
コンテナを活用した屋外型トランクルームから、建物1棟を専用に設計した屋内型トランクルームなど全国12万室以上を展開し、ストレージ市場を牽引(けんいん)するエリアリンク株式会社。代表取締役社長の鈴木 貴佳(すずき よしか)さんは、リーマンショックの逆境を経て入社し、20代から第一線で活躍してきました。「体はきつかったけれど、心は満たされていました」と振り返る鈴木さんの苦楽が、社員や顧客に向き合う誠実さと、長期的な価値創造を重んじる経営哲学へとつながっています。今回は、鈴木さんの人柄と挑戦の軌跡を通して、同社が描く未来像を探ります。
目次
全国12万室、業界を牽引するストレージ事業

エリアリンク株式会社は1995年に創業。コンテナを活用した屋外型トランクルームをはじめ、ビルの1フロアなどを利用した屋内型トランクルーム、バイク専用トランクルームなど、レンタル収納スペースを運営するストレージ事業「ハローストレージ」を全国展開してきました。2025年現在で47都道府県に2748物件、12万1070室(2025年8月時点)を運営しています。
鈴木さんは「ストレージはまだ発展途上の産業でしたが、やればやるだけ結果が出ました。そうした成長の手応えが、私自身と会社全体を大きく押し上げてきたと思います」と話します。
また、借地権や底地(そこち)を整理・売買する土地権利整備事業、不動産資産を運用・保全するアセット事業、駅近で完全個室を提供する「ハローオフィス」など、事業の幅も広がっています。
苦境から始まったキャリアの第一歩
「正直に言えば、就職活動は大変でした。大学を二度留年した上にリーマンショックが重なり、どこも採用を絞っていたんです。最終的に内定をいただけたのがエリアリンクだけでした」
鈴木さんは当初は大手デベロッパー志望でしたが、入社後は発展途上の業界環境を逆手にとって、自らの適性を見いだしました。
「大企業よりもベンチャーでバリバリ働く方が自分に合っていました。結果がすぐに数字に表れる仕事だったので、やりがいを強く感じていました」と振り返ります。
当時の現場は労働環境の整備が行き届いておらず、休日出勤や残業も多かったという同社。それでも「体はきつかったけれど、結果を出せば評価してもらえる。心はむしろ満たされていました」と言葉を添えます。成果を積み重ねることで評価を得られる実感が支えとなり、若手ながら責任ある業務を次々に任されるようになりました。
「お前は俺が面倒を見るから」師弟の絆に答え執行役員に
努力は早くも実を結び、28歳という若さで執行役員に就任する異例の抜擢(ばってき)につながりました。
「20代は死ぬほど働きましたが、その分、結果を出せば必ず次のステージを用意してもらえました。会長から『お前は俺が面倒を見るから』と言われたことも、大きな励みになりました」
実力を重んじる社風のもと、若手であっても成果を出せば公平に評価される。こうした文化が鈴木さんを筆頭に人材の成長を加速させ、同社の組織力を押し上げていきました。
少数精鋭で挑む、持続可能な組織づくり
鈴木さんが強調するのは、規模の拡大と同時に「人をむやみに増やさない」経営です。
「うちは無人運営が可能な商材を扱っています。だからこそ、人を増やすのではなく、仕組みやシステムに力を入れることが大切。AIやシステム開発にも積極的に投資しています」
営業教育も徹底し、社員一人ひとりが高い水準で営業業務をこなせる体制を整えています。単なる拡大主義ではなく、会社が成長すべきところに注力する姿勢が、会社全体のレベルを引き上げています。
常識にとらわれない真摯な姿勢で生む信頼
不動産業界には、地主と事業者との間に独特の慣習が残っています。しかしエリアリンクはその慣習にとらわれず、対等な関係を重視しています。
「地主さんとは上下関係ではなく、パートナーだと思っています。その関係性から、現地訪問中心の営業スタイルを刷新し、現在では契約の8割は郵送で完結します」
“会うのが当然”という固定観念を捨てたことで、時間もコストも大幅に削減。こうした合理化は、地主にとっても事業者にとっても無理のない取引を可能にし、効率的な契約フローと信頼関係が築かれています。
社員ファーストな信念と共に進める採用強化と海外展開
同社が掲げる最大の目標は、2029年までにストレージ運営室数を20万室に拡大することです。
「コロナ禍では出店を止めざるを得ませんでした。その分を取り戻すために、これから数年は全力で走り抜けます」
並行して取り組むのが、社員への還元です。
「10年以内に平均年収を2倍にしたいと思っています。お金があればできることは増えますし、幸せに近づける。だから利益を社員にどんどん還元していきたいんです」
採用力の強化も課題として挙げられています。特に施工管理やIT人材は不足しており、給与水準の引き上げや組織全体のバランス改善に取り組んでいます。
「子どもが誇れる会社」目指して
鈴木さんが描く未来像は、数字だけの拡大にとどまりません。
「社員の子どもが『うちの親はエリアリンクで働いているんだ』と自慢できる会社にしたいんです。みんなが入りたいけど入れない、そんな誇りある存在になりたい」
その根底にあるのは、短期的な売上追求を避け、長期的な視点で顧客と向き合う姿勢。営業のインセンティブを過度に厚くせず、安定した給与体系を重視するのもそのためです。必ずしも利益に直結しない部署も正当に評価することで、全社員が同じ方向を向く組織文化を築いています。
不動産業界に必要なのは「長期的な価値をつくること」
リーマンショックの就職氷河期を出発点とし、泥臭い努力と実直な成果によって駆け上がってきた鈴木さん。その歩みは「逆境を力に変える経営者像」であるといえます。
「目先の売上に飛びつくのではなく、長期的な価値をつくることこそが不動産業界に必要だと思います」
その言葉どおり、エリアリンクは仕組みと信頼を基盤に、国内20万室と海外展開を見据えています。社員と顧客、そして社会に持続的な価値を還元する姿勢で、地元の企業文化に根を下ろしながら未来を切り拓く挑戦を続けていきます。
聞き手、執筆:木場晏門