秋田県仙北市の有名スポットといえば角館(かくのだて)の武家屋敷や田沢湖(たざわこ)を連想するだろう。しかし、その道中には抱返り渓谷(だきがえりけいこく)がある。そこはかつて人が通るには抱き抱えるほど険しく狭い山道だった事から抱返り渓谷とよばれるようになった。ミシュラングリーンガイドにも掲載されるほどの神秘的な光景を味わえるこの谷の魅力に迫った。
実際にこの抱返り渓谷をトレッキングしてみたが、初めに通るのが抱返神社だ。こちらには龍神が祀(まつ)られており、疫病退散の旗が掲げられていた。そこで道中の安全を祈願しつつ、山道を進むと赤いコンクリートと木造の吊り橋が姿を現した。
こちらから眺める玉川はエメラルドグリーンの水面に太陽の逆光が輝いていた。吊り橋を過ぎると狭い山道がひたすら続く。40分ほど険しい道を通るとどこからともなく滝の流れる音がした。それこそが抱返り渓谷の深部にある回顧(みかえり)の滝だ。滝の音が心地よく、不思議と疲れが癒えた。
なるほど、確かにミシュラングリーンガイドに登録されるのも頷ける。私自身自然の中を散策するのが好きだが、これほどまでに自然に圧倒され、同時に癒されたのは初めてだった。取材した当日はスムーズに山道を進めたが過去の時代は相当に大変だっただろうとしみじみと思った。
もし、田沢湖や角館の武家屋敷にしか行った事のない方は是非とも一度は訪れてほしい名所である。