「あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。
かつて東洋一とまで呼ばれた大銀山によって栄えた、秋田県湯沢市院内(いんない)地区。
山形県との県境に位置する同地区は、現在の人口が約1,300人と最盛期の10分の1まで落ち込んでいる。この地域で、「そこに暮らす人々が、30年後も幸せに暮らしていけること」を目的に多様な活動を展開する地域団体「いんない未来塾」が、地域内外から注目を集めている。
この団体は、院内地区と仙台を行き来する「関係人口」の青年と、地域の若者たちとの交流がきっかけで、2019年に設立された。人口減少が進む状況でも『幸福』を感じるとはどういうことなのか、具体的にどのような活動をしているのか。
目次
東洋一の大銀山、カルデラのまち院内。400年の繁栄を支えた「関係人口」の存在
院内地区のシンボルである院内銀山は1606年(慶長11年)、今から400年以上前に発見された。最盛期の産銀量は東洋一とも呼ばれ、当時の久保田(秋田)藩直営の銀山として、藩の経済を支える重要な拠点だったという。この院内銀山には中国地方をはじめとし、全国から多様な人材が流入した。彼らは石見などの銀山で培った採掘技術の工夫を院内銀山に伝えるなど、発展に多大な貢献をした。明治時代になると、人口は12,000人を超えたという。産業発展のためにドイツ人技師を招聘(しょうへい)するなど、海外人材の活用も積極的に行われた。
地域を訪れると、ごく低い山にひっそりと包まれたような独特な雰囲気がある。この独特な地形は「カルデラ」といって、火山噴火によってできた巨大な凹地(くぼち)のことを指す。まさに院内はカルデラの中に存在するまちなのだ。
カルデラの中であるがゆえ豊富な資源に恵まれ、銀だけではなく、院内石と呼ばれる石材も多く産出されたことでも知られている。しかし、昭和初期〜中期にかけて銀山が閉山し、採石業も下火になると、地域の人口は外部にどんどん流出していった。今現在の人口は最盛期の10分の1程度になっている。
廃校を活用したマルシェイベントに除雪。多岐に渡る、いんない未来塾の活動
このように、県内でも最も人口減少が進んだ地域の一つである院内地区であるが、地区内にはさまざまな地域団体が活発に活動している。そのなかの一つが「いんない未来塾」だ。地域に暮らす10代〜40代の若者や、院内地区に想いを寄せる地域外に暮らす「関係人口」ら、約30名によって組織される同団体。活動の中心は、世代と地域の枠を超えた交流推進だ。
交流推進の事業のなかでも象徴的なのが、明治39年(1906年)に建てられた廃校跡と、校庭を活用したマルシェイベントである。2019年4月に開催された「いんない桜フェスタ」では、参加者が地域内外の人とともに、満開の桜とおいしい院内石を使った窯で焼いた「いんない石窯ピザ」や、ゆざわジオパーク認定ガイドによる街歩き、大迫力の石切り場の散策などを楽しんだ。また、同年10月には「いんないオータムマルシェ」が開催され、来場者は地域内外から500人を超えた。
2020年になると、新型コロナウイルスの影響を受けてマルシェイベントの開催が見送られることもあったが、イベントの実施が可能となった段階で、コロナ禍に沈む地域住民を励ますために、ホタテを食すイベントなどが開催されている。(※1
活動はイベント開催以外にも多岐に渡る。秋田県内でも豪雪で知られているこの地域は、冬場は高齢化による空き家の増加で、通学路が雪で狭くなるなど、交通事故の危険性が増す。そこで同団体は、秋田県除排雪団体設立補助金を活用し、会員有志による「院内雪滅隊(いんないゆきめったい)」を設立し高齢者宅や空き家の除排雪、通学路の安全確保に取り組んでいる。
(※1 院内地区は「ホタテ養殖の父」と呼ばれる故・山本護太郎(やまもと・ごたろう)氏の出身地であり、ホタテ養殖が盛んな青森県平内町との交流が盛んである
院内・湯沢に想いを持つ関係人口とともに、収穫の恵みを味わう「いんないMIRAI農園収穫祭2023」
