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名前の呪いと、響き合うエネルギー
「親が『剛(つよし)』なんて名前をつけなければ、こんな思いをしなくて済んだのに」
小学校1年生の彼を襲ったのは、クラスメートからの残酷なからかいだった。女の子のような顔立ちで、体格も気も小さかった彼は、「剛なのに弱いじゃん。ヨワシじゃん」と嘲笑(ちょうしょう)された。
幼い心に深く刻まれたのは、自分を激しく否定する痛みと、彼らを恨むほどのどす黒い怒り。それが、精神保健福祉士であり「弱さバリュー研究所」の所長を務める鈴木剛さん(活動名:スズキヨワシ)の原点だ。

絶望の底と、究極の二択
引きこもりの若者たちのための居場所を作るなど、人の人生に影響を与える支援を続けてきたヨワシさんだが、彼自身の道のりは決して平坦ではない。
20年来の夢だったスクールソーシャルワーカーにやっとなれたのに、半年で辞めざるを得なくなった。失意のどん底で受けた検査で突きつけられたのは、ADHD(注意欠如・多動症)の傾向。そして最近になって気づいた、頭の中に映像が浮かばない「アファンタジア」という特性だった。
臨床心理士から迫られたのは、「薬を飲んで頭を静かにするか、あなたの芸術性を大切にして生きるか」という究極の二択。彼は迷わず後者を選んだ。自分の頭はみんなと違う。ならば、そのポンコツさもひっくるめて芸術性を全開にして生きてやろう。
そこから彼の中からどろどろとあふれ出したのが、自身の弱さを投影したキャラクターが登場する絵本『よわさの森』だ。後悔するゾウや心配性のカメ。気づけばその弱さは、人間の煩悩と同じ「108個」にまで増殖していた。


「できない」と叫んで勝ち取った、本当の強さ
人が当たり前にできることが、自分にはどうしてもできない。
以前の職場で、障害者のお昼ご飯を均等に取り分ける作業が彼には全くできなかった。目を閉じても頭の中に映像を思い浮かべることができない「アファンタジア」という特性ゆえに、均等に分けられたお弁当のイメージ(完成図)を頭の中で描くことができなかったのだ。 社会に適応しようとするなら、必死に隠して努力する場面だろう。しかし、彼は強がることをやめた。
「僕には、これがどうしてもできないんです」と、自分の弱さを丸裸にして、周囲に差し出したのだ。
結果どうなったか。周りは彼を責めるどころか、「つよぽんはご飯とお茶だけでいいよ。その代わり、得意な司会進行をやって」と、彼が最も輝ける役割を与えてくれたのだ。
弱さを隠し擬態して社会で生き抜こうとするのではなく、弱さを徹底的に観察し、自ら開示することで、自分の世界を生きやすい環境へと変えた。この「できない」と叫んで勝ち取った体験こそが、彼の人生を決定づけた強烈なパラダイムシフトだった。
宇宙飛行士への手紙と、波及する熱量
自身の弱さを受け入れたからこそ、彼は他者の弱さや、そこに秘められた小さな情熱を決して見逃さない。2003年から新婚の自宅を開放して始めた、生きづらさを抱える若者たちのための居場所でのこと。
「ぼく、宇宙に興味があるんです」と、大学に行くことができなくなっていた一人の学生がぽつりとこぼした。
一般的な支援者なら、ここで「いいね」とあいづちを打ち、現実的な就労の話に切り替えるだろう。だが、ヨワシさんは違った。「じゃあ、宇宙飛行士に連絡してみようよ」と、本気で、毛利衛さんのいる科学館へ手紙を書いたのだ。
数ヶ月後、「毛利がお会いすると言っています」という信じられない電話が鳴る。たった10分の面会。しかし、自分の小さな「好き」が宇宙まで届いたという強烈な成功体験は青年の人生を根底から変え、現在彼はIT企業に就職し、大活躍している。
相手の情熱に巻き込まれ、理屈や支援の枠をぶち壊して一緒に走り出す。この激熱な奇跡こそが、ヨワシさんの本質だ。
彼が作った自己開示カード「私、実は、弱いんです」の場では、誰もが自発的に弱さを共有し合う。誰かが「できない」とさらけ出した瞬間、周りの人たちに「助けたい」という気持ちや行為を自然と引き出す。いわば弱さの生み出すアフォーダンスだ。そして、参加者が自発的に自分の研究を始めていく。
奇しくも彼自身の54歳の誕生日である9月22日。不登校の子から世界を旅した人までが集う『よわさの森学院』の文化祭が開かれる。一人ひとりの「情熱」と「弱さ」を不器用に差し出し合い、それが誰かに伝染していくのをただ味わう、最高にカオスで温かい空間になるはずだ。

ジャッジを手放し、内なる弱さと向き合う
社会の圧力に歯を食いしばって「強い自分」を演じるのは、もうやめにしよう。
世の中はいつだって強者を求める。弱さは克服すべき欠点として扱われ、生き残るためには強いふりをし続けなければならない。
しかしぼくは、ヨワシさんのような、人が発する「これをやりたい!」という純粋なエネルギーに触れたとき、自分の損得勘定や戦略的な利益など完全に抜け落ちてしまい、ただ相手のワクワクと一緒に動くことにこの上ない幸せを感じる人間だ。
だからこそ、社会の常識に真っ向から抗い、自身の「弱さ」そのものに価値を見出して人の心を動かしていくヨワシさんの生きざまに、どうしようもなく引きつけられたのだ。
ヨワシさんは最後に、自分の感情に気づくための「気持ちメモ」を勧めてくれた。事実に対して良い悪いを一切ジャッジせず、ドロドロした感情もすべてありのままに書き留めるのだという。他者の評価を手放し、ただ内省して書き出す時間が、どれほど心を救うか。正解は、もうすでにあなたの中にある「弱さ」の中にひっそりと隠れているのだ。
だから、最後に一つだけ問いかけたい。
あなたが絶対に人には言えないな、と思っている弱さって、なんですか?





