2026年2月で丸4年になる、ロシアによるウクライナ侵攻。日本在住のロシア人による反戦団体「YaSoprotivlenie 戦争に反対する在日ロシア人」は、2022年の侵攻直後に活動を開始し、現在も東京で反戦イベントを開催し続けています。戦争に「NO」を突きつける、日本に住むロシア人の思いを確かめに、私もイベントに参加してきました。
彼らの言葉や行動の背景には、ロシア反体制派指導者 アレクセイ・ナワリヌイ 氏の存在があります。彼の死は、在日ロシア人の反戦運動にとって、大きな問いと重みを残しました。
本記事では、その背景や現場で見聞きしたことを前編・後編（https://thelocality.net/navalny-russia-anti-war-2/）の2回に分けてお伝えします。
前編では、団体が生まれた背景や活動の内容について、後編では活動に参加したときの様子やナワリヌイ氏をめぐるシンポジウムについて紹介します。
目次
「YaSoprotivlenie 戦争に反対する在日ロシア人」とは？
「YaSoprotivlenie 戦争に反対する在日ロシア人」（Я сопротивление 「私は抵抗者だ」の意味。「ヤー ソプレチヴニィ」と発音）は、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻に対する、東京での抗議デモに参加していた在日ロシア人が作った反戦グループです。「YaSoprotivlenie」の名前は、「日本（Япония）」のロシア語の発音「Yaponiya（ヤーポーニャ）」にも掛けているそうです。
YaSoprotivlenieはリーダーの下で活動するような団体ではなく、各メンバーが自主的に開催する反戦イベントのアナウンスや、その報告を行う総合チャンネルのような存在です。YaSoprotivlenieが主催するイベント、というものはなく、それぞれのメンバーが並列的にゆるく繋がっているようなグループです。中央集権的にしない方が、ロシア政府による干渉を難しくする利点もあるそうです。
Instagram、X、Telegramのアカウントから各活動について日々投稿しています。
YaSoprotivlenie関係者がこれまでに開催したイベント
反戦デモ
YaSoprotivlenieのメンバーは2022年の活動開始以降、定期的に反戦デモを東京で行ってきました。ロシア国内では侵攻開始当初は全国各地で抗議デモがありましたが、政府による法律の改正により反戦活動や政権批判は違法となり、一切できなくなりました。少しでも反戦を口にすると、警察に連行されて刑務所行きになってしまいます。
そういった声を上げる事ができないロシア国内のロシア人の代わりに、世界各国にいるロシア人は現地で反戦デモを行ってきました。YaSoprotivlenie関連のイベントの多くは、海外での抗議活動と連動しています。
日本での反戦デモには日本人の方でも参加できますので、各SNSでチェックしてみてください。
デモの写真に写っている「白・水色・白」の旗についてですが、これは「白青白旗（はくせいはくき）」と呼ばれる、ウクライナ侵攻に対するロシアでの反戦・抗議運動のシンボルです。ルーツは2000年代初頭にあるそうですが、ウクライナ侵攻が始まると、SNS経由で世界中に拡散されました。ロシア国旗の赤を白に替え、「血と暴力」との関連性を取り除き、自由で平和なロシアを象徴しているそうです。
展覧会「THROUGH THE BARS 鉄格子の向こう」
2025年4月、東京・北千住にあるアートセンター「BUoY」で、「THROUGH THE BARS 鉄格子の向こう – ロシアの政治犯とアート-」という展覧会が開催されました。ロシア語圏のプロテスト・アートを最大に扱うALL RIGHTS REVERSED（現在は「Prometheus」と名称が変わったようです。主にベルリンやアムステルダムで展覧会を開いています）が開催した「THROUGH THE BARS」という展覧会のキュレーションを軸として、日本のALL RIGHTS REVERSED TOKYOがその日本版として開催したものです。ALL RIGHTS REVERSED TOKYOは、この展覧会のためにYaSoprotivlenie関係者の在日ロシア人と、日本人アーティストデュオMESが立ち上げたものだそうです。
この展覧会では、ロシアの政治犯が投獄中または出獄後に制作した作品と、外部のアーティストが囚人たちの直面する過酷な現実を捉えた作品をあわせて展示しました。獄中にいる人々とアートコミュニティとのあいだで交わされる、双方向的な表現の融合を示す試みです。
