お酒を飲む場は、今まで「飲める人」を中心につくられてきました。しかし、体質や価値観、健康意識の変化によって、飲む人、飲まない人、飲めない人が同じ場を過ごすことは、いまや特別なことではありません。そこで生まれたのが、アルコールの有無にかかわらず、それぞれが自分らしく楽しむ「スマートドリンキング」という考え方です。
スマドリ株式会社(下記、スマドリ)は、2022年にアサヒビール株式会社と株式会社電通デジタルの共同出資により設立された、スマートドリンキングの社会実装を担うマーケティング会社です。代表取締役社長の高橋徹也(たかはしてつや)さんは、アサヒビールで営業、マーケティング、スマートドリンキング推進に携わり、現在は同社の代表として新しい飲用文化づくりに取り組んでいます。
今回は、アルコールを飲むかどうかで分かれていた場を、誰もが参加できる時間へと変えていくために、スマドリが何を見つめ、どのような体験を社会に広げようとしているのかを聞きました。

目次
「私たちは飲まない人を知らない」気づきから始まった
スマドリ株式会社の出発点は、酒類メーカーであるアサヒビールがアルコールを「飲まない人」を知ろうとしたことでした。
高橋さんは、設立当初の問題意識についてこう語ります。
「アサヒビールの中で、『飲まない人を知っている人がほとんどいないよね』という話から始まりました。飲む人のデータはいっぱいあるんですけど、飲まない人のことは十分にわからない状態だったんです」
長くお酒を造り、届けてきた企業だからこそ、飲む人の声や行動は蓄積されていました。一方で、飲まない人、飲めない人が飲み会や夜の場で何を感じているのか、どのような選択肢があれば同じ時間を楽しめるのかは、十分に捉えきれていませんでした。
お酒を飲む人を中心につくられてきた場の中で、知らないうちに参加しづらさを感じている人がいたのではないか。その気づきが、スマートドリンキングの取り組みを動かす最初の火種になりました。同社は、単にノンアルコール飲料を提案、提供するだけの会社ではありません。飲まない人の声を集め、飲む人も飲まない人も同じ空間で楽しめる体験を設計し、その文化を社会に広げていく役割を担っています。
高橋さんは、自分たちの事業を「マーケティング会社」と説明します。店舗運営は目的そのものではなく、リアルな声を集め、SNSなどで情報発信し、行政とも連携しながらスマートドリンキングを社会実装していくことを目指しているのです。
飲酒人口の減少から生まれた新しい選択肢
スマートドリンキングの取り組みは、アサヒビールが推進してきた構想です。
背景には、2つの視点がありました。1つは、ビール市場や飲酒人口が減少するなかでどのように市場を拡大するかという視点です。もう1つは、健康寿命を長く保ちながら、楽しく飲み続けるためにはどうすればよいかという社会的価値の視点です。
2020年頃からアサヒビールの中でスマートドリンキングの概念が生まれ、2020年12月には飲む人も飲まない人もお互いが尊重し合える社会の実現を目指す「スマートドリンキング宣言」を提唱しました。その流れの中で、別会社としてスマドリを設立する構想が生まれました。
「飲む場所」から「自分らしい楽しみ方を見つける場所」へ
2022年6月、同社はSUMADORI-BAR SHIBUYAを開業しました。高橋さんは、同店について「飲めない、飲まない人が憧れる店」を目指したものだったと振り返ります。
従来のお酒の場では、飲むか、飲まないかが楽しめるかどうかの分かれ目になりがちでした。しかしSUMADORI-BAR SHIBUYAで示したかったのは、その二択ではありません。アルコール分0%、0.5%、3%など、体質や気分に合わせて選べるドリンクを用意し、自分に合った一杯を見つけられる体験をつくることでした。
その後、同社は本格的なノンアルコールバーの試みや、全国でのポップアップイベントを重ねていきました。名古屋、大阪、韓国などで実施した体験型イベント重視のポップアップバー「SUMADORI Me」では、「私らしい楽しみ方を見つけるために“自分を知る”」というコンセプトのもと、自分に合う飲み方を知る体験を提供しました。
