障がい者を持つ家族の人生を丸ごと支える。「マッチョ介護」で業界底上げ。< 株式会社ビジョナリー 丹羽悠介さん>【愛知県名古屋市】

5 min 92 views

高齢者や重度の障害を持つ人々とその家族を支える介護業界において、単なる介護技術による機能面の支援だけでは不十分です。現代の介護業界では「支援者自身が充実した人生を送りながら、当事者と家族に寄り添う“人生のプロ”であることが重要だ」と考え、そんな介護の実現に挑戦し続ける企業があります。それが、愛知県名古屋市にある株式会社ビジョナリー(以下、ビジョナリー)です。

社会のニーズに応え、新しい価値を提供する挑戦を続けるビジョナリー。介護福祉の未来をどのように描き、どんな思いでその道を歩んできたのか。代表取締役の丹羽悠介さんにお話を伺いました。

寄り添うべきは当事者だけではない。家族の未来まで支援する

丹羽さんが展開する福祉事業のメインは、重度障害者向けのグループホームです。特に障害者の住環境に注力し、家族全体が安心して頼れる支援体制を構築しています。「重度の障害を持つお子さんを抱える親御さんにとって、もっとも大きな不安は『自分がいなくなった後も子供が安心して暮らせるのか』という点です」。そう語る彼の事業の核心には、当事者だけでなく家族全体を支えるという信念があります。

グループホームでは、家族全員が安心できるような環境づくりを目指しています。障害者支援の拠点としての役割はもちろんのこと、家族が抱える不安や希望にも寄り添い、介護を通じて家族の未来をともに築く場であることが重視されているのです。

グループホームにおける支援の様子

美容師から介護業界への転身。利用者に言われた「ありがとう」に心動かされ

丹羽さんは、美容師としてキャリアをスタートさせました。しかし、仕事をするなかで理想や求めていたやりがいとは違い、美容師としての仕事に疑問を感じるようになったそう。

丹羽さんは当時をこのように語ります。「美容師のときは、ヘアメイクで『この子のデートがうまくいくといいな』『モテるようになったらいいな』と考えながら仕事をしていたんです。それも大事なことなんですけど、そこに“人生の重み”みたいなものを感じたことがあまりなく、物足りなさを感じるようになりました」。“人間が存在する重み”を感じながら、生きる喜びに触れたい。なんとなくそうに考えながらも、路頭に迷い、心が沈み込んでいきました。

そんなとき、姉から誘われ、訪問介護の散髪のボランティア活動に参加したことがありました。そこである方の伸び切った髪を切ってあげると、とても喜んでくれ、くしゃくしゃな笑顔で「ありがとう」と言われたのです。丹羽さんは「感謝されてうれしいと思えたのは久しぶりで、心を動かされた。『これだ』と思った」と、当時を振り返ります。こうした体験がきっかけとなり、彼が23歳だった2008年に、介護事業の会社を起業しました。

それには主に3つの理由がありました。まず、丹羽さんは、最初の働き先に地元の名古屋を選んだことを後悔していました。美容業界の中心地ではない地域での就職に、彼はキャリアの頂点に到達するイメージを湧かせることができなかったと感じていました。

次に、業界の飽和状態も彼の不安を助長しました。「当時の美容業界は飽和していて、将来性もあまり感じないなと思いながら働いていた」と彼は回顧します。業界全体が飽和状態にあることで、新たな成長や革新の余地が少なく、それが彼の業界に対する見方に影響を与えたのです。

最後に、自身のキャリアに対する見直しも重要な転機となりました。丹羽さんは「カリスマ美容師の時代があって、働きたいと思って働いたけど、自分には勝ち上がるイメージが湧かなかった」と語ります。このように美容師としての将来に自信が持てなくなった彼は、他の可能性を模索するようになりました。これらの経験が、彼が新たな道を探求するきっかけとなったのです。

