「いつものウォーキングコースにスイセンが群生しているのを見つけました」。
知人が投稿したSNSの写真に吸い寄せられた。4月、雪国秋田でも満開の桜の写真が、毎週のようにSNSに投稿される。しかし、スイセンが地面を覆ってどこまでも群生するさまは、むしろ桜よりも珍しい。確かに田舎に行くと、国道沿いに、民家の軒先に、畑の脇に、どこにでもスイセンは咲いている。花自体は珍しくないが、群生となったら…。真っ黄色のじゅうたんが広がる様子をぜひ一目見たくなって、桜の予定を変更しすぐさまその場所に向かった。
秋田県北秋田市。市役所のある中心部から数キロ離れ、住宅街と隣の集落をむすぶ道を曲がると、一気に人里を離れ交通量もさほど多くない市道が一本通っているだけ。だが、雑木林の向こう、そこだけが光を浴びたように真っ黄色な花が咲いている。車を降り枯れ枝を踏みしめ、スニーカーで正解だったなどと思いながら恐る恐る近づいてみた。
え、え、えー――――!?
一体どこまで続いているんだ…。あっけにとられて手をかざし、遥か遠くの斜面まで黄色く染まっているのを言葉なく見渡す。倒木の下と言わず、枯れ木の隙間と言わず、とにかくどこを見ても180度、八重咲スイセンの無法地帯が咲きたい放題に広がっていた。
知人の話によると、もともとは誰かが植えたのかもしれないが、今は自然のままに増えているんだと思う、とのこと。
なぜここを名所にしない…。観光マップに載せない…。しかし、観光となるとそれなりに整備が必要…。スイセンガーデン…。レンガで囲まれ、枯れ木を取り除き、タイルが敷かれ、斜面や雑木林がきちんと整備された様子を思い浮かべた。
いや、今ここがいいのかも知れない。
「見たいならここまで来てみたら?上ってきてみたら?どうぞどうぞ、アタシたちに追いつけるならスマホ持ってどこまでもおいで。多分全部映しきれないと思うけど(笑)。」
自然に挑発されている気がした。これでもかと言わんばかりにもりもりと、斜面を覆いつくして咲き広がるスイセンは、誰の手にかかることもなく陽の光を浴びたいだけ浴び、きらきらと光っていた。