地元の人からは「なんもないよ」と言われがちな北海道苫小牧(とまこまい)市だが、迫力ある船の入港シーンや、錆びついた工場の佇まい、そしてひたすら広い空や海で心癒されるおすすめスポットがある。それが苫小牧西港(にしこう)エリアだ。
世界で初めて作られたという堀り込み式の港で、往来する船やトラック、そこで働く人々を見ていると、ここが北海道の物流拠点であることを実感できると共に、この街が誇らしくも思える。そして、季節や時間帯によって違いを魅せる港の景色は、その時にしか出会えない貴重な姿である。
工場夜景が密かな人気を呼んでいる苫小牧西港は、昼間は大きな貨物船の行き来を間近に見ることができるわくわくする場所だ。
工業地帯なので立入禁止区域が多く、立ち寄るハードルが高いイメージもあるが、安全に行きやすい場所をいくつか訪れてみた。
まずは安心安全に楽しめる場所、苫小牧西港フェリーターミナルすぐ横の入船公園だ。
あらかじめフェリーの到着時間を調べておこう。到着の30分前にはもう苫小牧西港の入り口に船体が入ってきている。
公園にある高台に登ると、目の前の対岸には石油タンクがずらりと並んでいる。
後ろを振り返ると、貨物船やキラキラ公園、そして天気が良ければ遠くに樽前山(たるまえさん)を望むことができる、ナイスビュースポットだ。
入港してきたフェリーはあれよあれよという間に大きくなり、目の前で、お尻を回して方向転換を始めた。車でいうならドリフトしながらパーキング、のような見事な動きで、きっちりと着岸し、船上と陸上の作業員が合図をしながら係留するためのロープを張っていく。待機していたトラックのヘッドがどんどん集まってきた。収納されていたランプウェイが開くと、順々に船の中に入っていき、トレーラーをつけて北海道各地へと走り去る。なんか、かっこいい…。
三井商船フェリーが、公園のすぐそばに着岸するので、迫力あるシーンを堪能できる。
堀り込み式の港の更に奥が気になったら、2km ほど東にある晴海(はるみ)公園へ行ってみよう。港のほぼ中央に位置し、火力発電所の裏側にあるので夜景撮影にはオススメの場所だ。
港の1番奥が見たくなったら、一度、北海道道259号線に戻ろう。片道4車線の大きな道路をさらに東へ2kmほど進むと右2車線が右折専用というダイナミックな交差点がある。ここを右折し、”勇払(ゆうふつ)・中央南ふ頭”方面へ向かう。
きついカーブと鹿やキツネなどの野生動物の飛び出しが多い地域なので、気を付けて運転したい。
右側にコンテナや自動車がずらりと並んでいるのが、”勇払ふ頭”。一般の駐車場は無いので、横目で、コの字に直角に掘り込まれた港の様子を確認する。
このふ頭には、ときどき珍しい船がいる。
ポップなイラストの高速船「ナッチャンworld」が自衛隊の物々しい訓練車を載せて来たり、私のお気に入りの木材チップ専用船が何本ものアームでクレーンゲームのようにワッシャワッシャとチップを荷下ろしする姿が、1つの工場のようでかっこいい。このタイプの船は製紙工場の近くだからこそお目にかかれるレア船だ。
さらに道なりに進み、石油配分基地方面へと向かう。
産業道路の終点のT字路を右折すると、巨大なオイルタンクがどすんどすんと建っている。さらに奥には火力発電所、製油所、無数のオイルタンクが並んでいる。
交通量が多いので、海岸へ向かって数本伸びている砂利道に入って車を停める。ここから、今では北海道で唯一となってしまった出光興産株式会社北海道製油所を眺める。
製油所の錆びついた鉄の大きな装置は、世紀末系のSF映画に出てきそうだ。晴れの日はもちろんいいが、初夏の濃霧に浮かび上がる姿も異世界感が極まって尚良い。
脱カーボンが進む今の時代、この姿を見られる事は貴重なのかもしれない。長い間私たちの生活を支え続けてくれた事への感謝の気持ちが湧いてきた。
続々と集まるタンクローリーが各地へ石油製品を運んでいく。
上を見上げると、360度空だ。そして太平洋。広い。
自然の一部になったような、何とも言えない解放感に包まれる。
人の営み、素晴らしい景色、色々なパワーをもらえる場所である。
(表谷知子さんの投稿)