ローカリティ!時代の開拓者たち

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日本一のバルブメーカーは、いかに「流れを変え続け」日本の産業を支えてきたのか【東京都港区】

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執行理事 経営企画本部長 大田裕さん

水道の元栓、ガスメーターのそば、ビルの空調設備、温泉や工場の配管。よく見ると、私たちの暮らしのすぐ近くには、いくつものバルブがあります。

けれど、その存在を普段から意識する人は多くありません。水やガスを止めたり、流したり、量を調節したりする。その小さな部品は、家庭や建物の中だけでなく、石油パイプライン、化学プラント、半導体製造装置、水素エネルギーの領域にまで広がっています。

株式会社キッツは、1951年に山梨県長坂町で創業した、日本を代表する総合バルブメーカーです。素材づくりから製造、品質管理、販売網までを築き上げ、国内外の産業インフラを支えてきました。その成長を支えてきたのは、現在の行動指針「Do it True」「Do it Now」「Do it New」にも示される通り、見えないところにも手を抜かず品質にこだわる、創業から受け継がれる精神です。

今回は、執行理事 経営企画本部長の大田裕さんにキッツがどのように事業領域を広げてきたのか、その成長を支えるものは何なのかをお伺いしました。

「キッツがないと成り立たない」身近なところから産業の奥深くまでを支えるバルブ

株式会社キッツ提供:キッツのバルブ

「バルブはあらゆる所に必要。意外な所に付いている」

大田さんが語る通り、家庭の中から産業の最前線まで、水やガスなどの「流体」がある場所にはバルブがあります。制御すべき流体や用途の違いによって、必要とされるバルブの材質、形、大きさは変わります。キッツが扱うバルブは、9万から10万種類。水、空気、ガス、石油、薬品、水素、時にはマイナス200度以下という低温の流体を制御する技術も求められます。

バルブは、単に流れを止めるための部品ではありません。社会が動き続けるために、止めるべき時に止め、流すべき時に流す技術です。国内の建築設備市場におけるシェアが7割以上と圧倒的な存在感を持つキッツは、その技術によって、暮らしと産業の「流れ」を成り立たせています。

その原点は、かつて綿の紡績工場が数多くあった長野県諏訪市にあります。そこで必要とされたのが、水や蒸気を流したり、制御したりするためのバルブでした。この地の出身である創業者が、八ヶ岳の麓にある山梨県長坂町で仲間とともに立ち上げたのが北澤製作所、現在のキッツでした。キッツは創業時から、地域の産業を動かすために欠かせない「流れ」を担うところから歩みを始めたのです。

「より良いものを、より早く、より安く」素材から販路まで自ら築いた創業者の精神

キッツの成長を語るうえで欠かせないのが、創業者・北澤利男さんの精神です。それは、「より良いものを、より早く、より安く」という考え方でした。良いものをたくさん作り、それを必要とする多くの場所へ素早く届ける。それによって安くできる。その精神がキッツの成長の土台となりました。

この精神から、創業期にはいち早く海外の最新機械を導入して大量生産の仕組みを整え、代理店を作るなど販売網を構築しました。そして、成長の過程で踏み込んだのが、素材から製品までの一貫生産です。金属を溶かし設計した型に流し込む鋳造の工程を経て、加工、そして組み立て。ものづくりの入口から担うことで、キッツは品質と供給の責任を自ら引き受けてきました。

グローバル企業へ成長する転機となったのは1980年代です。海外に工場を作って製造コストを抑え、販売会社を作って海外でも販売するという展開は、創業の理念からすれば当然の方向でした。

そして、キッツは国内、海外を問わずにM&Aを積極的に進め、「仲間」を増やしていきます。

産業の流れを広げた、材質の進化と「仲間」にする力

青銅製の小さなバルブから始まったキッツは、やがて鋳鉄(ちゅうてつ)、ステンレス、鋳鋼(ちゅうこう)へと製造するバルブの材質を広げていきました。

扱う材質が変われば、バルブに求められる性能も変わります。水や蒸気を制御するバルブと、石油や薬品、半導体製造工程で使われるガスや薬品、水素を制御するバルブでは、必要な強度や耐食性、耐熱性も異なります。

「材質を増やすことは、単に製品の種類を増やすことではありません。キッツが支えることのできる産業を増やすことにつながっていきました」

大田さんは、材質を広げてきた歩みをこう語ります。

また、キッツは必要な力を持つ会社を「仲間にする」ことでも成長してきました。創業から半世紀を経た2004年には、国内バルブ業界の老舗・東洋バルヴの事業を譲り受け、国内での基盤をさらに強めます。

「東洋バルヴは、創業者である北澤利男さんの父の系譜にある会社でもあります。そこをキッツが受け継いだという意味では、親子が再統合したような出来事だったんです」

もちろん、それは家族史の話ではありません。キッツにとって東洋バルヴの事業承継は、日本のバルブ産業が積み重ねてきた技術や市場基盤を次の時代へつなぐ出来事でもありました。国内では他にも半導体製造装置に使われるバルブメーカー・キッツエスシーティ、さらに海外でもスペイン、ブラジル、インド、韓国など、各地域でニッチな強みを持つ企業をグループに加え、現地の規格や産業に応える力を高めてきました。

素材から作るというコアを持ちながら、必要な技術や市場を持つ会社を仲間にする。キッツはそうして、支えることのできる産業の流れを国内だけではなく世界へ広げてきたのです。

