
冬の東北。雪に閉ざされる地方だからこそ、“熱気”に満ちた祭りがある。山形県上山市で行われる「加勢鳥(かせどり)」は、雪と寒さの中でこそ映える、忘れがたい冬の日本文化である。藁(わら)に包まれた加勢鳥が跳ね、水が飛び交うその光景は、観光地では決して味わえない“地域と旅人が一体になる瞬間”を与えてくれる。
目次
加勢鳥とは何か ― 藁に包まれた神の化身
加勢鳥は、頭から足元まで藁で覆われた神秘的な姿を持つ存在である。その姿はまるで森の精霊か架空の化け物のよう。
加勢鳥はかつて、五穀豊穣(ほうじょう)・商売繁盛・火よけの祈願のため、地域の守り神として扱われた。藁と太鼓、そして勇壮な掛け声。その全身を使った舞は、見る者の肌に冷たい冬風を感じさせつつ、魂を震わせる熱量を伝えてくる。
なぜ水をかけるのか? 祭りの核心に触れる
祭りの最中、沿道で待つ人々が加勢鳥に向かって一斉に水をかける光景がある。これは「火よけ・厄よけ」の象徴として受け継がれてきた信仰に端を発する風習だ。
水をかけるほど加勢鳥の“力”が高まると信じられており、火の用心を祈る地域の祈願行為でもある。冬の寒さの中で冷たい水を浴びる──その過酷さすら、この祭りが古くから人々の暮らしと密接だった証しである。

上山城下に響く掛け声と、地元との一体感
加勢鳥は上山城下の市街地を練り歩き、商店街や住宅地を巡る。観光客であっても、祭りの空気に自然と巻き込まれていく。
見物者が水をかけ、加勢鳥が跳ね、笑い声が響き―その瞬間、地域と旅人の境界が曖昧(あいまい)になる。まるで“この場所の人々”の一人になったかのような錯覚すら覚える。この一体感こそが、加勢鳥の最大の魅力である。

参加者は公募制。伝統を守りながら開かれた祭りへ
加勢鳥は今なお地域の伝統として受け継がれているが、その担い手は時代とともに変化している。かつては男性のみが加勢鳥になることを許されていたが、現在では女性の参加も一般的となり、さらには外国人留学生が加勢鳥として踊る姿も珍しくない。毎年秋になると翌年の参加者を広く公募しており、地元の若者から県外の移住者、留学生まで、多様な背景を持つ人々がこの祭りを支えている。
藁に包まれて跳ね歩くという過酷な役目は、単なるパフォーマンスではなく、地域の誇りを背負う重要な役割である。
しかし、伝統を守るだけではなく、現代の社会に合わせて“開かれた祭り”として継承していこうとする上山市の姿勢が、この祭りをより豊かなものにしている。こうした柔軟性こそ、加勢鳥が長く愛されている理由のひとつである。

世界が注目! ナショジオが選んだ「山形」の魅力
2025年10月、ナショナルジオグラフィックは「2026年に行くべき世界の旅行先25選」のひとつとして、山形県を日本で唯一選出した(ローカリティ記事 https://thelocality.net/national-geographic-yamadera/)。
その理由として、本県が持つ「古くからの伝統と、神秘的なアウトドア体験との融合」が挙げられている。静寂の山寺、温泉街、四季を通じて変化する自然、そして祭りや地元文化。山形には、都会にはない“深み”と“余白”があり、それが世界基準でも見逃せない価値とされたのだ。
加勢鳥は、その価値を体現する存在のひとつといえる。ナショジオが選ぶ“世界水準の旅先”のひとつとして意識されている今、旅人にとっては国内でありながら“特別な体験”になる可能性が高い。
冬は上山で加勢鳥の祭りを体験し、雪見温泉で疲れを癒す。春や秋には、同じ山形で自然や歴史、寺社巡りを楽しむ。そんな通年旅もおすすめだ。山形は、季節と文化が豊かに交錯する場所であり、何度訪れても新たな発見がある。
2026年の加勢鳥は2月11日(水・祝)に予定されている。ぜひ予定を開けて、足を運んでもらいたい。
情報
■上山市民俗行事 加勢鳥
日程:2026年2月11日(水・祝)10:00~15:00頃
<行程>
10:00~ 祈願式(神事)…上山城正門前広場
10:30頃 上山城正門前広場
11:00頃~14:00頃 市内練り歩き
※2026年の詳細内容は決まり次第公式サイトに掲載
公式サイト:https://yamagatakanko.com/festivals/detail_3079.htm

※写真は全て筆者が撮影(2025.02.11)