丹羽さんは当時の美容師としての活動をこのように語ります。「「美容師のときは、この子が今からデートでうまくいくといいな、モテるようになったらいいなと考えながら仕事をしてたんです。それも大事なことなんですけど、そこに人生の重さみたいなものを感じたことがあんまりなかったんですよ。」

そんな中で、ボランティア活動を通じて介護業界に触れる機会があり、そこで「ありがとう」と感謝されたことで、丹羽さんは「人の人生に関わる仕事の重み」を感じました。「なんか、ありがとうって人から言われるの嬉しいな、美容師になった時も人からありがとうって言われたくて始めたのにな」と感じたと、丹羽さんは当時の想いを語ってくれました。また「病んでたときに、僕も多分すごく自己肯定感が下がっていたので、こんな僕にありがとうって言ってくれる人いるんだって。」こうした体験が、彼が23歳のとき、介護事業を起業するきっかけとなったのです。

株式会社ビジョナリー代表取締役 丹羽さん

障がい者を持つ家族が描く“未来を実現する”仕事の魅力。忘れられないある家族の物語

「介護という職業は決して軽い仕事ではありませんが、それゆえにやりがいがある」と丹羽さんは語ります。彼の言葉には、利用者に喜ばれることで得られる達成感とともに、支援を必要とする家族に対する深い責任感が表れています。特に心に残っているのは、ある家族の変化の物語です。

この家族は、重度の障害を持つ息子が時折暴力を振るうため、家庭内での生活が困難になっていました。家族は「一緒に住みたいけれど、このままでは家族が崩壊してしまう」と同社に支援を求めました。そこで丹羽さんとチームのメンバーは、この家族に対する支援を開始しました。

すると、提供されたサポートによって、家庭は穏やかな生活を送れるようになったのです。以前は考えられなかった家族全員での外出も可能に。「親御さんからは『想像していなかった未来をありがとう』との言葉をいただきました」と丹羽さんはうれしそうに振り返ります。

丹羽さんにとって介護は「人生に深く関われる仕事」であり、それに伴うやりがいが最大の原動力となっています。介護士が直面する人材不足や、利用者の家族が自らの人生を犠牲にしながらも子供が生きられるよう支援するという課題に立ち向かい、障がい者本人だけでなくその家族が思い描く未来を実現するための支援を提供することが自身の使命だと、丹羽さんは語ります。

要介護者だけでなくその家族ごと笑顔で向き合うビジョナリーのメンバー

「マッチョ介護」の誕生。かっこいい介護で若者から関心を集める

丹羽さんのユニークなアプローチとして注目されるのが、「マッチョ介護」というコンセプトです。これは、スポーツ選手やボディビルダーのようなかっこいい人物像を介護業界に取り入れることで、若い世代に介護を魅力的な仕事として感じてもらうものです。「男の子はかっこいいものに憧れる」と丹羽さんは言いますが、実際にビジョナリーでは、筋肉を鍛えた介護士が活躍する姿をSNSやメディアで発信しています。

このマッチョ介護の取り組みは、単にかっこよさだけを追求するものではありません。丹羽さんは「介護は必ずしも華やかな仕事ではないかもしれませんが、介護者自身がかっこよくあることで若者が介護に興味を持ち、業界のイメージも変わる」と考えています。そのため、ビジョナリーでは、身体の鍛錬を通じて自己管理を高め、心身ともに充実したスタッフが利用者にサービスを提供しています。

筋骨隆々とした熱意あるビジョナリーのメンバー

介護士は「人生のプロ」であれ。自分を満たせる者こそ、他者を支えることができる

丹羽さんが介護士に求めるのは「人生のプロであること」。「介護士は自分の人生が充実していなければ、本当の意味で他人を支えることはできない」と考えています。つまり、利用者に最高のサービスを提供するためには、まず介護士自身が心身ともに満たされていることが大切なのです。