見えないところで機能し続ける品質に、創業者の精神が宿る

※株式会社キッツ提供:KITZ Group イノベーションセンター

キッツには、「Do it True」「Do it Now」「Do it New」という行動指針があります。大田さんは、その中でも特に「Do it True」が、同社の文化をよく表していると話します。

「Do it Trueは、とにかく真実とか、真面目にちゃんとやる、しっかりやるということです。見えないところで一生懸命やる。キッツはそういう会社なんじゃないかなと思います」

その姿勢は、製品そのものにも表れています。

「バルブの価値ってとにかく漏れないことです。見えないところで使われるものだからこそ、漏れないように品質にこだわって作り込む。それこそが価値であり、ブランドなんです」

見えないところで手を抜かない。規格や手順を守り、品質を作り込む。その積み重ねが、キッツの信頼を支えています。

一方で、大田さんは、キッツの強みである真面目さが、時にスピードの遅れにつながることもあると話します。だからこそ現在、同社は「流れを変える」というビジョンのもと、良いところを残しながら変化しようとしています。

創業者・北澤利男さんが大切にした「より良いものを、より早く、より安く」という合理精神、そして「迅速果敢な実践力」。その精神は今も変わっていません。近年「迅速果敢な実践力」を、グループのスピリットとして改めて定義し直しました。

「理念と、製品や技術の両方があると思います。精神というのは、やっぱり言い続けなきゃいけない。一方で、設備があって、製品があって、規格があって、ものづくりの現場に残っていくものもある。そこに言葉があると、より伝わりやすいのだと思います」

創業者の精神は、言葉だけで受け継がれるものではありません。品質に、製品に、設備に、現場の手順に残っていく。そして、国や文化の違う会社がグループに加わる今、その精神を言葉にして伝え続けることが、ますます重要になっているのです。

「いざという時に、社会の助けになる」非常時に表れたインフラ企業のDNA

2024年1月に起きた能登半島地震では、キッツグループの移動できる水処理装置「アクアレスキュー」が被災地へ運ばれました。滋賀県彦根市の工場からトラックで現地へ届け、自衛隊と協力し、1月5日にはお風呂に入れる環境を整えたといいます。

「過去に、こんなに早くお風呂に入れるようになったことはなかったという話もありました。我々の製品が直接役に立ったというのは、本当にうれしいことでした」

背景には、普段から防災訓練や支援団体との連携に参加してきた積み重ねがありました。

「自分たちの製品を、どう社会の役に立てていくか。そこに尽きると思います。もともと水道が十分に整備されていない場所で使っている製品なので、水道が来ないところにも役立てることができるんです」

「普段はただ流れていればいい。でも何か問題が起きた時には確実に止める。だから、いざという時に社会の助けになる。そういったDNAがあるのかもしれません」

普段は意識されないところで社会を支え、必要な時には止まった流れを取り戻す。キッツが受け継いできた精神は、非常時の行動にも表れていました。

「キャンプファイヤー」のように理念を囲み、「流れを変える」未来へ

グローバル化が進めば、国も文化も異なる社員が増えていきます。買収によってグループに加わる企業には、それぞれの歴史や価値観があります。そこで必要になるのは、ルールだけではありません。

「買収した会社は、それぞれ文化が違います。だから、グループとして大事にしているのはここだよ、ということを言葉で伝えることが重要なんです。ルールを送って、飾っておいてね、だけではダメなんですよ」

キッツでは、社長が各拠点を訪れ、経営計画や目指す姿を直接伝える場があります。一方通行ではなく、社員が質問し、対話する場です。

株式会社キッツ提供:社長が社員と直接対話を行う取り組みのようす

「ワンウェイではなく、本当に同じチームのメンバーとして話をする。だから、キャンプファイヤーをしているような気分になった、というコメントもありました」

火を囲むように、同じ方向を向き、互いの声を聞く。キッツは、世界の社員をルールだけで統合するのではなく、理念と言葉と対話によってつなごうとしているのです。

そして現在、キッツは「流れを変える」というキッツグループ長期経営ビジョンを掲げています。半導体、水素、脱炭素。時代が求める「流れ」は変わり続けています。

キッツが変え続けてきたのは、製品や事業領域だけではありません。創業者が残した「より良いものを、より早く、より安く」「迅速果敢な実践力」という精神を、素材からものづくりへ、品質へ、販路へ、そして世界の社員との対話へと変換し続けてきました。

日本の産業を支える日本一のバルブメーカーが「流れを変え続けてきた」精神。

それは、社会の流れを止めないために、自らも変わり続けるという覚悟なのです。

もっとも印象に残った言葉:
「Do it Trueは、とにかく真実とか、真面目にちゃんとやる、しっかりやるということです。見えないところで一生懸命やる。キッツはそういう会社なんじゃないかなと思います」

聞き手:中野宏一 構成:天野崇子 執筆:川村忠寛 天野崇子
写真:提供写真以外は2026年6月2日 三芳洋瑛撮影

企業情報

企業名:株式会社キッツ
取材対象:執行理事 経営企画本部長 大田裕さん
キッツ宣言:わたしたちは、流体制御技術と材料開発で社会インフラを支え、豊かな地球環境と持続可能な未来を創造していきます
行動指針:「Do it True」「Do it Now」「Do it New」
住所:東京都港区東新橋一丁目9番一号 東京汐留ビルディング
HP:https://www.kitz.co.jp/

天野崇子

天野崇子

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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