そのほかにも、いんない未来塾では、地区内の高齢者施設に隣接する土地を耕し、採れた野菜を無人販売所で販売する事業、「いんないMIRAI農園」を運営している。
7月22日に開催された「いんないMIRAI農園収穫祭2023」には、仙台や横浜から未来塾のメンバーが参加したほか、地元の高校生、湯沢市が行っている地域講座「ゆざわローカルアカデミー」の卒業生、山形芸術工科大学の大学生など、地域内外から70人以上が集まった。。参加者は、農園で収穫した野菜串や、地域のお母さんたち直伝の漬物、青森県平内産のホタテ、生ビール、かき氷などを楽しんだ。
ゆざわローカルアカデミーのOBとして、横浜市から収穫祭に参加した40代の男性は「院内は世界で見ても面白いところ。地域の人と外の人と関わる中で、地元の魅力に気付くきっかけになって欲しい」と、地域外の人が事業を通じて交流する意義について語った。
先輩方が築いてきた土台に、地域の若者と関係人口が一つになってチームを立ち上げていく
このように、いんない未来塾は4年間に渡って、地域内外の多様な人材を巻き込んだ活動を展開してきているが、立ち上げにも関係人口が関わっている。
キーマンとなったのは当時、湯沢市の地域おこし協力隊であった畠山智行(はたけやま・ともゆき)さん(40)。父親が院内出身で、自身が信仰するキリスト教に縁が深い地域であることから院内に興味を持ち、関係人口として2年間ほど関わってから移住した。出身地仙台と、ルーツがある院内をつなぐことをライフワークとし、2018年に開催された「院内まちづくりシンポジウム」で、院内の魅力と可能性について講演した。シンポジウムの実行委員会は、地域の若者で組織されており、その実行委員会と畠山さんがいんない未来塾の母体となった。
当時、事務局長を務め、今は横浜に在住しながら院内と関わりを続ける畠山さんは、院内の魅力について「仕事で全国いろんな地域を見てきましたが、こんな地域はほかにありません。異質な人材や価値観を受け入れる包容力が桁違いなんです。そういった地域の遺伝子が、院内銀山が発見されたときから脈々と受け継がれているのでしょう」と、力を込めて語る。
人口減少が進んでも『幸福』は実現できる。そのために世代と地域の枠組みを超えて、なすべきこと
いんない未来塾の活動は、すべて「受け継がれてきたものを引き継いでいく」というテーマに集約されている。そして、その活動が目指すゴールは地域住民の『幸福』である。
「先輩方、年配の人からノウハウを引き継いでいくのが大事なんです。『幸福』ってのはつながりのなかで感じるものですから、私たちが地域のお祭りや行事、細かいところでいうと漬物の漬け方とか、そういったものをできる限り受け継ぎ、継続していくことが大事だと思います」と語るのは、いんない未来塾で代表を務める佐藤拓弥(さとう・たくや)さん(36)。活動を継続する秘訣について尋ねると、「自分達が楽しむことです。楽しくなければ続きませんし、誰もついてきません。いんない未来塾のYouTubeチャンネルも、そのようなスタンスで運営しています」と続けた。
とはいえ、そこに住んでいる人全てが楽しみ、『幸福』を感じることができる地域を実現するのは容易ではない。都市部と違い、院内のような地域では、人口減少に伴う社会課題は「待ったなし」の状況である。地域課題を地域内のマンパワーで解決するのは限界がある。
そのような状況に対して、いんない未来塾事務局長を務め、湯沢市役所の職員として地域課題に挑む鹿角将良(かづの・まさよし)さん(46)は、「もし、外部の人が(関係人口として)関わってくれるなら。即戦力で、地域で動ける人だと心強いですね。院内はピンチも多いですが、外からの力で変わるチャンスも多い地域だと思っています。外部の力を使いながら変化していくことが、持続可能な地域づくりにつながるはずです。人を受け入れる能力には自信があります。ぜひ関わりにきてください」と、これから地域に関わりを持つ関係人口に期待を込めた。
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