会津坂下町のはしっこ、田んぼと森に囲まれた場所に「州走(すばしり)の湯」はあります。
建物の構えは見るからに歴史がある木造建築。
150年以上ものあいだ、暑い夏も大雪の積もる冬も、たくさんのお客様をお迎えしてきたことが想像できます。
初めて訪れたのに、何度も訪れたことがあるような懐かしさを感じながら、州走の湯に入ってオーナーさんのお話をうかがってきました。
目次
やさしさの溢れる4代目オーナー
会津出身の私も初めて訪れた「州走の湯」。
周辺住民の方からバイカーの方まで、訪れる方の層は幅広く、最近では古民家が好きな方にも注目されているそうです。
「州走」というのはこちらの集落の名前で、富士山にある須走と表記されているWebサイトがいくつかあるのですが、正式には「州走」です。
齋藤賢悦(さいとう・けんえつ)さんは、この州走の湯の4代目。
30年間会社勤めをされたあとに、家業として州走の湯を継がれました。
この日は筆者のお知り合い(州走の湯の常連さん)に同行いただいたのですが、到着してすぐに、齋藤さんは「白菜持ってげー!」と、収穫したばかりの大きな白菜まるまる1つを筆者の同行者さんにお渡ししていました。
この光景だけで、実家に帰ってきたようなほくほくとした気分になります。
こんな素晴らしいこと、現代社会じゃなかなか味わえません。
でも、州走の湯には、あるんです。
貴重品管理はオーナーに一任 州走の湯・鉄のオキテ
脱衣所をぐるっと見回すと、「○○(苗字)専用」と書かれた背の高いイスが。
常連さんが足腰に負担のかかりにくいイスを置いているそうです。
ほかにも常連さんがヒーターを置いていたり、お名前の書かれた温泉セットが並んでいたりして、田舎ならではのなんともいえないゆるさとあたたかさ、そして州走の湯への高い信頼を感じます。
創業150余年ともなると、ロッカーなどはなく、脱衣所に持っていきたくない貴重品の管理はオーナーである齋藤さんに一任します。
筆者も驚きましたが、これがみんなの田舎・州走の湯の鉄の掟なのです。
郷に入っては郷に従えなのです。
もちろん、全て安全に管理してくださいますのでご安心くださいませ。
いざ、入湯!
浴場への扉を開けると、湯気でメガネがくもります。
メガネをかけていることを忘れていました。あるあるです。
お湯は無色透明、温度は41度とちょうどいい。アルカリ由来のとろとろ成分が心地よく、ついつい長湯してしまいます。
まずお湯に浸かって気づいたのは、とにかく静かだということ。
ときおり水がしたたる音が聞こえて、その余韻がたまらなく気持ちいいのです。
まわりになにもない田舎だからこその利点が十二分に発揮されていて、身も心もほどけていきます。
皆さんいかがでしょうか、ご想像できておりますでしょうか?
以下に余白を作りましたので、少しのあいだ、州走の湯の心地よさを想像してみてください。
ご協力ありがとうございました。
さて、こんな感じでぽけーっと何も考えない時間を存分に楽しむことができ、まさに瞑想タイムといったところです。
とろとろの成分は、皮膚や胃腸、リウマチにとくに効果があるそうで、柔らかくて手触りが最高!
筆者が感じたのは、まるでお母さん抱っこされているような、もしかしたらもしかして胎児だったあの頃の自分が思い出せてしまうような、そんなやさしさに包まれている感覚でした。
できることならこのままお湯と一体になりたい、そう願ってしまうほどです。
ちなみに、源泉は20℃ほど。
昭和に制定された温泉法によると、源泉温度が25度未満・含有物質の量によって鉱泉に分類されるそうですが、今では法律が変わって、温泉か鉱泉かという線引きも明確ではなくなっているようです。
つづく。