「あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。
秋田県では人口減少に伴う地域課題が顕在化する中で、地域や地域の人々と多様に関わる「関係人口」が、新たな地域づくりの担い手として注目されています。今回は、湯沢市を拠点に、人と人を繋ぐ旅づくりの事業を展開する『旅のわツアー』代表の齋藤あゆみさんに、オンラインを使った関係人口の作り方、関係人口を活用した地域づくりのヒントを伺いました。(取材:合同会社イーストタイムズ 畠山智行)
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起業の原体験は、人見知りだった自分を変えた「価値観の違う人との出会い」
2019年4月に湯沢市の地域おこし協力隊に着任した齋藤さんは、協力隊として3年間活動する傍ら、2020年2月に旅のわツアーを設立し、「旅」をテーマに地域の人と外の人を繋ぐイベントやツアー企画の運営、観光事業の地域コーディネートに取り組んでいます。
明るい人柄で、元々縁もゆかりもなかったという湯沢市にすっかり溶け込んでいる齋藤さん(にかほ市出身)ですが、高校生の頃までは人と接するのが苦手だったそうです。そんな齋藤さんが変わったのは、ニュージーランドへの留学やバックパッカーの経験で、価値観の違う人達と出会ったことがきっかけです。齋藤さんは、「いろんな人と出会う中で、自分が人と人との繋がりを作ることで誰かの役に立てると思いました」と、起業を思い立った当時を振り返ります。
人との出会いで変わるのは自分だけではなく、地域も同じです。「もし“地域を良くしたい”と思うなら、(地域づくりに携わる人が)外の人との繋がりを学びや成長のきっかけにしていくことが大事だと思います。でも、いきなり地域の人と、地域に関心のある外の人が関わるのは難しくて。関わりやすくなるように、間に入る人がいることが重要になってきます」と話す齋藤さんは、有言実行で地域の人と外の人の縁を繋ぎ続けています。
コロナ禍の中、オンラインを使った関係人口づくり。地域の人に参加してもらえる工夫は?
小安峡を舞台にしたリアル謎解きゲーム『ゆざわの冒険』や、川原毛地獄の紅葉を楽しむ『〜地獄の案内人と行く〜日本3大霊地の1つを巡る 地獄の紅葉と極楽の美食ツアー』など、齋藤さんが企画する、斬新な切り口のツアーは、湯沢市のファンづくりに大いに貢献しました。齋藤さんは、旅のわツアーを立ち上げた当初からオンラインを使った地域と人の繋がりづくりに注目していました。そんな中、湯沢市を襲ったのがコロナ禍です。
オンライン観光コンテンツを使った地域のファン獲得や関係人口の拡大は、前例のない取り組みとなりました。齋藤さんの企画には、ゆざわジオパークをはじめ地域の人との連携や協力が必要不可欠です。地域の人にとっては、Zoomなどオンラインを通じて地域外の人と関わるということは大きな『挑戦』となりました。
齋藤さんは地域の人がオンラインのイベントに参加しやすくなるよう、様々な工夫をしました。「難しいこと、複雑なことは全部自分が引き受けるということを徹底しました。協力者の方の不安を取り除くため、アプリのインストールから、設定、操作方法まで、自分がやるようにしました。そうすることで、地域の人がオンラインで人と関わることのハードルを下げるようにしていきました」と、きめ細やかな気遣いで地域の人の『挑戦』を後押ししました。
コロナ禍が一定の落ち着きを見せるようになった今でも、オンラインのコミュニケーションは地域と地域外の人の関係性を作る上で有効な手段です。地域の中には「デジタルが苦手」という人がいるかもしれませんが、「細かいこと、面倒臭いことは全部引き受ける」という人の存在が状況を打破する鍵になると言えるでしょう。
関係人口と地域の人が深く関わるための「手段」としての地域課題
2021年になると、旅のわツアーが関わる湯沢市の関係人口拡大の事業「ゆざわローカルアカデミー」や施策は首都圏や関西に向けても広がっていきました。この時期はコロナの感染状況を踏まえ、オンラインとオフラインをうまく融合させながら、湯沢市に関心や思いのある人をより強いファンにしていくことが求められるようになります。
