宮城県気仙沼市の商店街のポスターが注目を浴びています。2023年の流行語にもなった大ヒット映画『THE FIRST SLAM DUNK』のポスターを見事に再現しています。また、今年の話題やおやじギャグが随所に散りばめられており、Xでポスターを紹介する投稿に端を発し、完成度の高さと遊び心があまりにも良すぎると多くの反響を集めました。気仙沼条南商店街の三浦喜市会長(63)と、撮影担当の写真スガワラの菅原大路(ともみち)(38)さんに取材しました。
商店街のみんなで力を合わせて「大人の文化祭」
三浦会長にポスター制作が始まったきっかけを聞きました。
「震災後の街に活気を取り戻そうと2013年から商店街で始まった企画でした。当初は商店街名誉会長の赤間文弥さん(89)が変装したもので、2020年には人気アニメ鬼滅の刃のコスプレでバズったこともありました」
地元の風物詩にもなっているポスターは、今年はテーマ選びで難航したそうです。
「今年は世相があまり良くなくて楽しい話題がなかった。そんななかでバスケットボール男子日本代表のパリ五輪出場権獲得の話題から、スラムダンクの映画の話がパッとでてきた。検索して映画のポスターを見た瞬間に、『これだ!』と決まりましたね」
商店街の中から赤間さんをはじめ、時計店、蕎麦屋、ラーメン屋、酒屋から5人のスタメンが召集されました。5人での出演は初の試みでしたが、依頼されたメンバーは快諾したそうです。
「Xでもおじさんが全力で悪ふざけしているという意見がありましたが、私たちもやるからにはディテールにこだわりたいし、本気で取り組んで楽しむぞというつもりでやりました。大人の文化祭だと思っています」
また、衣装にもこだわったと三浦会長は語ります。
「ユニフォームには、条南商店街のJOHNANの文字をあしらい、本年度で廃校になる条南中学校のカラーであるオレンジを採用しました。実は今年の春に条南商店街に改名したのですが、中学校がなくなったあとも条南という名前を残すためでした。そのような思いの込められたユニフォームは、商店街の運動具店にオーダーして作ってもらいました。履いているバスケットシューズも、地域でバスケをしている方や、私の息子などからわざわざ集めてきました。その中にはかなりレアなシューズがあったみたいで、コメントで褒めていただきました」
地域に住んでいる人と商店をつなぐ役割
写真スガワラの菅原さんは撮影時の様子を振り返ります。
「全員スラムダンクを知らない世代なので心配していたのですが、みなさんの準備が素晴らしく、表情の作り方までもが完璧でした。撮影はあっという間に終わり、僕はただシャッターを押しただけです」
地元出身で、7年前にUターンしてきたという菅原さんは、最初は街に知り合いがほとんどおらず、不安があったそうです。街を盛り上げようとしている商店街の雰囲気に助けられた部分も大きかったといいます。
最後に、三浦会長に今後の商店街について聞きました。
「SNSのコメントは良いものも悪いものもあるので、あまりバズりたいとは思っていなかったのですが、今回の反響はほとんどがポジティブなものだったのでよかった。自分たちの取り組みがこうやって多くの人に評価していただけていることは単純に嬉しいです。ただ、本来の目的は商店街が盛り上がることです。観光客向けというよりは、住んでいる人の日頃の暮らしがよくなるようにしていきたい。地域の人と商店の関わりが増えるように、今回のスタンプラリーのようなイベントやセールを行って、地に足のついた経済を回していく」
写真は全て2023年12月11日 筆者撮影