今年、芸能活動50周年を迎えた歌手の吉幾三(70)を「理想の男性はIKZO様」としてリスペクトする女性がいる。吉幾三と言えば、2000年代後半、代表曲『俺ら東京さ行ぐだ』のマッシュアップムービーがニコニコ動画に大量に上げられた「IKZOブーム」が記憶に新しい。
しかし、彼女に言わせれば、IKZOブームで魅せた面白さは吉幾三の魅力のほんの一部に過ぎないという。ファン女性へのインタビューを通じ、歌詞が持つ言葉の力から、絶妙な下ネタまで、令和の時代に新たな形でのIKZOブームを巻き起こしつつある“人間”吉幾三の魅力に迫った。(前後編の前編)
目次
ファンになったきっかけは家でのカラオケ。情景と感情をありありと想像させるIKZOの“言葉の力”に心揺さぶられる
今回、話を伺ったのは栃木県栃木市在住の会社員、永山志穂さん(30)。インタビュー前日に30歳の誕生日を迎えたばかりだ。永山さんが吉幾三を知ったのは高校生の頃。当時は、ノリの良い友人がカラオケで歌う『俺ら東京さ行ぐだ』を聞いて、吉幾三さんを「単なる盛り上げソングの人」としてぼんやり捉えていた。
そんなイメージが180°変わり、吉幾三の楽曲を聞きこむようになったきっかけは、4年前、実家でのNintendo Swichを使ってのカラオケ大会。母親が感情込めて歌う吉幾三の歌詞に何か感じるものがあったという。「IKZOさんの曲は、歌詞の世界観が深くて広いんです。そこに自分の感情を見事に重ね合わせて表現しているから、心が揺さぶられます。例えば、千昌夫さんに提供し、IKZOさん自身も歌う楽曲『津軽平野』では、冬の津軽の夜の寒さやそこに吹く風と、出稼ぎに行っている父を待つ子と母の心情を重ね合わせることで、登場人物の置かれた状況から家族構成、ライフスタイルまでをリアルに想像できます。その豊かで重厚感のある世界観は今どきの歌ではなかなか感じられません」と、永山さんは吉幾三の“言葉の力”を魅力の第一に上げた。
演歌歌手であり、シンガーソングライター。そして今ではYouTuberでもあるIKZOさん
吉幾三と言えば演歌歌手として知られるが、歌手であると同時に自ら作詞作曲も手掛けるシンガーソングライターである。芸能活動の初期は、企業のコマーシャルソングを手掛けるアイドル歌手として活動していたが、その後フォークソング、コミックソング、演歌と様々なジャンルを渡り歩いてきた。
また、現代の若者にも知られるヒット曲『俺ら東京さ行ぐだ』は日本語ラップ……もとい、津軽弁ラップの元祖である。そして、2019年には活動の幅をYouTubeにまで広げ、動画の総視聴回数は、自身のチャンネルと徳間ジャパンコミュニケーションズの公式チャンネルに登録されている自身の楽曲『TSUGARU』の視聴回数と合わせると、1100万再生を超える(2023年5月現在)。
永山さんは、吉幾三の活動の幅の広さと、今なお広がる支持を「色んなジャンルを経験、チャレンジしてきたことに加えて、多様な文化を受け入れて、それを自分のものとして昇華し、想いを圧倒的な技術で乗っけて表現しているからこそ成せる業だと思います」と分析する。
実は増え続けている20〜30代のIKZO女子。とあるファンの実態と横顔
先に紹介した「TSUGARU」のMVのコメント欄を眺めていると、コメント主が明らかに女性と分かるものも多い。永山さんによると、そんな吉幾三のコンサート、観客は明らかに女性が多いという。高齢者人気は言わずもがな、20代や30代のファンも多く、中には何回もコンサートに足を運んでいる猛者もいる。吉幾三を「理想の男性、IKZO様」としてリスペクトする永山さんもその一人だ。この、40歳も歳が離れた女性に、“IKZO様”とまで言われて慕われる70歳男性の魅力をより深く理解するために、永山さんの横顔にも迫りたい。吉幾三はどんな女性に愛されているのか。
永山さんは蔵とラーメンのまち、福島県喜多方市の生まれ。小さい頃は、家の中で遊ぶより、虫を取ったり、川で遊んだり、外で遊ぶことを好んだ。「好きなことは男の子っぽかったですかね」と自称。一見、文化系に見える永山さんであるが、意外にも体育会系だ。小学生の頃はミニバスケットボールをやっていたが、当時好きだった男の子が少年団で剣道をやっており、その男の子を追っかけて剣道に転向。剣道は、その男の子が剣道を辞めた後、なんと中高、大学まで続けた。「好きな人本位なところ、決めたことに一途なところは昔から変わってないのかもしれません」と、永山さんは笑う。
吉幾三を好きになる気質、もといIKZO沼にハマる気質は昔からあったかもしれない。年の離れた姉がいた影響からか、音楽は、松任谷由実、竹内まりや、浜田省吾などスナックで流れるような音楽を好んだという。さらに、大学時代はスナックのバイトにも明け暮れた。「思えば、人生のどこにでも歌謡曲と演歌がありましたね。自分が引き寄せて行っているのか、惹かれにいっているのか分からないですけど」と永山さんは続ける。
下ネタを小学生のようにケラケラ笑っているのが可愛い。シリアスさと笑いのジェットコースターのような落差が人を惹きつける
インタビュー中、「IKZOさんは本当に可愛いんです」と永山さんは何度も熱を込めて語ってくれた。そう語る根拠の一つは、ライブでのパフォーマンスだ。曰く、「感動ですすり泣く声が聞こえてくるんですけど、そう思ったら、今度はメンバーとのコント風の掛け合いで会場を爆笑させてくれる。笑いあり涙ありで感情がまるでジェットコースターみたいに揺さぶられちゃうんです。それも全て、根底に『お客さんに楽しんでもらおう』って気持ちがあってできるんだと思います」。
さらには、普通は女性に敬遠されがちな「下ネタ」も吉幾三の魅力の一つだという。「下ネタを小学生のようにケラケラ笑っているのが可愛いんですけど、皆が不快感なく笑えるポイントを絶妙に弁えているんですよね。だから親近感が湧くし、会場にも一体感が生まれる。下ネタすらもエンターテイメントに昇華させるその心意気が本当に素晴らしいですし、プロ意識を感じます」と力説した。
吉幾三の魅力はこれだけには留まらない。後半では、“人間”吉幾三の器の大きさと愛情の深さと、歌手としての実力に迫りたい。
後半に続く 後編はこちら→ https://thelocality.net/ikzodaisuki02/
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