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2023年12月10日。インドネシア共和国のジャカルタにある、ラッフルズ・クリスチャン・スクール(Raffles Christian School)の生徒たちが秋田を訪れた。
日本に来るのは初めてという子どもたちが多い中、餅つきなどを通して日本の食文化を知ったり、秋田をホームタウンとするプロサッカークラブであるブラウブリッツ秋田と、バドミントン部を有する北都銀行、横手市教育委員会の共催でスポーツ交流などをし、一週間ほどの日程を楽しんだ。
主催したのは、JSCOMPASS(以下JSMS)。秋田市に住み、海外との交流を目的に個人でJSMSを立ち上げたJunko Osamuraさんと、息子のSaeki Osamuraさん、そして東京都に住む玉井大輔さんが旅のガイドを務めた。
目次
「What is omochi?」
餅つきが行われたのは、子どもたちが宿泊する秋田市雄和のプラザクリプトンから2.5㎞ほど離れた、古民家を改修した民家。この民家は東京出身で秋田市の医師、神田壮平さんの自宅。妻の祥子さんがもち米の分量や蒸し方などを近所のおばあちゃんたちに手ほどきをうけながら準備した。
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同じく秋田市に住み、神田さんや玉井さんとかねてから親交があった石井安治さんが臼や杵を用意し、餅のつき方を玉井さんや神田さんをはじめ、子どもたちにも教えながらなごやかにお餅つきが始まった。
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お餅が何であるか知らない子どもたちの「What is omochi?」の声に、玉井さんが「Mochi is rice cake!Omochitsuki is rice cake pounding!」と説明する。
初めて持つ杵の重さに戸惑いながらも「よいしょ!よいしょ!」の掛け声にそれぞれが餅つきの体験を楽しんだ。
「Mochi is delicious!」
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つきあがったお餅を一口大にまるめ、あらかじめ用意していたあんこやきなこ、大根おろしとお醤油などをつけて、それぞれが自由に取り分けて食べ始める。子どもたちは「Mochi!delicious!」と初めて食べた味に驚きながら声を上げていた。
「実は、お迎えの車で学校に通うような、いわゆる『お坊ちゃま』たちが多い学校なの。この子たちに秋田での体験がどんな影響を与えるか楽しみ」とJunkoさんは笑顔で話してくれた。
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「ありがとう!」終始笑顔のお別れ会
子どもたちは、12月11日〜14日にかけて、秋田市の中学校との交流や横手観光、横手市内の各スポーツ少年団との交流のほか、ブラウブリッツ秋田や北都銀行バドミントン部とのスポーツ交流、書道体験やおにぎりづくり体験を楽しみ、最終日を迎えた。
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最終日は宿泊先のプラザクリプトンでお別れ会。秋田のおみやげが当たるくじ引き大会や記念品の交換、そしてひとりひとりのあいさつなどが行われた。
子どもたちから日本語で「ありがとう」とあいさつがあったり、お気に入りの秋田のおみやげをくじで当てて大喜びする子どもや、外れて悔しがる子どもがいたり、会場は終始笑顔に包まれていた。
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地域創生につながる旅を提供したい
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「オーバーツーリズムによって失われつつある各地の魅力の源泉を保存し発掘し続けたい」
今回この旅をガイドした玉井大輔さんの本業は薬剤師だが、人脈を形成し秋田県への移住者を増やすなどの事業も計画している。
玉井さんと神田さんは都立国立高校時代の同級生同士。神田さんは10年ほど前に秋田市雄和のこの地に移住した。Junko Osamuraさんはシンガポールに住んでいたが数年前に同地に移住し、神田さん夫婦と交流を持つようになった。地方創生の旅を提供する事業を目指している玉井さんに神田さんが声をかけJunkoさんらとともに今回の交流が実現した。
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また、神田さんが移住する際に住宅探しや古民家の改築を全面的に手伝ってくれたのが石井さん。石井さんは玉井さんと神田さんの高校時代の恩師の友人で、秋田に来てから縁がつながったという。
また、Junkoさんがシンガポール在住時に息子のSaekiさんが在籍していたラッフルズ・クリスチャン・スクールのサッカー部のコーチがインドネシアに移籍し、そのコーチとのつながりが今回の交流のきっかけになっている。
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秋田ではない場所でのつながりが、秋田の地でつながり、さらにそれが海の向こうへ広がった。
秋田市雄和椿川地区は、国際教養大学も近いことから空き家を利用したシェアハウスがあるなど、もともと地元に住む人たちと移住した人たち、そして国際教養大学の学生たちとの交流も多い場所。広く国内外に及ぶ交流は、地元住民にも少なからず影響を与え、近所のおばあちゃんたちも巻き込んでいるのを今回目の当たりにした。
子供の頃の良い経験はその人の原体験となり、その人の人生に豊かさを与えてくれることがある。
「インドネシアから訪れた子どもたちに秋田での交流の記憶が刻まれて、大人になっても秋田に親しみを持って交流を続けることができたら」と玉井さん。
もしもそうなったら世界はもっと近くなる。今後世界で活躍するかもしれない子どもたちにとっての「AKITA」が、心のふるさとになることを願ってやまない。
※写真は全て筆者撮影