは見にくいですし、アーティストが伝えたいことが伝わりにくくなってしまいます。僕はおもちゃ箱の中に入れるものの取捨選択をしてあげることが、ディレクションの役割だと考えています。それを今後も続けていけるようにしたいですね。
その翻訳を体感できるイベントが開催されていると伺いました。どういったものなのでしょうか?
最近はアートギャラリーイベント「スーパーマーケット」を開催して、熊本で絵を描いている方々の作品を展示販売しています。作る側の人間は意外といっぱいいますが、伝える側の人間は、実はあまりいないです。そのため僕の役割としては、絵描きの人たちの作品の「どこがおもしろくて、どう見たら良いか」を伝えることをしています。僕が行っているディレクションは、デザインやアートとの相性が良く、カチッとハマりやすいですね。アートの世界はおもしろいですよ。

アートギャラリーイベント「スーパーマーケット」での様子
今後やってみたいことは、どういったことを考えていますか?
僕は20年ほどデザインやクリエイティブなことに携わってきました。食べさせてもらってきたこの業界に対して、恩返しや貢献をしたいと思っています。そのために原石を発掘して育てる最初の一歩目になりたいですね。才能のある人は遅かれ早かれ、世の中に絶対に出てきます。それは、1日でも早い方が良いので、手助けをしていけたらと思っています。クリエイティブやデザインの部分は若手に任せつつ、ディレクションや育成の方に注力もしていきたいですね。
取材日:2025年7月18日
株式会社かつあき
- 代表者名:佐藤 かつあき
- 設立年月:2018年11月
- 事業内容:クリエイティブ全般、印刷物のデザイン、映像制作、Webサイト制作、ディレクション業務など
- 所在地:〒860-0004 熊本県熊本市中央区新町2-2-23
- URL:https://satokatsuaki.com/
- お問い合わせ先:k@satokatsuaki.com
この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。