水木しげるの妖怪世界、妖怪百鬼夜行がやってきた!【山形県山形市】

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子どもの頃に魅了された妖怪の世界

山形に妖怪がやってきた。

SNSを眺めていると、「東北初開催」という文字が目に飛び込んできた。山形美術館で開催される「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展」である。

会場となる山形美術館は、筆者が暮らす場所からほど近い。情報を見つけたときには、すでに足を運ぶことを決めていた。

筆者は幼い頃から、小説や物語を読むことが好きだった。そのきっかけとなったのは、小学校の図書館に置かれていた怖い話や怪談の本である。

ページをめくるたびに、背筋が少し冷たくなる。それでも続きが気になり、本を閉じることができない。読んでいるうちに、いつもの日常から遠く離れた、不思議な世界へ引き込まれていく。

一時期は、図書館にある怖い話を次々と探して読むほど夢中になっていた。

その中で出会ったのが、水木しげるが描く妖怪たちだった。
恐ろしい姿をしていながら、どこか愛嬌がある。人間を驚かせるほどの力を持ちながらも、不思議と親しみやすさを感じさせる。

怖いのに、目を離すことができない。

水木しげるの妖怪たちは、幼い筆者にとって、恐怖と好奇心の境目に立つような存在だった。

だからこそ、その妖怪たちが山形にやってくると知り、展覧会へ行かないという選択肢はなかった。

写真:会場の山形美術館

東北初開催「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展」

水木しげるといえば、『ゲゲゲの鬼太郎』を生み出し、日本に妖怪文化を広く浸透させた漫画家である。
鬼太郎や目玉おやじ、ねこ娘、ぬりかべ、一反もめん。世代を問わず、多くの人がその姿を一度は目にしたことがあるだろう。

山形美術館で開催されている展覧会の正式名称は、「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~」

会場では、水木しげるの半生と妖怪との出会い、妖怪観に影響を与えた人物や文献、そして100点を超える妖怪画の原画などが紹介されている。

展示を巡っていると、単に有名な妖怪の絵を見ているのではなく、水木しげるが妖怪をどのように捉え、何を感じ、何を伝えようとしてきたのかをたどっているような感覚になった。

水木しげるの人生を通して、その妖怪哲学が少しずつこちらへ流れ込んでくる。
詳しい展示内容は、ぜひ実際に会場を訪れて確かめてほしい。ここでは、筆者が特に興味深いと感じたポイントを紹介する。

水木しげるは、いかに妖怪と「出会った」のか

展示は、山形美術館の1階と2階で大きく内容が分かれている。

1階では、主に水木しげるの半生と、妖怪との関わりが紹介されている。
中でも印象に残ったのは、水木しげるが人生の中で、いかに妖怪と「出会ってきた」のかという点である。

最初の大きな出会いは幼少期だった。

鳥取県境港市で育った水木しげるは、近所に住んでいた「のんのんばあ」と呼ばれる女性から、妖怪や不思議な出来事について、数多くの話を聞いて育ったという。

中でも印象的だったのが、「べとべとさん」にまつわる体験である。

夜道を歩いていると、誰もいないはずの後ろから足音が聞こえてくる。振り返っても、そこには誰もいない。
そうした幼少期の不思議な体験と、のんのんばあから語られた数々の妖怪話が、水木しげるを妖怪の世界へと引き込んでいった。

もう一つの大きな妖怪との出会いは、戦争体験である。

水木しげるは、戦地となったパプアニューギニアで非常に過酷な経験をした。その中で登場するのが、『ゲゲゲの鬼太郎』でも広く知られる代表的な妖怪「ぬりかべ」である。

日本人にとってなじみ深いぬりかべが、日本ではなく、遠く離れたパプアニューギニアでの体験と結び付いていることに驚かされた。

さらに、水木しげるの作品には、海外の精霊や不思議な存在も数多く登場する。

妖怪は日本だけのものではなく、自然や目に見えない存在に対するおそれから生まれた、世界にも通じる文化なのかもしれない。

1階の展示を通して、水木しげるが幼少期の記憶や戦争体験をもとに、なぜ生涯にわたって妖怪を描き続けたのか、その理由の一端を垣間見ることができたように感じた。

「創作」ではなく「継承」だった妖怪画

2階では、100点を超える妖怪画の原画が並ぶ。
展示の中で最も印象に残ったのは、水木しげるの妖怪に対する考え方だった。

筆者は、それまで多くの妖怪は水木しげる自身が創作したものだと思っていた。

しかし実際は違う。
水木しげるは江戸時代の絵巻や浮世絵、日本各地に伝わる伝承、さらには柳田國男をはじめとする民俗学者の研究など、先人たちが残してきた妖怪文化を受け継ぎ、それを現代へ伝えることを大切にしていたのである。

展示では、古い文献や絵図と、それをもとに描かれた水木しげるの原画が並べて紹介されている。

妖怪を「創る」のではなく、「受け継ぐ」。
その姿勢を知ったことで、水木しげるの作品の見方が大きく変わった。


背景まで見てほしい、原画の圧倒的な迫力

そして、ぜひ会場で見てほしいのが原画である。

印刷では気付かなかった墨の濃淡や繊細な線、背景の木々や岩、空気まで描き込まれた圧倒的な情報量。
妖怪だけではなく、その妖怪が存在する世界そのものが描かれている。

だからこそ、作品の前に立つと、妖怪が本当にそこにいるような不思議な感覚になる。
さらに会場にはVR体験コーナーも用意されている。

専用アプリを使うと、水木しげる作品の妖怪たちが目の前で動き出す。
原画を見た後だからこそ、その世界観へ入り込める演出になっており、子どもから大人まで楽しめる展示だった。

写真:筆者が購入した本展示会のガイドブック(2,200円)

この夏、妖怪の世界に触れてみては

子どもの頃は「怖いもの」と思っていた妖怪。

しかし大人になって水木しげるの作品に触れると、その奥には日本人が自然とともに生きてきた歴史や、目には見えないものへの畏敬(いけい)の念が息づいていることに気付かされる。

妖怪を通して、日本文化の奥深さに出会える展覧会だった。

今年の夏休みは、家族や友人と一緒に山形美術館を訪れ、水木しげるが描いた妖怪たちの世界に足を踏み入れてみてはいかがだろう。

※写真は、7月17日全て筆者撮影

開催概要

展覧会名:水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~
会場:山形美術館 山形県山形市大手町1-63
開催期間:2026年7月10日~8月22日
アクセス
徒歩:JR山形駅東口から約15分
車:山形自動車道・山形蔵王ICから約15分
観覧料
・一般:1,600円
・高校・大学生:1,300円
・小・中学生:700円
URL:https://www.yamagata-art-museum.or.jp/exhibition/6490.html

田口雄太

田口雄太

神奈川県出身。現在は山形県で探究教室の運営に携わっています。アフリカ・ルワンダでの2年間の生活経験もあり、旅と写真を通して、その土地ならではの感動を伝える記事づくりを目指していきます。

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