兵庫県中東部に位置し、江戸時代の町並み、歴史的な城跡や伝統工芸が残り、のどかな田園風景が広がる丹波篠山市。日本の文化・伝統を伝える「ストーリー」を持つ地域として、文化庁からは「日本遺産」として認定されています。
そんな丹波篠山市は、「丹波黒豆」「丹波栗」「丹波焼」など全国に知れ渡る名産品・明産物が多く、街に住まう人々により「丹波篠山ブランド(※1)」が築きあげられ、守られてきました。
※1:兵庫県丹波篠山市 公式ページ「丹波篠山ブランドをかたちづくるもの」参照
その「丹波篠山ブランド」のなかでも、一度出会えば忘れないインパクトのある名産物の一つが「山の芋」です。江戸時代から丹波篠山地域で伝統的な手法を守って育て続けられてきたという「山の芋」。真っ黒でゴツゴツした石のような形は、まるで山から掘り出された原石のようです。丹波篠山の商店街に並ぶのを見た時は、一瞬でその珍しい造形に目を奪われました。
ゴツゴツで真っ黒な皮をむくと、外見からは想像できないような美しい純白の肉質が現れます。
そして「山の芋」の特徴はなんと言っても、その粘り強さです。長芋と比べ、粘着物は長芋の4倍もあるそう。すりおろしてみると、「もったり」というレベルではなく、置いた形がそのまま残るほどの粘着度です。これは確かに、山芋や長芋とは全く違う食べ物だと言っても良いでしょう。
今回は、「山の芋」の特徴を生かしたお料理を、実際に食べてみました。
まずはシンプルにすった「山の芋」に卵の黄身をのせ、青のり、海苔を合わせて。「山の芋」の力強い風味と、卵のまろやかさ、海苔の磯の香りが混じりあい、食欲をそそります。山芋のようにサラサラと口に運ぶのではなく、一口一口をじっくり味わうことができます。ご飯にも合いますが、お酒のあてにもうってつけですね。
次は、丹波篠山の地元でも食べられるという小麦粉なしのお好み焼きに。すった山の芋、卵、酒、醤油を混ぜて焼くという、とてもシンプルな料理です。芋の旨味と甘さが加わるだけでなく、芋をすりおろした時に入った空気のおかげでふわっふわの優しい食感が楽しめます。
そして、一番やってみたかったのは、すっただけの山の芋を団子状にして鍋に落として煮る食べ方です。地元では、名物「ぼたん鍋」などにも入れるそう。「“つなぎ”なしで本当にだんご状になるの?」という疑問を持ちながら、試しで作ったものがこちらです。
しっかりと団子状にまとまりました。程よく柔らかくもっちりとした山の芋の団子が、しっかりと出汁を吸っています。芋の旨味とコクが凝縮され、初めて食べる食感と味わいに、思わず舌鼓を打ちました。
上述した通り、山の芋は、旨味も粘りも強い、他にはない強烈キャラの芋です。しかし、一部のファンはいるものの、生産量が非常に少ないうえ少しずつ生産量が減っているそう。一つの芋種から一つしか収穫できないうえ、栽培までには多くの手間がかかるためもあります。
丹波篠山で味わい、取り寄せまでしたこの伝統野菜が途絶えるのは勿体なさすぎる……。少しでも多くの人に「山の芋」の魅力を知っていただきたいと思うと同時に、生産者の方を応援していきたいと感じました。