網走の「ホタテの小さな小さな赤ちゃん」が元気に泳ぐ姿に感じる生命の神秘と感動【北海道網走市】

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小さな小さなホタテの赤ちゃんが縦横無尽に泳ぎ回る姿を見たことがあるだろうか。その大きさは2分3厘と小指の爪半分にも満たない。その姿を唯一見ることができる場所は、ホタテの稚貝(ちがい)分散の作業。生命の神秘と共にある作業を、網走のホタテ専業漁師「村田漁業」で体験した。

小さな小さなホタテの赤ちゃんが、元気に泳ぎ回るその姿を見たことがある人はほとんどいないだろう。

作業中の休憩明けにホタテに近づき、ふるいを触ると、まるで人間から逃げるように、ホタテが激しく泳ぎ回る。

その姿は、節分の際に登場する鬼から子どもたちが血相を変えて真剣に逃げ惑う姿にどこか似ていて、これほど激しく元気にホタテの赤ちゃんが泳ぐものだということを私はこの作業を体験するまで知らなかった。

はじめてその姿を見た時の感動は「まさに生命の神秘に触れた」という一生忘れられない驚きと感動であり、この作業に携わって2年経つが、毎回それを感じ続け、「これはもうやめられないな」と思う私がいる。 

 ホタテの一大産地網走では、毎年6月に稚貝の放流作業が終わると、「提灯(ちょうちん)」と呼ばれる採苗器(さいびょうき)にあたる網を海に設置し、翌年の作業に備える。

この提灯はホタテの稚貝が自然発生的に集まる天然のゆりかごの役目を果たすものになる。

回収は、毎年8月下旬から9月にかけて行い、中間育成をさせるために「座布団」と呼ばれる籠網(かごあみ)にホタテの稚貝を移す。そして再び海へと戻して春のホタテ稚貝の放流までさらに育成するために必要となる「分散」と呼ばれる作業をする。

これは深夜23時半ごろから、番屋と呼ばれるホタテ漁師の作業場に20人ほどの人が集まって行われる。鱒浦(ますうら)漁港には5番屋ほど存在するため、人数はおよそ100人にのぼる。

作業は海に吊り下げてあった提灯を船で回収することから始まる。

回収した提灯から、ホタテの赤ちゃんをほろい(北海道弁で「振って出す」の意)出す作業を行った後、専用の機械でホタテを大きさごとに分類し、座布団に移され、再び海へと戻されるが、全てを機械で分類することはできないこともあって、「ふるい」を使って手作業で大きさを分類しながら、天敵のヒトデをはじめ、小型のエビやカニ、カラス貝などの異物を除去して、座布団に詰めて海へと戻す。

ここまでの分散の作業は「仮分散」と呼ばれる分散の準備段階にあたる。

この作業が終わると数日の育成期間を置いたのち、「本分散」がはじまる。

本分散は、数日間の中間育成期間を終えた座布団(一部、提灯もまだある)を海から船で回収し、座布団から振って出したあと、機械と手作業で異物を除去しながら再び稚貝の大きさごとに分類する作業となる。

分散されたホタテの稚貝は再度、座布団に詰め直され、中間育成を春まで行うために海へと戻されるのである。

これが5月下旬から始まるホタテの稚貝放流作業の際には、いわゆる「ホタテ稚貝の味噌汁」や「ベビーホタテ」として販売されるほどの大きさにまで成長する。

この一連の分散作業は「生育する海域によってホタテの成長の速度に差が出てしまうので、、大きさを一定の規格に揃えるために分類する必要がある」ため、毎年欠かさず行わなくてはならない。

ホタテ専業漁師として、ホタテの稚貝を育成し、網走漁業協同組合を通じて春のホタテ稚貝放流から秋の分散まで一貫して作業を行う村田漁業の村田隆蔵(むらた・りゅうぞう)さんは「ホタテの成貝(ながい)の値段は最近大きく上がっているが、稚貝の値段はどういうわけか上がらない。だから燃料の高騰や資材の高騰の影響をもろに受けている。仕方ないんだろうけど、なんとかならないかと思う。」と話されていた。

網走で取れるホタテの稚貝は、網走の海であるオホーツク海近海に放流され、5年かけて大きな成貝として漁獲されるのはもちろんだが、噴火湾(ふんかわん)など他の地域にも出荷され成貝へと成長するために必要な「種貝」となるものもあるとのことで、北海道のホタテ漁業を支える重要な役割も持っている。

また、こうしたホタテ稚貝の養殖作業には多くの人手が必要で、春の放流の作業には1つの番屋で100人ほど、全体で1000人の人手が深夜から早朝にかけて必要になる。

美味しいホタテを食卓に届け続けるためにも、生命の神秘に触れる感動と共にある「この時期のホタテの稚貝分散の作業を体験される方や携わる方が増えてほしい」と筆者は心から願わずにはいられないのであった。

(平賀貴幸さんの投稿)

ホタテの稚貝分散:8月〜9月

ホタテの稚貝放流:5月末〜6月

【作業に関するお問い合わせ】

網走市市役所・網走市水産漁港課

0152-44-6111

https://www.city.abashiri.hokkaido.jp/

網走漁業協同組合

0152-43-3121  

https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/ske/osazu/oz06gok/gok052.html

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