ORIYAMAKE(オリヤマケ) とは、39歳の若いマタギ、織山英行(おりやまひでゆき)さんがオーナーのゲストハウスである。宿泊客の7割が外国人で、予約は Airbnbからのみ。宿泊は2泊3日以上で、支払いはクレジットカードのみ。基本的に素泊まりで自炊という、この地域では異色の存在である。
北秋田市にはマタギが営む宿が他にもいくつかあるが、ORIYAMAKEは建物も内装も洗練されていて現代的であり、ホームページもお洒落で可愛らしい。今回の取材では友人と一緒に実際に宿泊し、アクティビティとして「マタギと一緒に山歩き体験」をさせてもらった。それは、楽しくて美味しくて学びのある体験であった。ORIYAMAKEと織山さんの魅力に迫る。
目次
山は究極のインドア空間
今回はアクティビティとして、織山さんと一緒に裏山を歩く体験を盛り込んでもらった。整備された登山道に慣れている人は、草がぼうぼうと生い茂る裏山の入口を見た時点で驚くだろう。
道なき道に分け入った時、動植物の世界にお邪魔するのだなと感じた。織山さんは、誰ともすれ違わない裏山歩きをゲストにお勧めしている。山を歩きながら自分の内側を見つめることができるので、山は「究極のインドア空間」なのだそうだ。人間世界のあれやこれやから解放されて、一匹の動物として他の動植物に紛れる感覚は、確かに心地良いものであった。
(裏山に入る織山さん)
ホスピタリティ溢れる織山さん
急な斜面の山道を登ったり下ったりした後は、織山さんが準備してくれた熊肉の焼肉や採ったばかりのミズという山菜のお味噌汁、おにぎりやどぶろくを頂いた。山の中だったからなのか、織山さんの調理の腕が良かったからなのか、この時の食事は格別に美味しかった。
夜は囲炉裏を囲んだ女子会に付き合ってくれたし、翌日は近所の根森田集落の朝散歩にも連れて行ってくれた。すっかり田舎生活を満喫させてもらい、織山家のファンになって友人たちは帰路についた。
山を歩きながら動植物やマタギの話をし、美味しいご飯を提供し、深夜までぐでんぐでんの女子会に付き合ってくれたホスピタリティ溢れる織山英行さんとは、一体何者なのであろうか?
(マタギと一緒に山歩き体験の様子)
美大から映像制作会社を経て山へ
ORIYAMAKEのホームページを開くと、「山の守り人(マタギ)に出会う処(やど)」という紹介文が出てくる。人間と動物、自然について考えを深めたい方に、特にオススメの宿らしい。宿のコンセプト、建物のデザイン、調度品に至るまで全てのセンスが良く、「洗練された田舎暮らし」という趣きである。都会的なセンスの理由は、やはりご主人の織山さんにあった。
織山さんは秋田出身であるが、上京して武蔵野美術大学を卒業し、5年半ほど東京の映像制作会社で働いていた。映像制作会社では主にアダルトビデオの編集を担当していて、仕事で一生分の濡れ場を見たらしい。現在の丸坊主で修行僧のような佇まいからは、想像しづらい経歴である。
移住後に狩猟免許を取得してマタギに
結婚して子供が産まれた頃に東日本大震災が起き、東京暮らしの拠り所のなさに危機感を持ったことから、田舎への移住を決意。移住先の候補物件は観光客の集まりそうな広島や静岡にもあったが、最終的には織山さんの祖父母の土地と家のある北秋田市にしたそうだ。
北秋田で暮らし始めてマタギの方と山に入るようになり、その影響で織山さん本人も狩猟免許を取得してマタギになった。織山さんはマタギとハンターを区別しており、循環型の狩猟を実践する人々を「マタギ」と定義している。
動物を授かった(=駆除)後に、木を植えて動物が住みやすい環境を整え、そうして増えた動物をまた授かるという循環である。山菜なども、5本あれば3本は残して採り尽くさない。マタギは狩猟を通じて動植物の関係性を調整し、森の環境整備をする存在でもある。このマタギの行動原理は、持続可能な社会を目指す現代にも通ずるものである。
(銃に見立てた木の棒を構える織山さん)
人と自然の世界をまたぐ者=マタギ
「マタギ」という言葉の語源には諸説あるが、織山さんは先輩マタギの佐藤一二三(ひふみ)さんから教わった「人間と自然の世界をまたぐ者」という説を採用している。ORIYAMAKEの3つの星のロゴの意味もこれと関係しており、「人間の世界」、「動植物の世界」、「見えない世界」の3つを表現しているらしい。
織山さんは、マタギとして人と自然の世界をまたいでもいるが、都市と地方をまたいでもいるし、過去(伝統)と現在(革新)をまたいでもいる。これからも様々な領域を越境しながら、私たちに異世界を見せて欲しい。ORIYAMAKEでは裏山歩き以外にもゲストの要望に応じて様々なアクティビティを用意してくれるようなので、宿の予約の際にリクエストしてもらいたい。きっと何者でもない自分を許せるし、自然の中で自分と対話できるはずである。
(ORIYAMAKEの看板)
情報:Mt. Moriyoshi Guest house ORIYAMAKE