猿から生まれたビール!?カルデラ砂防博物館の職員の挑戦!【富山県立山町】

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TATEYAMA ASHIKURAJI Craft Beer販売の様子(筆者撮影 2023年)

2023年4月半ば、立山黒部アルペンルートの開通のタイミングで、地元で栽培したホップで作ったクラフトビール「TATEYAMA ASHIKURAJI Craft Beer」が立山芦峅(あしくら)ふるさと交流館で販売されました。250本のみの限定販売でしたが、想像以上に反響があり、GW3日目にして完売。クラフトビールの「味が均一にならない」ことを長所に捉えて毎回どんな味になるのかわからないワクワク感を楽しんでほしいと語る、芦峅活性協議会の理事佐伯実(さえき・みのる)さんにお話を伺いました。

観光客は通り過ぎてしまう、立山連峰の玄関口、芦峅寺地区

富山県中新川郡立山町芦峅寺(あしくらじ)は立山黒部アルペンルートへの観光客を迎える立山連峰の玄関口です。日本人は立山黒部アルペンルートや黒部ダム、雪の大谷など知らない人はいないくらいの有名な観光地の一つです。興味がある方は昔からの立山信仰の歴史を学べる雄山神社や立山博物館に足を運びますが、多くの方やバスツアーは立山黒部アルペンルートへ直接向かうため、その途中にある芦峅寺の地区は全然人が寄らない、通過するポイントの一つとなっています。

さらに、芦峅寺は富山市街地から25km程度離れており、生活するには不便だったり、仕事を求めて富山市などへ移り住むケースも多く、芦峅寺の最後の小学校も閉校になってしまいました。昔は民家が500軒くらいありましたが、今では100軒ほどで人口が250人です。人口減少には歯止めがかからず、空き家が増え、住民は高齢化し、このままでは芦峅寺は限界集落と化し、衰退していくばかりです。そこで50代前後のメンバーが中心となり、芦峅寺の活性化のために立ち上がりました。芦峅寺は、他の地区から離れているということもあり、昔から団結力が強く、何をするにしても頑張って自分たちで何とかしていかなければならない、という意識が強い人たちが多いところなのです。

村を活性化するための試行錯誤の末、猿がきっかけとなって始まったビール作り

村の名産品を考える中で、久しぶりに芦峅寺に帰ってきた親戚からの「芦峅の水が美味しい」という声を参考に、芦峅の水を売ってはどうかという話が出ました。水の販売はボトル入れなどの手間がかかる上、大手の競合も多く、全国各地に水を販売しているところに立ち向かってくにはパワーが足りないと感じ、水の販売は保留になりました。芦峅寺にあるものを活用したいという観点から、山に生えてる山葡萄でワインはできないか、山葡萄ジュースはどうか、雪深いのでどぶろく作りはどうか、または酵母からパンを作れないかなどなど、いろいろな意見が出ました。また、協議会のメンバーは皆お酒を飲むのが好きなこともあり、自分たちで飲むものを作れたらいいね、というところから「芦峅寺の水でビールを作りたい」という声が上がり、ビールの原料であるホップについて調べていくと、どうやらホップは猿に食べられないということが分かりました。「猿が食べない」ということが芦峅寺エリアにとって非常に重要なポイントだったのです。

猿の深刻な獣害、猟師さん減少で被害急増

芦峅寺ではトマト、きゅうり、なすやとうもろこし、大根などを栽培しており、大根は平野で作るものよりもえぐみが少なくて美味しいものが作られています。しかし、作物への獣害が昔から問題になっていました。以前、猿は猟友会のオレンジのベストを見ただけであっという間に逃げ出していました。当時、古参の大将のような強い存在だった猟師さんの影響力が強かったのかと思いますが、その方が亡くなってから猿は人を怖がらなくなり、県道を歩き回っていたり、猿が村の中に頻繁に入ってくるようになり、畑の作物への被害が拡大しています。昔は猟師さんが100人ほどいたのですが、今では5人もいません。

猿だけではなくイノシシも。水田が消えることで受けた影響

昔は芦峅寺一体で稲作をしていたのですが、イノシシが田んぼで泥浴びをする被害が絶えませんでした。田植えの前でも、稲が実をつけた段階でも泥浴びをするために稲が台無しになってしまうということが問題でした。高齢化もあり田んぼをやめる家が増えてしまい、今では一軒も田んぼをやっている人がいなくなりました。休耕田(きゅうこうでん)となった田んぼは、何もしないままにしておくと数年のうちに草が生え、ススキが生え、しまいには柳の木のようなものが生えてきて、手に負えない状態になってしまいます。そのような田んぼがこのあたりにはたくさんあるのですす。田んぼだった時は森と家との間に田んぼがあって、干渉帯のような役割を果たしていたのですが、ススキなどの植物がボーボーに生えて藪のようになり、獣の隠れ家になってしまっています。

