「心の帰る場所」を創る、新しい旅の形。地域との共創が生み出す未来<株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター   北嶋 緒里恵>【東京都千代田区】

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観光業界がコロナ禍を経て新しい時代に突入し、旅行が単なるレジャーにとどまらず、地域と旅行者が共に価値を創造する時代になりつつあります。従来の観光が「お客様扱い」だったのに対し、これからは「帰る場所」としてのつながりが求められるようになってきました。そんな中で「帰る旅プロジェクト」が注目されています。このプロジェクトは、株式会社リクルートが提供する「じゃらんリサーチセンター」と一般社団法人 雪国観光圏が協働で推進しており、人々が訪れる地域と深くつながり、「ただいま」「おかえり」と言い合えるような、新たな旅のスタイルを提案しています。この新しい旅の形を通して、観光業と地域の活性化を目指しているのです。

じゃらんリサーチセンター研究員で帰る旅プロジェクトリーダー 北嶋 緒里恵さん

「帰る旅プロジェクト」が実現しようとする未来とは何か。プロジェクトリーダー 北嶋 緒里恵(きたじま・おりえ)さんにその挑戦の原点と展望についてお聞きしました。

観光客としてではなく地域の一員になれる旅へ

「帰る旅プロジェクト」は、2022年に株式会社リクルートの「じゃらんリサーチセンター」と、広域観光圏を取り組む一般社団法人 雪国観光圏との協働でスタートしました。プロジェクトリーダーの北嶋緒里恵さんは、2009年にじゃらんリサーチセンターに配属され、観光による地域活性事業のプランニング・推進を手掛けてきました。彼女は、コロナ禍で停滞していた観光業において、新たな旅行の価値を模索してきたといいます。「レジャー旅行ではお客様として扱われがちですが、帰る旅では訪れる人が地域の一員として迎え入れられ、共に関係性を築くことが目的です」と北嶋さんは語ります。このコンセプトのもと、地域住民と旅行者が協力しながら、地域の魅力を再発見し、共に成長していく新しい旅の形が生まれました。

消費だけではない、立場を超えてつながる新しい旅行の仕組み

「帰る旅プロジェクト」の大きな特徴は、旅行者が地域に貢献する点にあります。単に観光地を訪れるだけでなく、地元の宿で手伝いをしたり、地域の人々と共に活動することで、より深い関係性を築くことを目指しています。例えば、プロジェクトの一つ「さかとケ」では、旅行者が宿で手伝いを行う代わりに宿泊費が免除される仕組みが導入されています。このように、旅行者自身が地域の課題解決に貢献することで、観光を超えた新しいつながりが生まれ、消費を中心とする従来の旅行の形ではなく、旅行者と地域が共に成長し、相互に価値を生み出す関係を築くことができています。

さかとケの客室と宿泊客が実際に宿業務の手伝いをしている様子

コロナ禍に生まれた訪れるたびに変化する旅の形

「帰る旅プロジェクト」が誕生した背景には、コロナ禍による観光業の停滞があります。新型コロナウイルスの感染拡大により、旅行の需要が大幅に減少し、観光地や宿泊施設は大きな打撃を受けました。このような状況下で、北嶋さんと雪国観光圏の代表である井口さんは、従来の観光スタイルを見直し、新たな形を模索しました。単に観光地を訪れるだけでなく、旅行者が地域の一員として関わり、深いつながりを築くことができる「帰る旅プロジェクト」が生まれたのです。

このプロジェクトの特徴は、「偶発的な出会い」と「関係性の構築」を重視している点です。従来のパッケージ旅行とは異なり、現地での予期せぬ出会いや、地域の住民とのふれあいを通じて、旅行者がその地域に深く関わり、特別な体験を得ることを目指しています。例えば、旅行者が宿泊施設で手伝いをする代わりに、滞在費が免除される仕組みなど、地域に貢献しながら旅を楽しむことができます。

「おかえり」が行き交うことで地域を活性化

「帰る旅プロジェクト」が目指すのは、観光業の活性化だけではありません。旅行者が地域の一員として関わることで、地域の人口減少や人手不足といった問題にも対応できると考えられています。プロジェクトに参加した大学生が現地で働くことを決めたり、移住者が増えるなど、すでにその効果が現れ始めています。北嶋さんは「地域との関係性を深め、何度も訪れたくなる場所を作ることで、地域の活性化につながる」と述べています。

北嶋さんの情熱

「帰る旅プロジェクト」の成功を支えているのは、プロジェクトリーダーである北嶋緒里恵さんの熱い思いと行動力です。2009年にじゃらんリサーチセンターに配属された北嶋さんは、長年にわたり観光業を通じた地域活性化に取り組んできました。彼女が手がけたプロジェクトには、「リゾート宿泊需要の高付加価値マーケティング」や「持続可能な宿経営」がありますが、「帰る旅プロジェクト」では、これまでの経験と知見を活かし、観光と地域の新たな関係性を提案しています。

「帰る旅プロジェクト」の中心となるアイデアは、地域と旅行者が対等な関係で共に成長し、旅行者が地域の一員として迎えられるというものです。このコンセプトを具体化するため、北嶋さんは雪国観光圏と協力しながら、観光庁の「第2のふるさとづくりプロジェクト」とも連携しています。彼女は、単なるレジャーの提供ではなく、地域に根差した持続可能な観光スタイルを確立することに力を注いでいます。

特に「帰る旅プロジェクト」のユニークな点は、地域の課題に取り組む姿勢にあります。旅行者が宿泊施設で手伝いをするなど、地域の現場に直接関与することで、観光を通じて地域の持続可能性に貢献するモデルを作り上げています。このような取り組みは、観光客が一時的な訪問者としてだけでなく、地域と深くつながる「仲間」となることで、地域の人口減少や人手不足といった問題にも対応し得るものです。

北嶋さんは、「民間の力を活用して、持続可能な仕組みを構築し、地域全体が自立して活性化していくことが理想です」と語っています。彼女のリーダーシップのもと、「帰る旅プロジェクト」は単なる観光促進を超えた、地域の未来を切り拓く取り組みへと成長しつつあります。

「帰る旅プロジェクト」は、単なる観光事業にとどまらず、地域の未来を見据えた新しい旅の形です。このプロジェクトを通じて、旅行者が地域と深く関わり、「帰る場所」としての新しい観光スタイルが確立されつつあります。株式会社リクルートのじゃらんリサーチセンターと雪国観光圏の協力のもと、北嶋さんが描く未来は、観光業界と地域社会に新たな価値を創造し続けます。

【訂正】
本記事において、表記に誤りがございましたので、以下の通り訂正いたします。

  1. 「坂戸家」と表記しておりましたが、宿泊滞在拠点「さかとケ」の名称に従い、「さかとケ」に訂正しました。
  2. 「第二のふるさとづくり事業」と記載しておりましたが、観光庁の公式表記に従い「第2のふるさとづくりプロジェクト」と訂正しました。

校閲時の確認不足により誤りが生じましたことを読者の皆さま、関係者の皆さまに深くお詫び申し上げます。今後はより一層の注意を払ってまいります。


2024年11月12日 
ローカリティ編集部

木場晏門

木場晏門

香川県三豊市

編集部記者

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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