長崎県の離島、対馬(つしま)。島の南端に位置する豆酘(つつ)地域に「オソロシドコロ」と呼ばれる場所がある。それは古来より地元の人から聖地として崇拝されていた龍良山(たてらさん)にある表八丁郭(はっちょうかく)と裏八丁郭と、もう1ヵ所不入坪(いらぬつぼ)のことだ。かつては地元の人は山自体を聖地として、決して近づかなかったそうだ。現在は周辺に桜やつつじを植え、地元住民も訪れることができる場所となっている。禁足地とされていたころは、間違って入ってしまった際「犬の子(インノコ)」と唱えて後ずさりしなければならないという掟があったそうだ。
天道信仰の聖地「オソロシドコロ」
「オソロシドコロ」は対馬固有の宗教とされる「天道信仰」の聖地、天道法師の墓所「表八丁郭」と母の墓所「裏八丁郭」の2ヵ所と多久頭魂(たぐすたま)神社の不入坪の3ヵ所のことを言う。
「天道信仰」とは一体?その始まりはおよそ1300年前、豆酘で太陽を父に持つ天道法師が誕生し、太陽の子、つまり天道法師と呼ばれた。不思議な力を持っており、嵐をまとって空を飛ぶことができ、天皇の病気を治すなどの奇跡を起こしたとされている。
八丁郭、参拝の掟。間違って入ってしまったら…「犬の子、犬の子」
八丁郭は何層にも積み上げられている石積みのことをいう。「土足厳禁」の看板があり、そこから石積みまでの距離は細かな石が並んでおり、参道になっている。靴を脱ぎ参道を通り、石積みに近づくにつれ、澄みきった神聖な空気を感じる。冷たいというか、背筋が凍るような何とも言えない、今まで生きてきた中で感じたことのない、おどろおどろしい感じとでもいうのだろうか。
禁足の地とされていたころは、石積みを見てしまったら見えなくなるまで、「犬の子(インノコ)、犬の子…」と言いながら後ずさりをしていたという。つまり「私は人間ではありません。犬の子です」という意味だ。なんとも恐ろしい、まさに「オソロシドコロ」。
我々も念のため後ずさりをして参拝を終えた。後から考えると靴は脱いだが裸足になるのを忘れてしまったが、大丈夫だろうか…「犬の子、犬の子」
写真はすべて筆者撮影 2022年11月