立山芦峅ふるさと交流館の隣の芦峅ホップの杜(佐伯実氏提供 2023年)
ホップのつるの高さ5mもある(佐伯実氏提供 2023年)

休耕田を活用したホップ栽培のはじまり

2年前の2021年、田んぼを最後までやっていた方の土地の持ち主から快く承諾を得て、休耕田を借りることができ、ホップ栽培を始めました。交流館のすぐ横の土地です。間口が20m、奥行きは100mの広大な場所です。毎年草刈りをしたり、地面を起こしたりトラクターで耕したりして管理しているため、まだススキは生えてきていません。その他でも何箇所かでホップ栽培をしております。自分の母親や近所の人にお願いして3〜4人に協力してもらい、試しに畑の片隅でホップ栽培を始めてもらっています。

ホップは多年草なので、毎年植え付ける必要はありません。秋につるになって伸びていった部分をカットすると、来年の春には芽が出てきてきます。高齢になった住民でも負担が少なく栽培でき、猿などの獣の被害もなく作ることができる理想的な作物です。

ホップを栽培し初めてから、そういえば山にも同じようなものが生えてるぞ、と地元の先輩から情報が入り、カラハナソウという野生の山ホップが生えていることが判明しました。芦峅寺は山菜もたくさん取れるので、山からの恵みの一つとして山ホップを売りにして出せないかと検討したものの、香りが栽培種よりも弱く、ビールとしての活用はできませんでした。

しかし、野生のホップが生えているという事実は、標高500m程度という環境の芦峅寺がホップ栽培に適しているのではないかという確信につながりました。

立山芦峅ふるさと交流館の様子。奥にまんだら食堂がある(佐伯実氏提供 2023年)


休耕田の活用を地区の方に還元 ゆくゆくは醸造所も

今後の展望として、ホップを買い取り、小遣い程度でも少しでも地区の方に還元していけるようにしたい、ということを目指して協議会は活動しています。

「TATEYAMA ASHIKURAJI Craft Beerは現在、富山市の株式会社オオヤブラッスリーに生産委託をしていますが、ゆくゆくは醸造所を芦峅寺に作っていきたいですね。立山芦峅ふるさと交流館の中にあるまんだら食堂では芦峅寺の郷土料理などを提供していますが、もっとビールにあう新しい名物を考えていきたいと思っています」

具体的な活動をしながらも、佐伯さんはさらに将来についても考えを巡らせています。

「芦峅寺がもっと気軽に来れるような場所にしていきたいですね。芦峅に来てくれる人と一緒にお酒を飲んだり、歌を歌ったり、山に行ったりして、一緒に楽しめるようにしたいです。自分の子供たちには、芦峅寺に帰ってきてくれたら嬉しい。戻ってこいとはいっていないが、帰ってきたくなったら帰ってくればいいし、友達を連れてきたくなったら連れてくればいいし、ここへ来たいなと思ってくれた人が来てくれたら嬉しいです」

立山山麓地域一体でも協力 地域に広がる可能性

常願寺側を挟んだ対岸にある、旧大山町(現富山市)という立山山麓の地域があります。元々約1300年前に立山を開山した佐伯有頼や常願寺川の対岸に住んでいた有頼の師匠が立山山麓地域一体を大きな宗教施設としてまとめあげていた時代がありました。その頃は地域一体で協力していたとのことなので、昔の人ができたことは今の時代でもできるはず、ということで立山山麓一体の地区同士でもそれぞれの強みを活かしながらできたらいいなと、仲間うちで話しています。

乾燥したホップを持つ芦峅活性化協議会理事の佐伯実さん(2023年6月 取材時撮影)

情報

佐伯実さん

元々役場に勤務していた佐伯さん。自分のできることはなんでもやるというスタンスで活動しており、芦峅活性化協議会の理事、立山芦峅ふるさと交流館の館長、立山ガイド協会、立山カルデラ砂防博物館のミュージアムガイドなどを兼任して精力的に活動を行っている。

芦峅活性化協議会

住所:〒930-1406  富山県中新川郡立山町芦峅寺55-1

Facebook:https://www.facebook.com/ashikura.kouryukan/?ref=page_internal

Instagram:https://www.instagram.com/ashikura_enjoy2023/

立山芦峅ふるさと交流館(まんだら食堂)

住所:〒930-1406  富山県中新川郡立山町芦峅寺55-1

Instagram:https://www.instagram.com/tateyama_ashikura/

坂本友実

坂本友実

静岡県富士宮市

編集部記者

「生き物の精密模型」という非常に限定的な市場で、ニッチな商品を届け方を追求した経験から、いいものなのにマイナーすぎて売れない、伝えるべき人に伝えられなくて歯痒い、という問題を解決したく、媒体にぴったりなアプローチによって「伝えたい想い」を「届けるべき人」に届け、機会損失をなくしていきたいです。

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