60年にわたって続く吹奏楽部の部活動、年齢差は最大で半世紀!OBOGが世代を超えて奏でるハーモニー【秋田県秋田市】

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〜秋田南高校吹奏楽部OB会活動紹介〜

※2022年 秋田南高校創立60周年記念式典前の記念撮影 佐川日奈子さん提供

学生時代の部活動で、チームで行われる競技などは社会で生きるための学びの要素が多くあると言われています。

吹奏楽もそのひとつであり、指揮者のもと、一人ひとり違う役割を持ち演奏を完成させます。そこには自主性や他と協調していく力など、チームのコミュニケーション力を必要とします。

そのチームコミュニケーションが、60年にわたり継続している部活動があります。

2022年に創立60年を迎えた秋田県立秋田南高等学校吹奏楽部(以下南高吹奏楽部と略す)は、卒業生を中心に広くネットワークを持ち、OB会が吹奏楽団を結成したり、現役生の部活動を支援する活動を続けています。

※55回定期演奏会のプログラムとチケット 2023年6月3日 筆者撮影

南高吹奏楽部は、5年毎の定期演奏会でOB演奏と現役生との合同演奏を行っています。この度、2023年6月3日に行われた55回定期演奏会の合同演奏では、現役生ならびに、遠くは奈良県など全国から集まったOB・OG合わせて191名がステージに上がりました。

9期(1972年度卒)で最年長の桑原和夫さんを筆頭に、今年OB会に加入したメンバーとの年齢差は実に50歳。合同演奏では半世紀分の厚みと、そこに現役生のフレッシュさがプラスされ醸し出されるハーモニーはまさに圧巻。

客席に押し付けられるほど音の圧を感じるボリュームある演奏に、場内からは感嘆の声が漏れるほど。全員が集まれる時間は限られており、直前の数回のリハーサルのみで本番に臨んでいるという事実には耳を疑いました。

その日、その素晴らしい演奏に携わった方々にその思いや、そこに関わる経緯についてお話を伺いました。

※現役生も交えたリハーサル時、最年長の9期の桑原さんがメンバーに紹介されている場面。写真に収まりきらないほど多くのメンバーに囲まれて。 2023年6月3日 佐川日奈子さん提供

遠くから参加する理由。「秋田の実家」は南高吹奏楽部のイベント

親の仕事で転勤が多かったため秋田には現在実家がなく、秋田を訪れるのは南高吹奏楽部のイベントのためだけ。吹奏楽部のイベントは秋田の実家のようなもの、と話すのは宇都宮市に住む22期(1985年度卒)の渡辺孝文さん。

「卒業以来全く関わっていなかったけれど、10年前に偶然SNSで再会した先輩に声をかけられたのがきっかけで参加するようになりました」という渡辺さん。

「人員が足りなくて」という理由で参加した渡辺さんでしたが、いざ演奏に向かうと、そこに集った現役メンバーだけではなく、OBのメンバーも瞬時に必要とされるタスクに達する、「どの年代も全国大会を目指す共通目標で繋がっているからこそ成せる」そのクオリティに驚かされたと言います。

それまでは、もう秋田には縁がないと思っていた渡辺さんでしたが「何のしがらみもない、ピュアに吹奏楽に打ち込んだ当時の自分に出会うため」に実家を訪れるように、イベントがあるごとに秋田に帰省しているのだそうです。

当時の自分と現在の自分、演奏を通して自己を知る場所

※55回記念定期演奏会のOB控室・リハーサルの様子 2023年6月3日 佐藤英仁さん提供

50歳代半ばを迎え「未だに演奏し続ける自分の原点を確認するために参加している」という秋田市に住む23期(1986年度卒)の佐藤英仁さん。20歳も30歳も年の離れた若者と共に演奏することで「まだ自分はイケるのか」を確認しているそうです。

また、今春、32年にわたって続けた教職を退き、音楽教室の講師として歩き始めた23期(1986年度卒)秋田市在住の佐々木雅子さんは「現役生も本当に熱心で素晴らしい演奏。OBは年輪と団結を感じさせる素敵なサウンド」と自身が吹奏楽部の顧問として長く関わった経験から当日の演奏をそう振り返ります。

そして、親子や夫婦で共演される方も少なくないのが南高吹奏楽部の特長。2022年に行われた創立60周年記念式典での合同演奏に続き2回目の親子共演を果たした、23期(1986年度卒)秋田市在住の茂木恵さんは「今回の合同演奏で娘と隣り同士で演奏しました」と家族の成長と共に自分自身の立場、そして南高吹奏楽部の歴史にも想いを馳せます。

