断食の夜に響く太鼓 ー ムスリムと中華系が共に祝う、旧正月から15日目のCap Go Meh - 前編 -【インドネシア・ボゴール】

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2026年3月3日(火)、インドネシア西ジャワ州の都市ボゴールで毎年開催される「Bogor Street Festival Cap Go Meh(ボゴール・ストリート・フェスティバル・チャップゴーメー)」に参加した。旧正月から15日目にあたる「Cap Go Meh」を祝う大規模な祭りである。

首都ジャカルタから車で約1時間の距離にあるこの街では、この日になると中心部のスルヤケンチャナ通り一帯が歩行者天国となり、龍舞や獅子舞、民族芸能のパレードが夜遅くまで続く。

「今年の祭りは例年とは少し違うんだ!」路地裏で野菜を売る店主が嬉しそうに語る。

今年の開催日は、イスラム教の断食月ラマダンと重なったのである。人口の大多数をムスリム(イスラム教徒)が占めるインドネシアでは、ラマダンは一年で最も神聖な期間だ。人々は日の出から日没まで飲食を断ち、日没後に断食明けの食事会(イフタール)を開く。街のリズムも普段とは大きく変わる。


中華街スルヤケンチャナ通りの祝祭

祭りの舞台となるのは、ボゴールの中華街として知られるスルヤケンチャナ通りである。

普段は飲食店や市場が並ぶこの通りだが、Cap Go Mehの日には赤い提灯が連なり、街全体が祝祭の空間へと変わる。

屋台が並び、人々が通りを埋め尽くす。子どもを肩車した家族や、友人同士で訪れた若者たちが、パレードが始まるのを待ちながら夜の街を歩いている。通りの脇では飲み物を売る行商人が人混みの間を縫うように進み、祭りの夜のにぎわいをさらに盛り上げていた。

Cap Go Mehとは何か

「Cap Go Meh(チャップゴーメー)」という言葉は福建語に由来し、「十五夜」を意味する。旧暦の正月十五日にあたるこの日は、旧正月の祝祭を締めくくる日であり、中国文化圏では灯籠祭などが行われることで知られている。

インドネシアでも華人コミュニティによって、各地域でこの伝統が受け継がれてきた。インドネシアには古くから中国系住民が暮らしており、ジャカルタ、メダン、スラバヤなどの都市には中華街が形成されてきた。こうした華人コミュニティでは寺院を中心に中国の伝統文化が受け継がれ、旧正月やCap Go Mehの祭りでは龍舞や獅子舞が披露されてきた。

ボゴールのCap Go Mehはその中でも規模が大きく、現在では観光イベントとしても知られる存在になっている。龍舞や獅子舞といった中国文化の要素に加え、ジャワ舞踊やバリ舞踊、イスラム音楽など、多様な文化が一つのパレードに並ぶのが特徴だ。

つまりこの祭りは、単なる中華系住民の行事ではなく、インドネシアの多文化社会を象徴する祝祭として発展してきたのである。

雨の夜、それでも人は帰らない

今年の祭りが例年と大きく違っていたのは開催時間だった。昨年は夕方17時ごろからパレードが始まっていたが、今年はラマダンに配慮し、礼拝を終えた人々が参加できるよう開始が大幅に後ろ倒しになった。筆者も夕方からパレードの開始を何時間も待ち続けたが、実際にパレードが始まったのは夜21時過ぎだった。

この夜、もう一つの出来事があった。夕方から激しい雨が降り続いていたのだ。降っては止んでを繰り返し、通りは水にぬれていた。

それでも、集まった人々は帰ろうとしない。屋根の下で雨宿りをする人、レインコートを着る人、傘を差したまま通りに立つ人。誰もがその場を離れず、祭りが始まるのを待っていた。

ボゴールは「雨の街」と呼ばれるほど降水量が多いことで知られている。市民にとって雨は日常の一部であり、少しの雨で予定を諦める理由にはならないのだ。

通りに並ぶ寺院では、断食明けに合わせて無料の食事が振る舞われていた。人々はナシゴレンやミーゴレンを受け取り、通りの縁石に腰を下ろして食べる。

雨が降り続く夜の中で、街にはすでに祝祭の気配が広がっていた。
太鼓が鳴り始めるのは、もうすぐだ。

後編へ続く

※写真は全て筆者が撮影(2026.03.03)

阿部宣行

阿部宣行

インドネシアはジャカルタ在住。長年お世話になった東北や旅して回った国々の記事を執筆しています。
ローカリティ受賞歴:
ハツレポグランプリ2025 副編集長・丸山賞
写真受賞歴:
東京カメラ部×FUJIFILM10選 - Colors Like Film -フォトコンテスト2025
Fun,Fan,Find青葉 Fコン2025
仙台朝市銀座UNフォトコン2025
やっと連仙台 阿波踊りフォトコン2024
ウズベキスタンフォトコン2024

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