「肉が苦手だと言っていた子が、自分で作ったソーセージを口にして、おいしいと笑ってくれるんです」
「やっぱり、笑ってくれると励みになりますよね」
そう語るのは、埼玉県に拠点を置く『株式会社ナチュラルポークリンク(以下、同社)』の諏訪澄枝(すわすみえ)さん。
同社は、牛や豚の食肉卸売り、飲食店経営、そして学校や保育園への出張授業を行っています。一見バラバラに見える3つの事業は、「食べることの大切さを伝えたい」という1本の線でつながっていました。
前後編の前編はこちら⁽https://thelocality.net/kiminiyaiteageru-asaka-1/⁾
明け方から始まる、食肉を卸すという仕事

筆者は、お肉屋さんが『君に、焼いて揚げる。』の店舗の他に、食肉を卸している同社の新座工場へも訪れました。出迎えてくれたのは、工場長の上原貴明(うえはらたかあき)さんです。
時刻は14時頃。上原さんは、業務時間外にも関わらず取材に対応してくださいました。業務時間外の言葉に、何時からお仕事をされていたのか疑問に思いうかがってみました。
「新座工場は朝5時から動き出します。飲食店もそうですが、老人ホームや学校給食にも卸していますね。なぜ、朝5時からなのかというと、学校給食さんが、お肉は朝一番で挽いたものでないとダメというルールがあり、小学校への納品は7時20分までに完了しなければならないからです」
新座、志木、朝霞、和光、世田谷、複数の自治体の給食に、この工場から肉を届けているのだそうです。
早朝から稼働するという、工場の裏側を見せてもらいました。
「実際のお肉をお見せします。冷蔵庫の中に肉がしまってありますので。これが同社ブランドの嬉嬉豚です」

大きな肉の塊に、息をのみました。
上原さんは続けます。
「今見ていただいているのは骨がない状態。実際には、枝肉と言って骨が付いたままで入荷してきます。枝肉は、豚1頭が半身に切られ、骨が付いています。皮は剥いでいる。ぶらーんとぶら下がって入ってきて、地面すれすれまでの大きさです。それを職人が1頭1頭、手さばきで解体していくというスタイルです。豚1頭はだいたい100kgになるんですよ」

そして、新座工場にも、近隣の小学校の子どもたちが見学へ来るそうです。
「スーパーで売っている肉は、もう薄切りとか、とんかつの形になっていますよね。触っ ても柔らかいんですよ。プニプニプニンって。ただ、卸に入ってくる実物は、人間の肌を触っているみたいに、筋肉だったりして硬いんです」
手袋を付けて肉を触った子どもたちが、「あっ、硬いんだ」と驚いたり、「あっ、ここは柔らかいんだ」って言ってくれるそうです。
「普通の食卓では、きれいに整っているものしか見たことがないので、整形される前の姿を見て、グロテスクだなと感じると思います。でも、子どもたちが各自何かを考えて、感じ取ってもらえればというところですね」
冷蔵庫から出ると、こんな珍しいものも見せてもらえました。
「これが牛のモモのところに付いているような骨になります」「そしてこちらが、豚のゲンコツの部分」

「同じような場所の骨なんですけど、豚と牛でこんなに違う。大きさも。お肉が中央に固まっていて、肉の左右から骨が飛び出しているような漫画の肉、例えばアニメのONE PIECE(ワンピース)で、ルフィが食べてるような、お肉って存在しないんですね。ギャートルズが持ってるようなお肉って言うんですかね。そういったものは、肉の部位としてありません。『漫画肉』を模造したようなハンバーグを売っている。そういった飲食店さんは、近年、見かけますけどね」
話を聞いて、より身近に、よりリアルにお肉というものを想像できます。ファンタジーではなく、生き物としての姿を。そして、工場内には、少しの獣臭さ(けものくささ)が漂っていたことを否定できません。
「いかがでしたか。やっぱり独特な匂いがするんですよね。小学生には『臭い臭い』と言われちゃうことがあるんです。特に女の子ですかね。私も自分の子どもに『臭い』と言われてしまって」
牛や豚も、だからこそ大切に食べないといけない。筆者は自然とうなずいていました。そして、上原さんから一連のお話を伺い、仕入れたお肉はいつまでに消費されているのか気になりました。
「基本的に枝肉に関しては、仕入れたその日に、全部消化するような流れです。鮮度が大切なので。嬉嬉豚に関しては、このスパイラルですね」
命と真摯に向き合い、食べることの大切さをまさに表現している。自分の心の中で、ずしんと感じるものがあります。大人の自分でさえ、肝に銘じないといけないことだと強く思い、新座工場を後にしました。
『見えない過程』を伝えるということ
「アニメのような『漫画肉』は存在しない。筋肉は硬く、現場には獣の匂いが漂う」
新座工場で上原さんから発せられた言葉こそが、私たちが生きるために欠かせない『食』です。
近年、スーパーや外食が当たり前になり、整ったパック肉やおいしそうに盛り付けられたお肉しか私たちは知りません。取材を通じ強く実感したのは、食品が食卓に並ぶまでの過程が見えないということです。
生産から消費までの距離が広がっており、まさに『命をいただく』という感覚は、日常から少しずつ離れていると言えそうです。
澄枝さんへの取材の後半、こんな本音を聞くことができました。
「大手の事業者さんには色々な補助があるかもしれないけれど、うちは本当にしんどい。がんばって来たけど、値上げも必要になってきました」
世界情勢の不安定化や物価高は、食肉卸の現場を容赦なく直撃しています。利益だけを考えれば、売れる部位だけを生産者から購入して、顧客へ卸すことが良いのかもしれません。
同社の行う『一頭買い』や、持ち出しの『食育ボランティア』は一見、逆行しているようにも感じます。それでも澄枝さんの信念は揺るぎません。
「うちは一貫して一頭買いなんです。職人さんたちの技術でいかに『命』の無駄を出さないか。あとは、普段売っていないような部位も売ることで、お肉のことをお客様に理解してもらう、ということでしょうか」
職人の手さばきで、硬い筋肉や本来なら捨てられる部位を、おいしさに変えています。命を余すことなく。これは、同社の命への敬意ともうかがえます。
そして同社が行う、子どもたちの工場への見学、出張授業も単なるボランティアではありません。日々自分たちが向き合っている『命のバトン』を次世代へ、正しく引き継ぐための血肉でしょう。
全ての取材を通して、澄枝さんの夫で代表の諏訪秋彦(すわあきひこ)さんは、事業についてこのようなことを教えてくださいました。
「私たちは『地元に密着して、いただいた分を地域や、子どもたちに還す』こういうことをやっています」
その言葉の裏には、お金よりも大切な『食の本質』を根付かせたいという想いがありました。取材後の食事で、目の前のお肉を口に運ぶ。その瞬間、はっとします。
お金を出せば何でも手に入る時代だからこそ、『命のバトン』を忘れてはならない。これからは、「いただきます」に『命をいただく』実感としての深い思いが込められます。
情報
株式会社ナチュラルポークリンク
HP:https://www.naturalporklink.co.jp/





