令和3年8月1日午後5時03分 一つの命が誕生した。
私の住む町は和歌山県那智勝浦町。人口約14,000人の小さな町(2021年7月時点)。
町は少子高齢化が急速に進み、町によると、令和2年度の出生数は48人。
この先、町はどうなるのだろうか・・・。
そんな町で一人の赤ちゃんが生まれた。
都会からUターンした母親と、那智勝浦を愛してやまない父親のもとに生まれた4番目の男の子「響(ひびき)」くん。
お母さんは元気いっぱい。お腹が大きくなっても自転車に乗ってさっそうと町中を走っていた。
「あ、あの大きいお腹で自転車乗ってる人ね」と多くの人が言っていた。
何事もなく、無事生まれることを誰も疑わなかった。
出産予定日は8月22日。
8月1日より早く生まれると早産となってしまう。
場合によると、赤ちゃんだけ大きな病院へ搬送となることもある。
7月27日からいつもと違う感じはあった。でも、まさか・・・。
7月30日午前3時、お母さんは子宮の収縮で目覚めた。
痛くはないけれど、「フー、フー」と呼吸するくらい。日中も同じ状態。
午後10時を過ぎる頃には15〜20分の収縮。
さすが4人目の出産。慌てることもなく、ひたすら冷静に冷静に。
体力の消耗を極力避けるため、そして、8月1日の日付に変わってから生まれることを願って静かに時を過ごした。
「まだ、だめよー。8月1日になってから出てきてね。」
何度も何度も、お母さんはお腹の赤ちゃんに話しかけた。
7月31日午後11時過ぎ、いよいよ本格的な陣痛が始まった。
さあ、もう安心。(あと1時間で生まれることはない!)
日付が変わりほっとして迎えた8月1日。午前1時過ぎには5分間隔の陣痛となっていた。
それから16時間、長い、長い陣痛に耐えながら、お母さんも響くんも無事出産を終えることができた。
「今までの中で一番楽しくて、幸せな出産だった」。響くんのお母さんはそう笑顔で話してくれた。
コロナ禍で大変な世の中なのに、「そんなこと関係ないよ! 僕は僕の生きたいように生きる! そのために、このお母さんとお父さんを選んで生まれてきたんだよ」。
寝顔を見ているとそんなことを言いそうに思えてきた。
響くんを取り上げたのは筆者の私。
どうなるかハラハラしたけれど、私も最高の時間を過ごすことができた。
響くんを含め、生まれてきてくれた赤ちゃん全員に金メダルをあげたい。
その中でもこの響くんとお母さんには「よく頑張りました。おめでとう。ありがとう」の言葉を金メダルに添えてあげたい。