この理念のもと、ビジョナリーでは、スタッフの福利厚生に力を入れ、自己成長のためのプログラムも充実させています。例えば、定期的に心理学の先生によるサポートを受けられたり、介護士としてだけでなく、人生の相談役としても成長できたりするような環境が整っています。丹羽さんは、介護を「人生をサポートする仕事」として捉えており、介護士が「人生のプロ」であることを目指しています。

担い手の育成で変化する今後の介護の捉え方

丹羽さんは「介護は華やかな仕事ではないかもしれないが、それを担う介護士たちが『かっこいい』ことで、業界のイメージを変えることができる」と語ります。また、自らが見本となり、若者たちに「介護はかっこいい仕事」というメッセージを伝えたいと考えているそうです。特に男性介護士が増えることで、介護に対する社会的なイメージも大きく変わると考えています。

「男の子はかっこいいものに憧れる」という本質を捉えた丹羽さんは、筋肉を鍛えた介護士たちが、自信を持って利用者に接する姿を見せることで、若い世代の興味を引きつけようとしています。介護の現場に入ること自体が、かっこいい選択肢となりうるような社会を目指し、情熱を注ぎ続けているのです。

かっこいい介護を体現しているビジョナリーのメンバー

未来への展望。介護の枠を超えて世界へ

同社は、単なる地域の介護施設にとどまらず、業界全体の未来を見据えた取り組みを行っています。会社として掲げるビジョンは、グローバルに展開し、世界の福祉向上に貢献すること。外国人介護士の採用も進めており、異文化交流を通じて、日本の福祉サービスをより多様化し、幅広い視点でサービス提供を行うことを目指しています。丹羽さんは「介護は人間の根本的なニーズであり、国を越えて広がるべきもの。日本の介護技術を世界に広げ、どの国でも障害者や高齢者が安心して生活できる環境を整えたい」と語ります。

包括的介護で社会福祉を底上げ。目指すは“介護を再定義”

丹羽さんは、介護を「ただの福祉サービス」から「人生を豊かにするサポート」へと再定義すること」を目指しています。ビジョナリーのビジョンには具体的な行動が伴っており、「重度の障害者向けのグループホーム」を主軸に、訪問介護やデイサービスを展開し、それぞれの利用者に合わせた細やかな生活支援を包括的介護として提供しています。また、介護業界に若い人材を多く取り込み、関わった人材が長く働ける環境づくりに力を入れています。これにより、持続可能な介護サービスの提供が可能となり、社会全体の福祉の質を向上させることを目指しています。

この積極的な姿勢は、 新たな介護の形となり、高齢者だけでなく、すべての世代にとってより良い未来を築く基盤となっていきます。丹羽さんのビジョンが現実のものとなっていくにつれて、私たちの社会はより包括的で、サポートが手厚いものに変わっていくでしょう。

丹羽さんの取り組みは、介護業界全体に新たな光を投げかけています。グループホームを主軸に訪問介護やデイサービスを展開するなど包括的な生活支援を提供しているほか、介護業界で若い人材が長く働ける環境づくりにも力を入れている同社。また、どの国でも障害者や高齢者が安心して生活できる環境を整えようとグローバル展開を見据え、奮闘しています。これらの取り組みは、社会全体の福祉の質を向上させることを意味します。

同社は、介護を「ただの福祉サービス」から「人生を豊かにするサポート」へと再定義することで、利用者やその家族にとって「生きがい」を提供することを目指しています。この姿勢は、 新たな介護の形となり、高齢者だけでなく、すべての世代にとってより良い未来を築く基盤となっていきます。丹羽さんの描く未来が現実のものとなっていくにつれて、私たちの社会はより包括的で、サポートが手厚いものに変わっていくでしょう。

ビジョナリーの全体写真

聞き手:丸山夏名美 執筆:木場晏門

木場晏門

木場晏門

香川県三豊市

編集部記者

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です