この取り組みが若年層に響き、体験後の満足度も高かったことから、同社は飲食店型の場から、より体験型の空間へと舵を切ります。
2026年4月には、表参道で体験型施設SUMADORI Meetsを開業しました。渋谷との関係性を大切にしながら、原宿方面から学生や若い世代が流れてくる立地も意識した選択でした。


人生で初めての一杯が未来のお酒との付き合い方を決める
現在、同社が特に重視しているのは、20歳を迎えた若い世代が初めてお酒に触れる体験です。
高橋さんは「最初の体験でアルコールに対して嫌な体験をすると、もう戻ってこない」と話します。だからこそ、自分に合う度数や飲める量を知り、よい雰囲気の中でお酒との付き合い方に触れることが大切だと考えています。
そのため、表参道のSUMADORI Meetsでは、単に来店客を増やすのではなく、届けたい相手に合わせたイベントづくりを進めています。学生が考えた企画を実施することもその一つです。
仮面をつけて素の自分を出す「マスカレードナイト in 表参道」や、お酒の歴史を学びながら楽しむイベント「タイムトラベル展 ~一杯から始まる、時代の旅~」など、若い世代が「こういう場なら楽しめる」と思える体験を実装しています。
飲む人だけの文化から、誰もが参加できる文化へ
スマートドリンキングが目指す文化は、従来のお酒の場を否定するものではありません。高橋さんは、従来のお酒の社交場との違いについて「本質は変わっていない」と話します。
「飲む人だけの集まりではなく、その場を解放してあげるだけ。楽しむ中身は全然変わらないかなと思っています」
同社が変えようとしているのは、お酒を楽しむことそのものではありません。飲めなかった人、飲まなかった人が入りづらかった場を開き、誰もが分け隔てなく楽しめる雰囲気をつくることです。
その意味で、スマートドリンキングはノンアルコール推進にとどまるものではありません。飲む人も、飲まない人も、自分に合った選択をしながら同じ時間を共有するための文化づくりです。
9千万人が同じテーブルを囲める未来へ
高橋さんは、スマドリ株式会社の強みを「飲まない人を考え続けてきたこと」だと話します。
「飲む人だけ楽しんでずるい」という言葉から始まった取り組みは、SUMADORI-BAR SHIBUYA、期間限定のSUMADORI Me、表参道のSUMADORI Meetsへと段階的に発展してきました。
一方で、課題も残されています。スマートドリンキングの認知率は上がってきているものの、文化として浸透させるにはまだ道半ばです。また、お酒の味そのものが苦手な人に対して、どのような夜の楽しみを提供できるかも重要なテーマです。
高橋さんは、成人約9千万人すべての人たちが、夜にみんなで楽しむ「飲む文化」に触れられる社会を目指しています。
「飲むというのは、お酒でなくていいんです」
同社が描く未来は、お酒を飲む人だけのものではありません。アルコールの有無に関係なく、それぞれが自分らしい選択をしながら同じ時間を楽しめる社会です。飲むか飲まないかで分かれていた場が、誰もが自然に集える場へと変わっていく。その先にあるのは、より多くの人が参加できるお酒との付き合い方、新しくて楽しい生活文化であり、新しいコミュニケーションの形となっていきます。
聞き手、執筆:木場晏門
※写真はすべてスマドリ株式会社提供
最も印象に残った言葉
「飲む人だけの集まりではなく、その場を解放してあげるだけ。楽しむ中身は全然変わらないかなと思っています」
【会社概要】
会社名:スマドリ株式会社
取材対象者:代表取締役社長 高橋徹也さん
経営理念:スマートドリンキングを通じて、お酒を飲む人も飲まない人も楽しめる社会の実現を目指す
設立年月:2022年
事業内容:スマートドリンキングに関するマーケティング、店舗・体験型施設運営、情報発信、イベント運営、社会実装に向けた取り組み
所在地:〒130-8602 東京都墨田区吾妻橋1-23-1
URL:https://www.asahibeer.co.jp/smartdrinking/company/






