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筆者が考える「川」といえば、身近な場所で流れていた東京都大田区と神奈川県川崎市との境にある一級河川・多摩川でした。スポーツ広場やゴルフ場もある広い河川敷を持つわりと大きな川だったので、河川の長短についてはあまり考えたことはありませんでした。
関西に来てたまたま知ったのが日本一短い川の存在、しかもぶつぶつ川というけったいな名前だったのでずっと妙にひかれていました。
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しかし筆者が住む兵庫県の丹波地方からは300キロメートル近く離れた和歌山県の那智勝浦町にあり、アクセスするには奈良県と和歌山県の山間部という延々と険しい一般道を走破するのが最短距離なので、なかなか足が向きませんでした。
我が家から大阪府の南端まででしたら1時間半もあれば着けるのですが、そこから奈良県に入り和歌山県の南端である太平洋岸の町、那智勝浦町まではさらに6時間ほどかかるので、実際の距離以上にずっと遠い存在でした。
筆者は地元・丹波地方で淡水魚の保護と研究活動に参加しており、子ども時代から魚類が大変好きだったので、やはりそんな川にも魚類がいるのか実際にこの目で確かめてみたいと思い、車中泊が可能な軽ワゴン車を最近購入したこともあり、思い切って先月、ぶつぶつ川を訪れてみました。
途中、以前よりはかなり道路の整備も進んだとはいえ、軽自動車でもすれ違いに難儀するような県道も存在し、やはり和歌山県が昔はいかに交通不便な場所だったかを痛感した旅でした。
和歌山の地元の人の話では、昔は航路なら関西地方では最も江戸まで近い場所だったので、大阪よりも関東地方のほうが身近な存在だったそうです。その関係か、黒潮に乗った先にある千葉県の房総半島には、和歌山県と共通した地名がいくつも見られます。実際に移住した人たちも多かったそうです。
さて、ぶつぶつ川が流れる那智勝浦町ですが、町内にはあの有名な観光地である那智の滝を訪れる人が多く、日本最短の川の存在を気にかける人たちはあまりいないようです。
実際、筆者が現場に着いたときには全く人の姿はありませんでした。
国道42号からカーナビゲーションの案内にしたがって、太平洋岸に出る細い道を行った先にぶつぶつ川の案内看板を見つけ、隣接する海水浴場の駐車スペースにクルマを置き歩いていくと、100メートルほど先に小さな橋がありました。橋には粉白川(このしろがわ)と表示がありましたが、ぶつぶつ川ではありません。
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川筋を見てみると、その川の向こうに右側から合流する小さな流れを見つけました。それこそが目的のぶつぶつ川でした。
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ぶつぶつ川について解説がある立て看板や、長さ13.5メートルという表示もあります。
あらためてその川の全貌(ぜんぼう)を見渡すや、その短さには笑ってしまうほどでした。
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先ほどクルマで通った国道のさらに向こうから流れてくる二級河川・粉白川という小さな川の、さらに支流がそのぶつぶつ川ということになります。
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まず気になったのは、水源がどうなっているかということでした。川というものの多くは小さな流れが集まって本流を形成していることが多いので、水源が定かではない場合が多いのですが、そのぶつぶつ川に関してはこれほどわかりやすい水源もないだろうと、またまた笑ってしまいました。
周囲を石で囲まれた穴から水の流れが湧いているシンプルそのものの水源です。
その穴の横には水飲み場と表示があり、どうやら近所にお住まいの人たちはその水を飲料水や野菜などを洗ったりするのにお使いのようです。
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飲用に適する水質というだけあって、水は澄みきっています。
手ですくって飲んでみると、とても口当たりが柔らかい、まろやかなお味でした。
水の中を水源から合流点までくまなくのぞきこんでみると、泳ぎ回る魚の姿こそありませんでしたが、石のかげにはハゼ科のビリンゴと思われる数センチほどの大きさの小さな魚の姿があちこちにありました。合流点から見える粉白川にはコイ科のウグイと思われる魚の群れが泳いでいました。
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地元の方にお聞きすると、昔はぶつぶつ川にもアユやウナギがいたという話をされていました。以前よりも水量が減ったということなのでしょうか。
全長わずか13.5メートルという小さな川にも、魚が生息していることが確認できたのは、それだけでとても満足したうれしい発見でした。
このぶつぶつ川は別の川の支流ということで、それ自体が海に注いでいる川ではありません。しかし、太平洋からわずか100メートルほどしか離れていないところから湧き出ているにもかかわらず、水にまったく塩気がないのはとても不思議でした。
次に気になったのは、直接海に注いでいる川で一番短い川はどこにあるのかということでした。
またそれについては、おいおい調査をしてみようと思います。