
「肉が苦手だと言っていた子が、自分で作ったソーセージを口にして、おいしいと笑ってくれるんです」
「やっぱり、笑ってくれると励みになりますよね」
そう語るのは、埼玉県に拠点を置く『株式会社ナチュラルポークリンク(以下、同社)』の諏訪澄枝(すわすみえ)さん。
同社は、牛や豚の食肉卸売り、飲食店経営、そして学校や保育園への出張授業を行っています。一見バラバラに見える3つの事業は、「食べることの大切さを伝えたい」という1本の線でつながっていました。
前後編の後編はこちら⁽https://thelocality.net/kiminiyaiteageru-asaka-2/⁾
目次
地域のお店を「つながなきゃ」で、ピンクの壁を塗り直した

朝霞市内にある飲食店、「お肉屋さんが『君に、焼いて揚げる。』」
オープンしたのは、コロナ真っ只中の2020年のことです。
同社はもともと、40年以上前からここにあった『焼肉高砂』(たかさご)という焼肉屋さんへ肉を卸していました。しかしある時、閉店の話がでたといいます。
「地元に愛されてきたお店がなくなる。コロナ禍で予算もないなか、地元にあるお店をつながなきゃ、っていう一心で私たちが動いたんです。そしてできたのが、お肉屋さんが『君に、焼いて揚げる。』」
地域の人たちに周知されているお店を守りたい。そうは言っても状況は本当に厳しかったといいます。改装にあたっては、スタッフ総出で店内の壁を塗り直しました。
引き継いだ時点で店内はピンク色。前のオーナーさんが、フランスをイメージしたレストランに変えようとされていたため、松阪牛を扱う同社のイメージには合わず、高級感がある黒色にしようかと思ったそうです。
「スタッフは当初びっくりしてましたよ『本当にやるの!?』って。でも塗ってみたけど、ちょっと暗いなぁと。また塗りなおして今の姿になったんです」



お肉屋さんが飲食店を始めた理由
試行錯誤の末、形になった店内には、スタッフ全員の思いも宿っています。
ではなぜ、卸業者がそこまでして、飲食店をやるのでしょうか。
「私たちはいかに『卸先へ良いものを届けるか』でやってきた会社です。だけど、卸したお肉がどう生かされるかは結局のところ、シェフの手に委ねられる。うちの肉のおいしさを、うちのプロが直接お客様に届ける必要があると感じていたんです」
自分たちが直接届けるための場所が必要だったというのが、その理由でした。
「ランチで人気なのは、うちの銘柄である嬉嬉豚(うれうれぶた)のとんかつ。あとは、牛だと和牛、国産牛の切り落としをまとめている極盛り(ごくもり)ですね。極盛りは、肩ロースやサーロインの端(はし)も入るので人気です。週末になると、地元埼玉県の和牛、武州和牛の盛り合わせやステーキを求めるお客様が増えます」
卸業者だからこそ実現できる仕入れの質、お肉を知っている職人の調理がそのまま味わえるお店です。



『命をいただく』が、ピンとこない子どもたちへ
同社は地域のサッカー少年団を支援するなど、地元コミュニティへも深く関わってきました。
子どもたちと接する中で耳にしたのが、お肉あまり好きじゃないという言葉。それを聞いて、きちんとしたものを1回食べてほしいというところから、出張授業をスタートしたそうです。
「ソーセージを作る体験をやってみよう」
これが、同社の食育活動のはじまりになったのでした。澄枝さんはそのときの様子を話します。
「やっぱり売ってるソーセージとは違うんですよ。生の肉を使って、天然の腸に詰めるって。肉が苦手だと言っていた子が、自分で作ったソーセージを口にして、おいしいと笑ってくれるんです。やっぱり、笑ってくれると励みになりますよね。 でも、豚にしても牛にしても、命をいただくってことが今の子はなかなかピンとこない。テーブルに出てくるものしか知らないのかなと感じることが多くて。お肉でも何でも。育てられている環境があって、牛舎豚舎があり、人の大変さ流通の大変さ、さばかれる過程やスーパーなどへ卸す工程が発生する。それから、親御さんが調理をして口にする。命のバトンっていうか、そういうのを伝えたかったんです」
「屠殺」という生々しさも、伝わるように伝える
「命をいただくことを伝える」同社の熱意は加速していきます。
まずは、同社の代表が食育の専門として食育指導士の資格を取りました。そして同社の社員が、食育に関する紙芝居を作りました。
「屠殺(とさつ)をするということは、生々しいじゃないですか。それでも、どういうふうに人の手が加わるんだよっていうことは伝えたい。いかに ソフトに和らげるかっていう部分を工夫して紙芝居は作ってきました。それでも難しいですね。柔らかく、でも伝えたいことをちゃんと届けるというのは」
一番最初は、小学校低学年に向けて始めましたが、今では保育園からも依頼が来るようになりました。 そうしているうち保育園児だとそのままでは理解してもらえる部分が少ないと感じ紙芝居も作り直したり、衛生面についてもどう教えていくのかなど、課題は山積みなのだそうです。
また、支援させてもらっている地域のサッカー少年団には、節目節目でフリー形式のバイキングを開催しています。ご飯、豚汁、焼肉というのを準備して子どもたちに食べてもらう。
おかわり自由でいくら食べてもいいけれど、きれいに取って焼いて、残さず、焦がさず食べるということで、「欲張らずにきれいに食べてくださいね」ということを伝えているそうです。
「『自分の分量』というところに視点を置く。これまでにない食育の形です。バイキングは、今、子どもたちだけの参加にしているんです。開催した当初は、親御さんが入りたがっていたのですが、あえて手出しをしてもらわないように。子どもたちだけで考えて感じてもらう。任せているんです」
この取り組みで驚いたことは、食費を含めて食育関連に使用するものはすべて同社の持ち出しでやっているということです。ボランティアだったのです。
何がそこまで同社を突き動かしているのかというと
「ただ、うちだからこそできる、今できることをやろうと」
澄枝さんはただ淡々と話します。
後編へ続く(https://thelocality.net/kiminiyaiteageru-asaka-2/)
情報
株式会社ナチュラルポークリンク
HP:https://www.naturalporklink.co.jp/