ナージャ・トロコンニコワ（反プーチンバンド・アクティビスト、プッシー・ライオットのメンバー）、サーシャ・スコチレンコ（アーティスト、詩人）、パヴェル・クリセヴィッチ（パフォーマンスアーティスト）、アルチョム・カマルジン（詩人）、ジェーニャ・ベルコヴィチ（演出家・劇作家）を始めとした政治犯のアーティストの作品の展示とともに、日本の版画コレクティブA3BCと、アーティストデュオMESが参加しました。
オープニングレセプションではオンラインでALL RIGHTS REVERSEDやアーティストが登壇し、また会期中は政治犯への手紙を書くワークショップ（後述）や、戯曲のリーディング等も行われたそうです。
写真展「ロシア抵抗の顔」
2025年11月、東京・浅草の「隅田公園 リバーサイドギャラリー」にて、写真展「ロシア抵抗の顔」が開催されました。「ロシア抵抗の顔（Faces of Russian Resistance）」は世界中の都市で開催されている写真展で、プーチン政権と戦争に反対したために投獄されたロシア人のポートレート写真を展示し、紹介する国際展示会シリーズです。2023年からヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなど世界34都市で開催され続け、東京はアジア初の開催地です。
長年にわたり政権の腐敗を告発し、国内外で大きな影響力を持ちながら、2024年2月に獄中で死亡した野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を始め、「THROUGH THE BARS」にも作品が展示された詩人のアルチョム・カマルジン、政治家、人権活動家、ジャーナリスト、映画監督、弁護士、そして警官、消防士、主婦といったごく普通の市民の写真も展示されました。（写真展の会場の様子の動画：https://www.instagram.com/reel/DRkWwCdjISW/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA%3D%3D：）
また「ロシア抵抗の顔」プロジェクトの発案者、エレーナ・フィリーナさんとのオンライン対談、「政治犯への手紙の夕べ」（後述）、「平和の折り鶴」、「政治犯の最終陳述の朗読」、「木のスプーン演奏ワークショップ」もあわせて開催されました。
「政治犯への手紙の夕べ」
上記の各イベントでも触れていますが、YaSoprotivlenie関係者が開いている「政治犯への手紙を書く夕べ」というイベントがあります。これは現在ロシアの刑務所に投獄されている政治犯に向けて、みんなで手紙を書くというものです。不定期開催ですが、大体月に1回のペースで開催しているそうです。直近では2025年12月14日に開催され、ロシア風のチーズケーキも提供された、温かな会となったそうです。
会場にはハガキやペンが用意されていますので、好きなものを選んで書いていただけます。ご自身で持参してもOKです。
手紙を書く以外にも、専門家による講演やワークショップがあったりと毎回違った催しがあるようです。開催日は「政治犯への手紙を書く夕べ」のInstagramをチェックしてください。
2026年最初の「政治犯への手紙を書く夕べ」は、1月25日（日）に横浜で開催されます。今回は環境保護活動により迫害されたエコ活動家に焦点を当てるそうです。近年ロシアではこのような事例が増えているそうです。
日時：2026年1月25日（日）16:00～19:00
会場：ふれあい貸し会議室 横浜戸栗
住所：神奈川県横浜市西区南幸1-5-30（JR東海道本線 横浜駅より徒歩1分）
アットホームな雰囲気の中、お茶を飲みながら手紙を書き、親睦を深めましょう！
後編では、実際に参加して見えた反戦の現場や写真展やシンポジウムの内容を紹介します。
情報
YaSoprotivlenie 戦争に反対する在日ロシア人 公式サイト（各SNSへのリンクあり） yasoprotivlenie.com
「政治犯への手紙を書く夕べ」Instagram @pismaiztokyo
「THROUGH THE BARS 鉄格子の向こう – ロシアの政治犯とアート-」https://buoy.or.jp/program/allrightsreversed/
Faces of Russian Resistance https://www.politzk.com/en
「名前の回復（Returning the Names）」（メモリアルによるサイト） https://october29.live/?lang=en
写真展+シンポジウム「ナワリヌイ ー This Is Navalny ー」an-legacy-jp.com
