秋田県の出羽(でわ)山地に囲まれた、自然豊かでのどかな大仙市南外(なんがい)地区。
そこには自然や地域に残る文化や自然の恵みを知り、伝え、持続可能な未来への第一歩となる活動をはじめた人たちがいます。「南外もぐらの会(以下もぐらの会)」では手探りながらも地域の人たちの協力を得てその活動が進められています。
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自然の中で、話して、食べて、うたって、遊んで
2024年11月9日、もぐらの会が母体となる「南外民俗祭の会」主催の南外民俗音楽祭が行われました。普段は静かな公園の中心にステージが設けられ、キッチンカーやテントの出店が並びました。
まずは地域の愛宕(あたご)神社の湯立神楽が披露されました。この神事は神社の例祭にて行われるものですが、巫女(みこ)舞や獅子(しし)舞もこの日のために特別に披露してくださったのだとか。
「もちまき」では、もぐらの会で育てたもち米をついておもちにし、子どもたちや地域の住民たちが一口大に丸めました。それを和紙で包んだものがお菓子などとともにふるまわれ、集まった人たちは大にぎわい。
音楽祭の運営は、投げ銭によって行われていて、子供たちの引くリヤカーにはたくさんの寄付が集まりました。
南外もぐらの会は、加賀谷幹樹(かがや・もとき)さんと由香(ゆか)さんのご夫婦が代表を務め、10人ほどのメンバーで構成されています。
音楽祭の中盤に出演した、Clamiss(クラミス)は由香さんがボーカルを務めるバンドです。
由香さんの歌声が響く中、「由香ちゃんがこの地域のよさを守りたくて、この活動を始めたんだって!」と、彼女の思いを語る声が聞こえてきました。その場にいた人々は、歌声とその思いに耳を傾け、静かに心を寄せていました。
秋田を中心に活動する人気「仏教的バンド」英心 & The Meditationaliesの演奏に続いて南外民謡保存会の演目が続き、最後は南外小唄をみんなで歌い、会は大盛況のうちに終わりました。
この会場には、もぐらの会の、「自然の恵みの循環を大切にしたい」という思いに賛同する人たちが、出店も含め遠方からもかけつけ、晩秋の公園にはとても暖かい時間が流れました。
自然の恵みを体験「もぐらのがっこう」
もぐらの会では「もぐらのがっこう」を不定期に開催しています。季節ごとの水田や畑や山の手入れ、竹ハウスづくりなどを行います。また、本来あった地下の水脈の経路が、環境変化などの影響で詰まってしまった部分を掘り進め、水の流れを再び活発にすることで、周辺の田んぼや森の活力を取り戻す、「自然の水脈」を再生する作業なども行っています。
「自然の力と人間の力で自然の恵みが得られる体験」に地域住民や子どもたちが誰でも参加することができます。
自然と直接関わるその体験は、自然の恵みがどれだけ大切で貴重なものであるかを実感することができます。
食材一つひとつがどれだけの手間や愛情をかけて育てられ、またその土地や環境から与えられているかを理解することにつながります。
自然が持つ力と知恵を学びつたえる
もぐらの会では、24年10月に「菌ちゃん農法」で知られる吉田俊道さんを招いて、自然に基づいた畑作りの講演を主催しました。
人の健康、自然環境を第一にし、化学肥料や農薬を使わず病害虫を回避できるような、本来自然が持っている力を生かして、身の回りの資材を利用し、野菜を作り種を継いでいくことをひろく伝えるもので、実際に畑で土を触りながらの勉強会、その後会場を移動し講演会・勉強会が行われ県内各地からたくさんの人が集まりました。
その活動の背景は、効率や利益だけではない自然の循環に根ざした世界を目指しています。
ふるさとの持続可能な循環をつくる
南外地区は、由香さんが生まれ育った地域です。
古き良き伝統が多く残る地域でありながら、人口が減ることで住民の暮らしが不便になってしまいました。
以前地域内にあったスーパーが撤退し、車を持たない人が買い物に困るようになり、その課題解決をするために地域住民が主体となって、ミニスーパーマーケット「南外さいかい市」を20年にオープンしました。
「NPO法人南外さいかい市」の運営の中心となるのは、事務局長を務める佐々木繁雄さんをはじめとする、定年退職をした60〜70代の住民有志です。出歩けない方のために移動販売なども行っていますが、これまで店舗運営に関わったことのない人ばかりで、試行錯誤を繰り返しています。幹樹さんも、さいかい市に携わりお手伝いをしています。
幹樹さんにとって、地域の大先輩である佐々木さんは、さいかい市の運営はもちろん、もぐらの会の活動に賛同し、活動に協力してくれています。そのような取り組みを暖かく受け入れてくれる姿勢に感謝してもしきれないと幹樹さんは話します。
「今、佐々木さんから借りた土地で有機農業に取り組んでいます。まだまだ発展途中ですが、これに賛同してくれる人が手伝ってくれて、作物がたくさん収穫できたら、さいかい市で売ることもできます。お金に頼りすぎない、自然に寄り添った仕組みで、地域の循環を作り出せればいいなと思って取り組んでいます」
持続可能な未来への第一歩
「日本の食料自給率は、化学肥料や種の海外依存率を含めて試算すると、とても低いといわれています。 これからの時代は私達がそういった問題に向き合い農薬や化学肥料に頼らず、自分たちで野菜やコメなどを作り種を継いでいくことが必要と考えています。一人でも多くの人がそういう取り組みを知って実践することで未来は変わってくると思います」と幹樹さん。
幹樹さんは、雪が積もり農作業ができない冬の時期は、南外の自然の土などを利用し陶芸に取り組みます。できる限り地域でとれた原料を使い、全て手仕事にこだわり、愛する南外の地域の魅力を器に込めています。
もぐらの会のメンバーそれぞれが地域や自然、人々と向き合いながら、小さな成功と学びを積み重ね、これまで自然に無理を強いてきた仕組みに代わり、より良い循環を目指して新しい地域の姿を築いています。
もぐらの会が発信するさまざまなイベントに訪れたり、ボランティアの参加を通じて、自然の循環を学び、人と人がつながる場所を見いだせるかもしれません。どんな小さな関わりでも、新しい循環を作る力になります。
自然環境や食べ物について、普段の生活の中で疑問を感じる時があったなら、もぐらの会を訪れてみてください。その一歩が、未来を変える大切な始まりになるはずです。
関わりしろ
不定期開催のもぐらのがっこうへの参加
畑や水田の手作業、茅葺(ぶ)き屋根修理、薪割り、縄文小屋づくりのための杉皮むき、などのお手伝い
ボランティア活動
ボランティアとしてイベントやプロジェクトに参加
勉強会や講演会の参加
環境問題や持続可能な取り組みの講演やディスカッションへの参加
情報
南外もぐらの会Instagram:https://www.instagram.com/nangaimogura/
南外民俗音楽祭:https://www.instagram.com/nangaiminzokuongaku/
門喜窯(もんきがま・幹樹さんの窯):https://www.instagram.com/monkigama/
「あきたの物語(https://kankei.a-iju.jp/)」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。