「(コロナの状況に関わらず)関係人口になりたい人のニーズを把握すること、どういう仕掛けを作ればそのニーズが満たされるのかを設計するのが大切です」と齋藤さんは話します。関係人口となる人はどのようなニーズを持っているのでしょうか。「イベントに参加した人は、地域の『人』と深く関わりたいというニーズを持っていました。一方で、関わり方がわからないという状況もありました。そこで『地域課題の解決』を関係人口と地域の『人』と関わるフック、きっかけにしていきました」と続けます。
齋藤さんが着目した課題は、地域の情報発信のあり方でした。「湯沢市には素晴らしいものがたくさんあるにも関わらず、それを上手く外に伝えられていない」という課題です。その原因を深掘りしていくと「何が地域の魅力・価値であるか、地域の人が確信を持つことが難しい」というところに行きつきます。そこで有効になるのが地域の外の人の視点です。外の人が「感動した、素晴らしい」と思うことを地域の人が知ることで、地域の人が地域の魅力を再発見し、確信することができるのです。
齋藤さんは、関係人口となっていく人が地域の事業者を取材して記事・冊子を作る企画を設計したり、フィールドワークで経験したことを東京のイベント会場で発表する場づくりを行ったりすることで地域の魅力を可視化してきました。フィールドワークで関わった地域の人からは「勉強になりました」「多くの気づきを得られました」などの声があるそうです。
多様な関わりしろを用意することで、価値観の違う人同士が繋がる機会を作り、地域が変化するきっかけにする
「地域の魅力を可視化し、そのプロセスやアウトプットを通じて関係人口を創出・拡大する際には、軸となるコンセプトを持ちながら、地域の様々な体験をしてもらうことが重要です」と齋藤さん。。関係人口として地域に関わろうとしている人が、何に興味関心を持つか、共感するかは、一度形にして当ててみないとわからないからです。
齋藤さんは関係人口拡大の事業を企画する中で、院内石(いんないいし)の石窯を使ったピザづくり体験、せり、ひろっこ、チョロギなどの伝統野菜の収穫体験、地熱資源が豊富な小安峡の歴史の学び、農家さんとの調理実習など、食・文化・人との交流をテーマに、様々な「人」「モノ」「コト」との関わりしろを準備し、フィールドワークを運営してきました。参加者からは「地元の人と話す中で、親戚の家にお邪魔しているような温かさを感じた」「小安峡大噴湯の神秘的な光景が良かった」などの声があり、それぞれ感動するポイントが違った様子でした。
齋藤さんは「都会では出会えないような地域のおじいちゃんやおばあちゃん、温かみのある人たちと触れ合えて良かった、という声が多かったです。関係人口として地域に関わりたい人は、必ずしも起業などを通じて”何かをしたい”と考えている人ばかりではないと感じました。人と人が出会って、違う価値観が繋がっていくことが面白かったです」とフィールドワークを振り返ります。かつて齋藤さん自身が経験したように、価値観の違う人との出会いで自分が変化することに、関係人口として地域に関わることの醍醐味があるのかもしれません。
今後の秋田県、各地域のあり方に話が及ぶと、齋藤さんは「変化の激しい時代なので、新しいことに挑戦していくことが大事で、挑戦自体を楽しむ人が増えれば地域は変わっていくんだと思います。旅行や観光という枠組みにとらわれず、地域の人が自然な形で新しい挑戦を楽しめるようにするそんな仕掛け作りができればいいなと考えています」と今後の事業の展望を語りました。
旅のわツアー
E-mail:info@tabinowa.site
関係人口としての関わりしろ
https://www.city-yuzawa.jp/life/3/24/388/
湯沢市では、関係人口の創出・拡大、e-スポーツによるまちおこしをテーマに活動する地域おこし協力隊を募集しています。齋藤さんの活動をヒントに、湯沢市を拠点にあなたのやりたいことを実現してみませんか?もちろん、地域おこし協力隊としてだけではなく、湯沢と深く関わりたい、地域の人との繋がりを持ちたいという方も大歓迎です。