福島県浪江町で2024年2月に開催されたシンポジウム「第8回浪江を語ろう―寺と移民―」。前回は江戸時代の真宗移民開始のきっかけと2011年の東日本大震災前までの町の様子をレポートした。本編では前回に続き、震災以降の町の様子をレポートする。
3.震災後の現状と課題:伝統文化の継承と新たなコミュニティ形成
明治時代以降、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)運動や農村社会の変化によって経済基盤を失いつつも、重要な役割を果たし続けた真宗寺院だったが、今度は未曽有の震災が町を襲う。2011年の東日本大震災だ。浪江町は津波と福島第一原子力発電所事故による大きな影響を受け、寺院もその例外ではなかった。
いまだに町の75%が帰還困難区域となっており、現在の住民は震災前の10分の1ほどの約2000人。町内全域に出された避難指示に従って寺社仏閣を支えた住民も去らざるを得なかったため、震災後の課題は山積だ。 しかし、徐々に伝統文化の継承や新たなコミュニティ形成に向けた取り組みが各地で始まり、未来への希望は徐々に回復しつつある。真宗寺院は、これらの活動の拠点として重要な役割の一端を担うことだろう。伝統文化の継承と地域活性化への挑戦をし、未来へつなげていく。
約2時間にわたるシンポジウムでは、震災が町に与えた地域課題の大きさを再認識すると同時に、移民が同町の歴史と文化に与えた深い影響を改めて認識させてくれた。特に、次世代への地域文化の継承は、寺院の存続だけでなく、未来を見据えた地域アイデンティティーの維持にも繋がる重要な取り組みだ。しかし、その両立は容易ではないだろう。
震災、また、昨今の少子高齢化によって寺院の維持・存続はまだ楽観視できる状況ではないが、地域のお寺は伝統文化の継承や新たなコミュニティー形成の拠点のひとつとして地域活性化への貢献も期待される。震災復興の過程にある多くの課題を克服するためには地域の歴史と文化を学び、誇りに思うことが、地域活性化の原動力となるだろう。そういう視点からも今後、寺院は重要な役割を果たしていく可能性はある。震災で失われたものを嘆くだけでなく、未来への希望を見つけることが重要だ。
異なる立場の人々が協働することで、より良い未来を築くことができる。この灯火を消さないために、私たち一人ひとりができることは何かを考え、行動していく必要がある。今回は浪江町域の寺院と真宗移民の歴史を通して、地域社会の未来を考える貴重な機会を与えてくれたシンポジウムとなった。未来への希望を胸に、浪江町域の再生を願ってやまない。
参考資料: 「災害と地域社会」主催シンポジウム あれから 5 年~私たちはフクシマを忘れない~(一般社団法人シニア社会学会)、「すぐわかる浪江町」(浪江町ウェブサイト)
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