
2025年9月21日(日)~11月23日(日)、茨城県桜川市で開催されているアート作品展示イベント「雨引(あまびき)の里と彫刻2025」。屋外展であるにもかかわらず、約30年の長きにわたって続く全国でもめずらしいアート展です。芸術関係の仕事で生計を立てているプロの方たちが集まり作品を展示しているこのイベント。懐かしさを感じる「里山」の集落の中で、これらの作品は日常生活の一部となり、その存在感を示していました。ここではごく一部の作品の画像を交えて、その様子をご紹介したいと思います。
目次
アート作品が町に「点在」する屋外展。全行程はなんと14km!
「雨引観音」としても知られる雨引山薬法寺がある、ここ茨城県桜川市。かつて7人の彫刻家たちが、石材が採掘されるこの地に仕事場を構え、1996年に屋外展「雨引の里と彫刻」を始めました。
地元の方々の協力を得ながらおよそ30年にもわたって続く屋外アート展は全国でもとてもめずらしく、今年で13回目を迎えます。
開催時期は毎回変わる可能性がありますが、今回は秋の開催となりました。
開催初日となる2025年9月21日(日)にはオープニングセレモニーが開催され、実行委員会および桜川市の関係者の方々による祝辞、アート作品作者の方々のごあいさつ、テープカットの式典などが行われました。

この屋外展の特徴の一つとして挙げられるのは、その作品が一カ所に集められ展示されているのではなく、一般住民が暮らす町の中のさまざまな場所、それもかなり広い範囲に「点在」して展示されているということ。今回の「雨引の里と彫刻2025」には、35もの立体アート作品が出展されましたが、散歩途中にそれらの作品に出会うような、そんな展示の仕方になっているのです。
オリエンテーリングのようなその推奨順路は全行程でなんと14km!すべて徒歩だと見終えるのに終日かかるイベントです。所々に駐車場が配置されているので、車や自転車で訪れる方を数多く見かけました。初めて見学する方はインフォメーションセンター(文末に情報あり)で受付をして無料マップを入手することをおすすめします。
理屈抜きに美しい「里山」には「現代アート」がよく似合う
アート作品を見る前にまず驚いたのは、このイベント開催場所、茨城県桜川市の「里山」の美しさ!初めて訪れた場所であるにもかかわらず、どこか「懐かしさ」を感じるこの景色には、何とも言えない「安堵(あんど)」を感じる雰囲気、都市部では失われてしまった「大切な何か」がまだ残されている気がしました。
収穫前の稲穂がまるで黄色い絨毯(じゅうたん)を敷いたように見える風景。理屈抜きに感動する景色が眼前に広がっていました。

それでは出展作品のごくごく一部をご紹介していこうと思います。作品は「町中に点在している」とお伝えしましたが、どこに作品を設置するかは、その作品の作者が「自ら決めている」とのこと。作品を置くその場所の景色や雰囲気、風の流れ、鳥のさえずりなど、その場所に立ったときに感じられるすべてのことがその作品と同期し一体となって、作品単独で見るのとはまた違った「アート」になっているのがとてもおもしろいところです。
雨の日には雨の日の、夕暮れには夕暮れにしかない作品の味わいが楽しめるのです。

こちらは順路沿いにある林の奥に何か人目を忍ぶように置かれていた、ホルンの開口部のような形状をした作品。使用されている素材の「竹」と「鉄筋」は、それぞれ「自然」と「人間」を象徴しています。その開口部から放たれる周波数は、「協和音」なのか「不協和音」なのか、考えさせられる作品です。作者はハンガリー出身のアーティストです。

木造家屋の縁側に設置されていた作品。画像では見にくくて大変恐縮ですが、古着や廃材が使われています。それぞれの役割を果たしたモノたちが集まり、あらたな命が吹き込まれ、花束のような表情を見せているというこの作品。古い日本家屋と現代アートの組み合わせがこんなにも自然に感じられるなんて。この場所がすごくこの作品にマッチしていると感じました。

大人の身長と同等サイズの陶器でできたアート作品。静止画を切り取り平面で見るのではなく、作品の周りを動きながら見る「動的な視点」に重きを置いて作られた作品です。作者の方からは「マップにある順路とは逆の方向になりますが、ぜひこの作品を左手に見て、画像手前の坂を上りながら見てほしいです」とコメントをいただきました。
場所によっては、作品と作品の間にそれなりの距離がありますが、順路の途中から見える景色がすばらしく、退屈に感じることがありませんでした。


奥に見える木造の小屋と静寂に包まれたこの場所の雰囲気が、この作品の繊細さをさらに引き立てているように感じます。訪問時はまだ秋の始まりといった頃。作品名にあるとおり、秋深まった紅葉の季節には、さらにこの場所にある作品の良さが感じられるのかもしれません。素材は鉄線ですが漆が使われているせいか、どこかやさしさを感じる作品です。

ダイナミックでエネルギッシュな躍動感のあるこの作品。マダラ鬼神が雨引の里の収穫祭に降臨し弓舞う姿を表しています。マダラ鬼神とは、観音菩薩の浄土「補陀洛(ふだらく)浄土」の守護神とのこと。地元「雨引観音」では「マダラ鬼神祭」という年中行事が行われています。晴天のもと、後ろに見える加波山ともすごく相性がよく見えました。

厚さ12mm、横幅2.2m、縦3mの鉄板を加熱バーナーで加熱し、水で急冷して制作したというこの作品。荒々しさと力強さを感じるこの作品は、大地に刺さるようにしてその姿を誇示しています。バーナーの加熱と水の急冷で鍛えられたその体には、やがて徐々に意志が宿り、自ら立ち上がるということがイメージされています。
「本物」のアート作品とそれに負けない「自然」の美しさの統合が、このイベントの核となっている
実際に現地で作品を見て、このイベントが地元住民にも理解され、30年も続いているのが納得できた気がしました。この記事で紹介しきれなかった他の作品も、どれもすばらしい作品ばかりで、町おこしのイベントとは一線を画した「本物のアートイベント」だと感じました。
そしてこの地の「自然」のすばらしさ。アート作品に負けない存在感です。作者の方も「背景にある自然の美しさに作品が負けてしまうことがある」と言っていたほど。でもその「調和」が得られたときには、なんとも言えない新たな「感激」、あまり出会ったことのない「新鮮な感覚」をもたらしてくれます。
季節や天気や時間によって、その表情を変える「里山」の風景と、そこに置かれた「現代アート」。こんなにも相性のよいものになるとは知りませんでした。
この度は、「雨引の里と彫刻2025」関係者の方々に多大なるご協力をいただきました。この場を借りて改めてお礼を申し上げますとともに、今後もこのようなすばらしいイベントが長く続いていきます様お祈り申し上げます。

情報
雨引の里と彫刻2025
開催期間:2025年9月21日(日)~11月23日(日)(会期中無休)
時間:9:00 – 16:30
インフォメーションセンター&受付:茨城県桜川市羽田989-1 大和ふれあいセンター「シトラス」1F
参加費:無料(貸自転車は有料)
バスツアー(参加費500円):10月12日(日)、11月9日(日)10:00-16:00
(バスツアーは満員となったため申し込みは終了しました。)
ワークショップ開催:10月26日(日)
TEL:070-6408-8152(会期中のみ・受付直通)
ホームページ:https://www.amabiki.org
Instagram:@amabiki_sculpture