只見線復旧、地域活性化の原動力~地域住民が紡ぐ鉄道と町の未来とは(後編)【福島県只見町】

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会津宮下駅で待ち合わせをするJR只見線の上下線。撮影:昆 愛、撮影日:2017年5月17日

 会津若松駅(福島県会津若松市)からの小出駅(新潟県魚沼市)までの約135㎞を結ぶJR只見線。2011年の豪雨災害により橋脚が流出するなど甚大な被害を受け、一部区間が10年以上に渡って不通となっていたものの、地域住民や関係機関の懸命な復旧活動により、2022年10月に全線運転が再開。現在は新たな魅力を生み出し、地域活性化に貢献している。

2024年秋、郡山市で開催された水郡線全線開通90周年記念シンポジウムに、パネリストとして酒井治子さん(只見線地域コーディネーター)が登壇。本記事では、酒井さんの言葉を通して、地域の交通インフラとして重要な位置を占める只見線の復興物語と、ローカル線が地域にもたらす可能性について前編(https://thelocality.net/tadamisenfukkyu/)・後編の2部構成にて探る。

シンポジウム会場内の様子、撮影:昆 愛、撮影日:2024年9月23日

只見線の観光的価値は高く、特に鉄道ファンや自然愛好家に人気がある。豪雪地帯ならではの迫力ある冬景色や、新緑や紅葉の時期には、車窓からの絶景が広がり、多くの観光客が訪れる。復旧後は観光列車「SATONO(さとの)」や「風っこ只見線 満喫号」も運行され、地域の観光資源としての価値が再認識された。

全線再開当日の会津若松駅構内、撮影:昆 愛、撮影日:2022年10月1日

また、只見線を活用したイベントや企画も行われている。地域住民や観光客が参加する「只見線列車内プロレス」や「只見線フォトコンテスト」など、魅力的な取り組みが地域全体の活性化を後押ししている。2024年夏には秋篠宮家の次女佳子さまもこの地域を訪問、こうした活動によって地域のブランド力が高まり、持続可能な地域経済の形成に寄与している。

伝統工芸の会津漆で作られた特別なヘッドマーク、撮影:昆 愛、撮影日:2022年10月1日

只見線の復旧後、地域ではその利活用方法についても引き続き積極的な議論が行われている。只見線は単なる交通手段にとどまらず、地域資源としても重要な役割を果たしているため、その活用法については多角的な視点が求められる。例えば、地元企業や住民が只見線を活用した商品開発やサービスの提供を行い、地域経済の活性化につなげる試みが進行中である。

しかし、課題も多い。まず、只見線の利用者は年々減少しており、運営の持続可能性が懸念されている。特に、沿線地域は過疎化が進んでおり、若年層の流出や高齢化が顕著であるため、利用者の確保が困難な状況にある。また、観光客の増加に伴い、二次交通(駅から観光地へのアクセス)や宿泊施設の整備など、受け入れ体制の強化も必要である。これらの課題を解決するためには、地域住民や行政、民間企業が協力し、持続可能な交通インフラとしての只見線のあり方を模索する必要がある。

全線復旧前のJR会津横田駅。撮影:昆 愛、撮影日:2021年9月5日

只見線の存続には、地域住民の支援が欠かせない。只見線応援団による活動や、沿線地域の取り組みがその一例である。例えば、只見町では只見線を活用した地域振興策を展開し、地元農産物を使った「只見ポンせん」の開発や、ラッピング車両の運行など、只見線をテーマにした商品開発が進んでいる。これらの取り組みは、地域外からの観光客誘致だけでなく、地域内での経済循環にも寄与している。

また、只見線の復旧に向けた支援活動も広がりを見せている。福島県只見線復旧復興基金が設立され、地域外からも多くの支援が寄せられている。特に、鉄道ファンや地元出身者による寄付活動が活発であり、只見線の存続を願う声は全国から集まっている。

持続可能性に向けた取り組みとしては、只見線を利用した新たな観光プランの開発が進んでいる。例えば、只見線と周辺の観光地を組み合わせた「只見線 会津鉄道 お座トロ展望列車(ツアー)」や、地域のグルメや文化を体験する特別企画「会津の食を堪能! 美食列車・只見線ツアー」などが計画されており、只見線を起点にした観光の新たな可能性が模索されている。

多くの鉄道写真ファンが訪れる三島町の第一只見川橋梁、写真:photoAC

只見線は、豪雨災害を乗り越えた地域住民や行政、全国からの支援を受けて復活を遂げた。しかし、その存続には多くの課題が残っている。利用者減少や過疎化、高齢化といった問題に直面している只見線が、今後どのようにして地域の活性化に寄与し、持続可能な交通インフラとしての役割を果たしていくかが問われている。地域住民や行政、そして全国の支援者が一丸となり、只見線の未来を切り拓いていくことが求められている。

昆愛

昆愛

福島県郡山市

第4期ハツレポーター

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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