「お前は16期」卒業生ではないけれど「深い付き合い」のある場所

コンサートでの司会を務める賀内さん 賀内隆弘さん提供

「演奏がすばらしいのもさることながら、OB・OGの層が分厚く、支援体制が整っています」そう話すのは、秋田県内でアナウンサーとして活躍する賀内隆弘(かうち・たかひろ)さん。

「私は南高校の卒業生ではないものの、南高OBには、音楽業界で活躍する音楽仲間の先輩や同輩が多数いました。同輩からは『お前は16期』と言っていただくほど、当時から深い付き合いがありました」と自らを16期(1979年度卒)のメンバーに数える賀内さん。

自身が若いころから関わってきたことで吹奏楽に造詣が深かったことと、先生たちとのつながりもあったことから秋田県内の吹奏楽コンサートの司会をする機会に恵まれたそうです。さらにそのつながりから南高吹奏楽部の定期演奏会の司会も20年近くにわたり担当することになったそうです。

※「ニュースの顔」として県内に知らない人がいない賀内さん。吹奏楽イベントにも欠かせない存在だ。 賀内隆弘さん提供

「生涯忘れられない」という司会は、長く南高吹奏楽部の顧問を務められ2005年に逝去された高橋紘一先生のメモリアルコンサート。

1969年から18年にわたり顧問を務め、全日本吹奏楽コンクールで13年連続(招待年含む)で全国大会に導き、6年連続金賞という快挙を打ち立てた高橋紘一先生。

そのコンサートの司会を務める中で、南高吹奏楽部から輩出された輝かしいメンバーや歴史を改めて回顧する深い思い出となったそうです。

賀内さんは卒業生でないとはいえ、全ての世代や歴史について詳しく知り、OBそれぞれの経歴や個性についても緻密な情報収集を怠らず、時には校歌を交えた小ネタまで織り交ぜ会場を沸かせます。その絶妙な話術は卒業生以上に南高吹奏楽部に欠かせないハーモニーの一つであるといえます。

「ノミニケーション」でつながりがさらに強固に。盤石なネットワークが現役生を支援

ステージ後の懇親会では、当日の演奏の興奮冷めやらぬうちに、年齢を超えた結束力に杯を酌み交わします。「ノミニケーション」で、遠方から参加した方々の距離をも縮め、異世代間のつながりもさらに強固なものにします。

「当日の演奏を振り返りながら飲む酒は格別においしい」参加している皆が口を揃えてそう話します。

それぞれの立場で「吹奏楽」を軸として構築された盤石なネットワークが現役生たちの演奏を支えています。OB会の活動としては、演奏会のボランティアスタッフとして物理的に動くだけではなく、資金面でのバックアップにも貢献しています。

現在、南高校教育振興会会長とOB会副会長を務められている20期(1983年度卒)の佐川日奈子さんは「OBとして活動に参加されていなくても、現役生の演奏を聴いてくださったり、活動を見守ってくださったりするだけでも十分なご支援です」と、積極的な関わりだけでなく、熱い気持ちをもって見守ってくれるだけでもうれしいと話します。

※2022年、愛工大名電より招待を受けたジョイントコンサートでのパネル。佐川日奈子さん提供 県外での活動も多い中、OB会の支援は重要だ

ひとりひとり違う役割を持つからこそ輝くハーモニー

伝統や歴史に誇りを持ちながら続ける活動は、自分たちだけではなく多くの人にも共感と感動を与えることができます。

昨今の感染症の流行で大勢の人が集まることが制限され、演奏会などの開催が危ぶまれたことも多かった中、今回無事開催されたことで、ひとりひとりがこの場所に集まり奏でる「ハーモニー」がいかに貴重なものであるかがわかりました。

南高吹奏楽部OB会はこの貴重なハーモニーを奏でながら、未来に向け増え続ける仲間たちと共に、現役生の支援を重ねていくことでしょう。

吹奏楽において、ひとりひとり違う役割を持ち努力のうえ完成される「ハーモニー」は、社会にもそのまま置き換えることができます。一つの大きな軸に乗っ取り、それぞれの役割でコミュニケーションの調和を図ることは、厚みのある「ハーモニー」すなわち「パワー」を生み出すことができるのです。

※55回記念定期演奏会のOB控室。本番前の最後の合奏 2023年6月3日 佐川日奈子さん提供

吹奏楽にこだわらず誰しも人生の中で経験のある、共に通った学校や部活動、サークルやグループ、あの時の仲間、あの時の友達。そんな人たちに声をかけてみてください。

共通の経験や価値観を共有し共感し合い一体感を持ちつながることで、新たなハーモニーが生まれ、あなたの人生の中に充実感という大きなパワーがみなぎるかもしれません。

※高橋紘一先生の逝去年の表記が「2003年」となっておりました。正しくは「2005年」です(10月6日訂正)。

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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