
秋田県湯沢市秋ノ宮役内(あきのみややくない)地区で、道路と家との間にある30メートル以上とみられる高さの大きな杉の木が切り倒されることになりました。木の伐採を任されたのは、専門業者ではない「なんでもできる」地元の70代のお父さん二人。困り事を自分たちで助け合って解決する、生き生きとしたこの地に生きるレジェンドたちの姿をレポートします。

目次
「そんなことまでできちゃうの?!」自分の日常にない驚き
秋ノ宮役内(やくない)地区には、なんでも自分たち自身で助け合って解決することを当たり前のように行ってきたレジェンドがたくさんいます。
ここには、身の回りの困りごとに対して「なんでもできる」人たちが「そんなこともやっちゃうんですか!」ということを生き生きとやってのけるリアリティがあります。すごいことをサラッとやってしまう方々の飾らない人柄も魅力に感じます。
生活する上で何か困り事があったら、専門の業者さんに解決していただくことが多い私たちにとって、家の前の大きな木を切ることを当たり前のように自分たちでやり切る方々の姿はとてもかっこいいものに思えました。このレジェンドたちにぜひ話を聞きたい!と取材に至ったのです。
亡くなった仲間から引き受けた心配ごと
2026年2月22日、役内地区で、杉の木を伐採するためのお祓(はら)いが行われました。木には神様が宿っているという考えから、この地区の人たちは昔から大木を切る前にお祓いをしているのだそうです。この日はお祓いと、24日に予定している伐採の準備を行うために集まったレジェンドたちにお話を聞きました。

この杉は、道路と家に挟まれた狭い場所にこれまで伸びっぱなしになっていました。幹の太さは両手で抱えきれないほどで、高さは推定30メートル以上あるとみられるこの木は、切るのが困難な上に、早く切らないといつ倒れてもおかしくない状況であり、この地域での心配の種になっていたのだそうです。
この木の目の前にある家のお父さんは昨年入院し、亡くなってしまいました。木の伐採を業者に頼んだ場合、この大きさでは数十万円もかかってしまいます。
そこでお父さんは、生前に数十年の付き合いがあった、近所の菅春夫(すが・はるお)さんと菅廣一(すが・ひろいち)さんにこの木の伐採を任せていました。このお二人はそれぞれ、亡くなったお父さんと同級生・親友という関係で、アスパラ作りや米作りの仲間でもあったそうです。
「なんでもできる」レジェンドたち
高くそびえたつ杉の木を見上げながら、「どうやって切るんですか?」と尋ねると、春夫さんは「上がっていけば、あとは俺の仕事場だな」とニヤリと笑いました。▲菅春夫さん

このような杉の木を伐採するには、木の上の方から少しずつ枝を落としていき、それから切り倒さなければなりません。春夫さんは、30メートル以上と見られる高さの木の上の方まで登ります。恐る恐る春夫さんに年齢をお聞きすると、「年は聞かねえでけれ」と笑いながら、「いま(すぐ)に80になる」と教えてくれました。

亡くなったお父さんの家族である佐藤真利子さんは「田舎のお父さんってなんでもできるの。水道屋さんじゃなくても、土建屋さんじゃなくても、なんでもできるの」と話します。
廣一さんは「なんでもやってみねばわかんねえから。なんでもやるんだ、生きるうちは」と教えてくれました。

廣一さんは以前私がこの地区を訪れたとき、役内番楽(やくないばんがく)という集落の芸能で役を生き生きと演じる姿を見せてくれたこともあるし、春夫さんは地元で撃ったクマをさばいて熊鍋を作って私たちに持ってきてくれたこともあります。2人とも本当に、なんでもできる人なのです。
いざ伐採!2人の頼もしい姿

日を改めた24日、木を切るために春夫さんと廣一さんが集合しました。ヘルメットを被った春夫さんは、ロープを腰につけ、チェーンソーを持ち、枝を足場にしながら杉の木の上のギリギリまで登っていきます。
木の上で春夫さんがチェーンソーで切り口を作り、地面にいる廣一さんが木にかけたワイヤーをショベルカーで引っ張って倒していくという、チームワークばっちりの作業です。
上から少しずつ切り落として、木の上の方がさっぱりしたところで、春夫さんは確かな足取りのまま地面に戻ってきました。

その後、廣一さんと春夫さんが慣れた手つきでチェーンソーとノコギリで幹の下の方に三角に切り込みを入れ、逆側から幹を輪切りにするようにチェーンソーで切り込みを入れて楔(くさび)を打ち込むと、杉はミシミシと大きな音を立てて、伐採を見守る近所の方々の「おお〜」という歓声と共に、安全な場所に倒れていきました。倒れた木の樹齢は100年以上とみられるということです。
地域に根付く生命力
なぜ木を切ることを引き受けたのか春夫さんに尋ねると、「(亡くなったお父さんは)仲間だから。ずっと気にしてたったんだよ」と当たり前のことのようにつぶやききました。秋ノ宮には、身の回りの困りごとを互いに助け合いながら自分たちで乗り越えて暮らしてきた人生の先輩たちがいます。こうした「なんでもできる」方々の生命力から、私たち大学生が見習うことがたくさんありました。


※筆者撮影以外の写真・動画提供は小野塚真美さん





