「あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。
冬の東北を代表する小正月行事、“横手のかまくら”が2月15日から16日にかけて開催されました。今冬は暖冬の影響で雪が不足しており、祭りを主催する横手市観光協会は市外から雪を調達、職人がかまくらの補修に追われるなど、異例の開催となりました。そんな中、祭りには観光客やボランティアの関係人口など、多くの人が訪れました。祭り初日の様子を現地からお届けします(取材・イーストタイムズ 畠山智行)
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「雪が少なくてもきれいなかまくらを見せたい」。地域の創意工夫とおもてなしの心
「今年のかまくらは団結力が試されました」と力強い笑顔で語るのは、横手市観光協会会長の打川淳(うちかわ・あつし)さん。暖冬の影響で雪が溶け、「今年はかまくらが作れないのでないか」という不安の声も上がる中で無事祭りを開催し、国内外から多くの観光客を迎えられたことに安堵している様子でした。打川さんは「雪がないからこそ地域が一枚岩になれたのかもしれません。細かい指示を出さなくても、(祭りに関わる)各ユニットが最適な判断で動いてくれました」と、地域の団結力に太鼓判を押します。
これまでも雪が少ない年はあったそうですが、今年は異例の少なさでした。足りない雪は、東成瀬村や羽後町田代地区など、近隣の積雪の多い地域から集めてきました。熟練のかまくら職人の高橋勝則さんも「70年生きてきて、こんなに雪が少ないのは初めて。できれば、もっときれいなかまくらを見せたかった」と驚きの様子。かまくらを作るのには雪を積むのに1日、中を掘るのに半日かかります。それが今年は作ったそばから溶けていくため、きれいなかまくらを当日までに維持するのにかかった労力は例年の比ではありません。
それでも、会場には50基のかまくらが並びました。この季節にしては珍しく雨が降る中でしたが、祭りの開催時刻の18:00を待たずに、多くの観光客が訪れていました。
名物ミニかまくらにも点灯。地域外・県外から駆けつけた関係人口
横手のかまくらといえば、蛇の崎川原や横手南小学校を彩る約3,500個のミニかまくらに火がともされる様子も圧巻です。ミニかまくらも大型のかまくらと同様に雪が少ない中での設置となりましたが、開催時刻の18:00になると蛇の崎川原には、おとぎ話の世界を思わせる幻想的な風景が広がっていました。
ミニかまくらの設置と点灯を担うボランティア団体『灯りともし隊』で副隊長を務める田畑晃子さんは「雪が少ないのは仕方ない。(かまくらは)あくまでも神事なので、雪が少ないなりに皆で工夫して、楽しみながらやるしかないですね」と明るく話します。『灯りともし隊』には地元の企業や団体に加え、県外の学生も参加しています。
福島県郡山市在住で日本大学工学部4年生の伊藤颯斗(はやと)さんは『灯りともし隊』の活動に参加するのは2年目。今年は学生ボランティアの代表として、20名を率いての参加です。ボランティアのやりがいを尋ねると「地道な作業ですが、美しい雪景色を作りあげていくことに達成感があります。昨年は、コロナの関係で夜の景色を見る前に帰らなくてはいけませんでしたが、今年は夜の景色を眺めながら、地域の人や地元企業の関係者と関われるのがうれしいです」と、悪天候にも負けず元気いっぱいの様子でした。伊藤さんは、4月から秋田県内の企業で働くことが決まっています。実は、就職のきっかけの一つとなったのがこのミニかまくらづくりで、伊藤さん同様にボランティアを通じて横手市や、秋田県内への就職を決めていく人も多いそうです。
このように、ボランティアを通じて人と人、人と地域の縁をつなぎ、関係人口を拡大していくことも、秋田の冬祭りが持つ重要な役割といえるでしょう。
かまくらは“かわいい”。子どもたちの「よってたんせ。あがってたんせ」と甘酒、餅に癒される
かまくら祭りの会場の一つ、旧片野家住宅のかまくらには、祭り開始前から観光客が訪れていました。愛知県から来たという二人にかまくらを初めて見た感想を尋ねると「かまくら、かわいいですよね。分厚くて、大きくて、ちゃんと”家”感があるのが、子どものころ作っていたかまくらと全然違います。地元は雪がほとんど降らないので」と驚きと興奮を隠せない様子でした。
18:00になって夜の帳(とばり)が下りると、いよいよ祭りの本番です。会場の一つである二葉町は、昔ながらの地域住民で作るかまくらの雰囲気を味わえる隠れた人気スポットです。運営本部がある市役所からは若干の距離がありますが、時間になると徐々に人が増え、路地に設置されたかまくらで甘酒と餅の振る舞いの準備が始まります。
「よってたんせ、あがってたんせ」
子どもたちのかわいい声が聞こえてきました。声に誘われるがまま、かまくらの中に入ってみると意外に広く、大人5人が入れるくらいの広さがあります。不思議と寒さも感じません。中では子どもたちや近所の人が甘酒と餅を振る舞ってくれ、会話も弾みます。お話をしてくれた2歳のひかりちゃんは、この日のために「あがってたんせ」を練習したそうです(とても上手に話せていました)。
この地域では2歳から中学生までの子どもが、かまくらに入って地域の人や観光客をもてなす体験をします。子ども達は、少し恥ずかしがりながらも、年に一度のかまくら祭りをとても楽しみにしているようでした。
「地域の一体感に感動した」と、フランス人女性。横手のかまくらが示す、秋田の冬祭りの可能性
子どもたちのかわいらしいおもてなしにホッコリするのは世界共通のようです。
かねてより「かまくらを見にきたかった」という東京在住のフランス人女性は「かまくらは単に“見るだけ”のものと認識していたので、中に入って子ども達から温かいおもてなしを受けられたのはとても貴重な経験でした。雪が少ないと聞いていましたが、とても楽しめました」と感想を語ってくれました。また、素晴らしいと感じたポイントに「地域の一体感」をあげています。子どもたちから親世代、熟年世代が連携して、スムーズに火を起こしたり、お餅を準備したりする様子や活発なコミュニケーションが印象的だったようです。
このように、秋田の冬祭りの魅力は「地域の皆で作って、地域の皆でもてなす」というところにあるのではないでしょうか。この手作り感と温かさが、世界中の人を惹きつける大きな力になるのかもしれません。祭りの会場を回る中で、打川会長が語っていた「団結力」の意味を噛み締めました。
この先も横手のかまくらは開催される予定です。来年は今年とは打って変わって雪景色でとても寒い中の開催かもしれません。その際ミニかまくらづくりに関係人口として地域に入ってみませんか。そこには暖かい出会いがあるかもしれません。