秋田市で、毎年8月3日から6日までの4日間開催される「秋田竿燈(かんとう)まつり」。夏の睡魔やけがれを流し去り、無病息災を祈る行事「ねぶり流し」とも呼ばれ、竹竿に吊られた提灯(ちょうちん)が揺れる様子は米どころ・秋田を象徴する夏の風物詩です。2023年の来場者数は約110万人でした。
全国的に知名度のある「秋田竿燈まつり」ですが、差し手が演技に使う竿燈はどのようにして作られるのでしょうか?
2023年に出竿した全38町内のうち、長い年月をかけて受け継がれる「上米町一丁目竿燈会(うわこめまちいっちょうめかんとうかい)」の「竿組み(さおぐみ)」の様子をお届けします。
目次
◆結びの技が身についてこそ、一人前
祭り1週間前の薄曇りの昼下がり。同町内では差し手による「竿組み(さおぐみ)」が行われていました。
竿燈には4つの種類※1があり、1本の竿燈は複数の竹を組み合わせて作られます。竿燈の骨格は、中央部の「親竹(おやたけ)」、提灯が取り付けられる部分の「横竹(よこたけ)」、差し手が演技中に継ぎ足す「継竹(つぎたけ)」からなります。
竿組みは、親竹と横竹とを組み合わせて糸を張るところから始まり、竿燈の最下段から1本ずつ、大若と中若の場合9本、小若と幼若は7本組み合わせます。
18歳の頃に竿燈を始めたという、同竿燈会の大若責任者の世継貴弘(よつぎ・たかひろ)さん(30)は、技と竿組みを当時より先輩から教わってきました。
先輩からは「演技だけでなく、このような裏方の仕事も出来て一人前」と言われてきた世継さんは、「結び方を覚えたからといって、すぐに竿組みができるわけではないのです」と言います。
「幼若(ようわか)」の竿組みをする3人の青年たちは、親竹を支えながら横竹を全体のバランス良く結びつける作業を行っていました。
親竹と横竹を組み合わせた後に、「張糸(はりいと)」・「ふち糸(ふちいと)」・「中糸(なかいと)」の順に麻ひもを「十字結び」で張ります。
※1【語句解説】竿燈には「大若(おおわか)・中若(ちゅうわか)・小若(こわか)・幼若(ようわか)」の4つの種類があり、竹竿の長さと重さはそれぞれ異なります。提灯の高さは中若と小若は48cm、提灯の数は大若と中若が46個、小若と幼若は24個。
◆きれいなしなりは、竹の仕込みから
「美しく見せたいので、形にはこだわって作っています。継竹をつなげた状態でも、きれいなしなりが見えること。竹が丈夫であること。そして、そのための竹の仕込みも大事です」と話すのは、同竿燈会代表の貴志冬樹(きし・としき)さん(30)※2。
竿燈づくりのための青竹の採集は100本にも及び、適したものを選別・加工する工程には熟練の技を要し、竹が使える状態になるまで少なくても3年は必要とのこと。
10年以上長持ちする竹もあるそうで、竿燈の技と伝統は、竹づくりに注ぐ情熱から始まっているのだと、竹を見ながら筆者は思いました。
ちなみに、完成した竿を見ると、親竹から両端にある一番外側のふち糸にかけて弓なりにカーブしているのが分かります。
これは、親竹の先端と横竹の最下段に糸をつないで引っ張り、さらにふち糸と中糸を竹が交わる部分を一箇所ずつ力を込めて結びつけることで竿全体が張り、美しいしなりが生まれるわけです。
※2貴志冬樹さん執筆 2021年執筆記事⇒秋田竿燈まつりを裏で支える、しなりに耐える継竹づくり【秋田県秋田市】https://thelocality.net/kanto-matsuri/
◆準備の大変さ、楽しさと大切さ
「だんだんぎっちり縛れるようになってきたね」。
世継さんは青年のそばで、手の動きとひもの位置、締めるポイントをマンツーマンで指導します。青年は、教えられたようにやってみて、結び方が違ったところはやり直し、回を重ねるごとにきちんとした結びにだんだん近づいていきます。
横竹を組み始めてから30分ほど経ち、世継さんの「よし、あと2本だ。」という声がけの後で青年の気合いも入ったのか、ポキッと音がした残り1本の横竹。世継さんは「組んで折れてしまうのはしかたない」と、新しい横竹を持ってきます。
結びひとつひとつに注力しかがみながら結ぶ力は相当なもので、次第に指や腕が疲れてくるのではないかと思った筆者は、「すごい握力が要りますよ」とひとりの青年の声を聞いて竿組みの大変さを近くでひしひしと感じました。
ふち糸と中糸には麻ひもを、提灯が触れない幅を保つために提灯の長さに切った「バカ」という竹の計りで計測しながら結んでいきます。
幼若の竹は大若と比べて曲がりにくくしなりが少ないぶん、ふち糸の取り付けが大変とのこと。中糸をバカで図りつつ、間隔が均等に結びつけていく時の絶妙な力加減はまるで、ひとつひとつの積み重ねで技を習得するかのようです。
梅雨前の湿気ある戸外で、汗を流しながらの地道な作業は楽ではないけれど、仲間と一緒に完成する楽しさもある。準備の大変さを知っているから、その大切さも分かるのだと筆者は感じました。
◆家族のつながりで祭りを後世へ
古くは商人の町であった上米町一丁目は、住民が少ない小さな町内ですが、竿燈会会員は現在100人以上います。
出身地や現在の居住地を問わず、かつて同町内の近くに住んでいたことがある人や、SNSを通じて同町内を知った人などもメンバーに加わる上米町一丁目竿燈会について、おふたりは次のように語ります。
「来てしまえばみんな家族のような存在。担い手不足という厳しい状況を迎える日のことを思うと、一緒にやる人たちを一生懸命増やして、祭りの裏側にある地道な準備の大切さを伝えていきたいです」と貴志さん。
「時代の流れで竿燈の形は変わります。変わると言っても、竿燈の技や竿組みはその技術を教え続けることで大きく変わったり無くなることはないでしょう。ただ、かつて先輩方から教えてもらった祭りの心構えや、なぜやるのかといった、目には見えない部分は変わりつつありますね」と世継さん。
代々受け継がれてきた祭りの技という伝統を守りながら、「家族のようなつながり」という想いを大切にする上米町一丁目竿燈会。
今年、約25年前まで使われていたといううさぎの町紋が再び登場するとのこと。
先代の想い入れある提灯が、担い手によって空高く上がる場面は、これまで以上に多くの人たちの心を魅了し、一層記憶に残る竿燈祭りとなるのではないでしょうか?
【参考資料】
・DVD付録冊子「竿燈ができるまで」
制作:秋田市竿燈会 平成27年度文化庁文化芸術振興費補助金(文化遺産を活かした地域活性化事業)
・第75回竿燈妙技大会 出場チーム出演者一覧 発行:秋田市竿燈まつり実行委員会
・秋田魁新報 8月1日(木)第25面 発行:秋田魁新報社