
観光地として人気を集める地方鉄道で、いまもICカードが使えない路線が残っている。キャッシュレスが進む時代に「現金のみ」というギャップに戸惑う利用者も多い中、その“不便さ”の奥にあるローカル線ならではの価値が浮かび上がる。
週末、多くの観光客が訪れる地方の駅。
改札にICカードをかざそうとした瞬間、表示されるのは「ご利用いただけません」の文字。
“観光地なのにICが使えない”という事実に、驚いた表情を見せる乗客は少なくない。
真岡鐵道(もおかてつどう・栃木)、上毛(じょうもう)電気鉄道(群馬)、わたらせ渓谷鐵道(群馬・栃木)、芝山鉄道(千葉)、さらに京都丹後鉄道や紀州鉄道でも、ICカード非対応区間が残る。
どれも観光地として知られるローカル線だが、支払い方法は今も現金のみという路線が少なくない。
“ピッ”と改札を通り抜ける日常が当たり前になった今、地方鉄道に残る紙の切符、手売りの窓口、車掌の肉声アナウンス。そのすべてが、かえって新鮮に、そしてどこか温かく感じられる。
そんなローカル線の代表例として知られるのが、「流鉄流山線(千葉・流山〜馬橋)」だ。
首都圏にありながら全線でICカードが使えない“都心から最も近いIC非対応路線”として話題になっている。
実は流山は私の地元だ。幼いころからこの流鉄とともに育ってきた。昔は「どうぶつ電車」と呼ばれる、可愛い動物イラストが描かれた車両が走っていた。
通学や通勤のために定期券を買うときは、駅員さんが手作業で発行してくれて、下車する駅では駅員さんに定期を見せながら改札を通るという、今では珍しいスタイルが続いている。
私にとって流鉄は、単なる交通手段ではなく、街そのものの空気を映す存在だった。
駅員さんの声、切符の紙の感触、ホームに吹くゆっくりした風。その全部が、いま思えば“流山で育ったことの証”のように思える。だから学生の頃は、「うちの地元にはレトロな鉄道があるんだよ」と、少し誇らしげに友達に語っていたものだ。

ただ、時代は変わる。
キャッシュレス化が進み、現金を持たない派の私にとっては、「そろそろIC対応してほしい」という気持ちも正直ある。けれど同時に、レトロ感を残してほしいという願いも消えない。
便利さと、懐かしさ。合理化と、温かさ。
そのはざまで揺れながらも、流鉄は今日も変わらず地域の足であり続けている。
もしIC化が実現するとしても、“流鉄らしい形”で進んでいってほしい。
機械が増えても、駅員さんの笑顔がなくならない未来であってほしい。
※写真はすべて12月21日筆者撮影
情報
■ ICカード未対応の主なローカル線(代表例)
- 真岡鐵道(栃木県・茨城県)
- 上毛電気鉄道(群馬県)※2026年1月15日より利用開始
- わたらせ渓谷鐵道(群馬県・栃木県)
- 芝山鉄道(千葉県)
- 京都丹後鉄道(京都府北部)※窓口できっぷ等を購入される際のお支払いで電子マネーが利用可能
- 紀州鉄道(和歌山県)
参考:乗りものニュース:https://trafficnews.jp/
■ 流鉄流山線
- 区間:馬橋〜流山(全6駅・全駅有人)
- 特徴:全線ICカード非対応/紙の切符・定期券は駅員手渡し
- 所要:約12分
- 公式サイト:http://ryutetsu.jp/





