〜この記事は、株式会社JTBふるさと開発事業部と合同会社イーストタイムズが共同で取り組んでいる「ローカル魅力発掘発信プロジェクト」から生まれたハツレポです〜
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伝統芸能に武家屋敷……、伝統とモダンが混在する金沢市
石川県の県都・金沢市は、かつて北陸の広い範囲をおさめた加賀藩・前田家の城下町として栄えました。
城下町で培われた加賀友禅(かがゆうぜん)や金沢箔(はく)、漆器などの伝統工芸の技術は現代にも受け継がれ、武家屋敷や茶屋が立ち並ぶ昔ながらの景観もそこかしこに残っています。
観光客を魅了するスポットも点在していて、日本三名園の一つ「兼六園(けんろくえん)」や金沢21世紀美術館が代表格。伝統とモダンが混在する環境が、世界からも高い評価を受けています。
自家培養の酵母で造る金澤ブルワリー最初の地ビール「金澤麦酒」
そんな伝統とモダンのまち・金沢市に、市内初のクラフトビール(地ビール)工場「株式会社金澤ブルワリー」が創業したのは2015年。金澤ブルワリー代表の鈴森由佳(すずもり・ゆか=石川県出身)さんが2年間のカナダ留学中に現地のクラフトビールと出会い、多彩な味わいに魅了されて創業を思い立ちました。
2016年、ネーミング・パッケージともに上品な金沢のイメージを反映させた唯一無二の「金澤麦酒」を誕生させました。
その後の積極的な商品開発で、初めはペールエールのみだった商品も、季節限定商品も含めて常に年間11種類ほどを製造・販売できるまでになりました。 全国でも数少ない「酵母の自家培養」も行っています。
「ビールをあまり飲まなかった」、代表女性のビール熱と金沢愛
「以前はビール自体、あまり飲んだことがなかった」と笑って振り返る鈴森さん。
カナダからの帰国後は、市内の観光案内所に勤務する傍ら、休日のたびに夜行バスで片道8時間かけて金沢から東京まで通い続けました。
酒類の製造免許取得を目指し、東京のクラフトビール工場で研修を受けるためです。10か月の研修で、夜行バスの利用は約40回、640時間におよびました。
「今なら体力的にきつくてできないような日々」(鈴森さん)でしたが、創業後のよきライバルとなる研修生たちと出会えたことが、鈴森さんの大きな財産となりました。
免許を無事取得して開業した当初は商品の搬入はもちろん、樽(たる)を手洗いしたり、夜間でも取引先から問い合わせがあれば、相手のもとに飛んで行ったりと苦労が耐えませんでした。
そうした中でも鈴森さんがビール造りを諦めなかったのは、金沢という土地に対する思いがあったからでした。
「留学をしたことで、地元に深く関わる仕事がしたいと思いました。このため、社名や商品名でも『金沢』という言葉を使わせてもらっていますし、地元産のゆずを使った商品も開発しました。企業や飲食店とのオリジナルビールの製造も積極的に行っています。
ビールをきっかけに、金沢のさまざまな業種の方々とのコミュニケーションを広げていきたい」。
鈴森さんは今後、環境に配慮した取り組みにも挑戦していくつもりです。
現在、ビール造りの際に出て捨ててしまう「麦芽かす」を、地域の方々に農作物の肥料や動物の飼料として使ってもらっています。これに加え、食品廃棄物からビールを造ることも計画していて、廃棄物について考えるきっかけにしてほしいと考えています。
鈴森さんのクラフトビール造りが金沢の魅力的なものをどんどんとつなげ、これからも可能性を広げていく様子が、取材を通じて目に浮かんできました。