映画PDが海外進出で目指す沖縄映画市場の発展!友人の夢が元SE代表の人生を180度変えた【沖縄県沖縄市】

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合同会社PROJECT9 代表

Kengo Oshiro
大城 賢吾氏

沖縄で映画制作を手掛ける合同会社PROJECT9(プロジェクト9)。最近では沖縄県のコザという地域を舞台にした、俳優・桐谷健太さん主演の劇場映画『ミラクルシティコザ』を制作したことでその名を知らしめ、2025年には2本の長編映画の公開を控えるなど、精力的に映画を世に生み出し続けています。代表兼プロデューサー(PD)の大城 賢吾(おおしろ けんご)さんは、実はもともとシステムエンジニア(SE)という異色の経歴の持ち主。相棒の平 一紘(たいら かずひろ)監督に誘われ未経験の業界に飛び込んだ大城さんを惹きつけて止まない、映画制作の魅力を伺いました。

友人の自主映画が、上場企業のSEを映画制作の世界へ誘う。東京から沖縄に戻ったワケ

大城さんはもともと映画や映像制作とは別のお仕事をしていたと伺いました。今のキャリアに行き着くまでのストーリーを教えてください。
沖縄出身で県内の大学でITやビジネスの勉強をしていました。卒業後は上京し、上場企業でシステムエンジニアとして働き始めましたが、いつかは沖縄に戻るつもりでした。

なぜ沖縄に戻ろうと思っていたのでしょうか?
学生時代に沖縄の特産品を扱う会社でインターンシップした際、その会社で同じくインターンをしている子が「沖縄のために」という強い情熱を持って仕事をしており、私もそのような沖縄に貢献できる人材になりたいと志すようになったためです。その時に大学の先生からは、一度県外へ行ってビジネスの経験を積んだほうがいいとアドバイスをいただいたこともあり、東京で就職しました。
東京でSEとしての腕を磨いたのち、フリーランスになりました。そんななか、大学の同級生で、現在は弊社に映画監督として所属している平から「自主映画のホームページを作ってほしい」と連絡が来ました。平は学生の頃から映画サークルに所属し、卒業後も有志で自主映画を作り続け、将来的には映画で食べていけるようになりたいとのことでした。
ちょうどその頃、Web関連の仕事の幅を広めるために法人化を計画していたところに、そのような平の夢を知りました。平の映画は自主映画だったので決して商業映画のようなクオリティはありませんでしたが、とてもおもしろくて、魅力的でした。自然と「平の夢を一緒に追いかけたい」と思うようになり、映画や映像も作れる会社にしようと15年にプロジェクト9を設立。16年に拠点を沖縄に移し、本腰を入れることにしました。

琉球新報社130周年記念ドラマCMポスター

Web制作と映像制作は、真逆の脳みそを使う仕事だから「魅力的」?映像技術を手にするために

当初から事業内容はWeb制作と映像・映画制作の2本柱だったのでしょうか?
8割がWeb関連で、残り2割が映像関連でした。平はまだ別の会社で働きながら映画を作っていましたし、私は映像の世界は未経験だったのでまずは勉強のためにウェディングやドローンカメラマンなどのアシスタントを始めました。平行してWeb制作も続けてはいましたが、平と組んだからには映像をメインにしていかなければならないという使命感がありましたので、必死に食らいついていきました。

既にSEとしてのキャリアをお持ちだったのに、まったく未経験の業界に飛び込むには相当の勇気や覚悟が必要だったと思います。その原動力を教えてください。
当時は20代でまだ若かったことも大きかったですが、それ以上にSEと映像業界があまりにも違い過ぎるので、逆におもしろく感じましたね。始める前は、Webと映像制作はビジネス的に多少の互換性があると思っていましたが、いざ映像を作る側に立ってみると、まったくないことが早々にわかりました。
「暗黙知(言語化することが難しい知)」と「形式知(言語化されている、できる知)」という考え方に照らし合わせるとよくわかるのですが、SEの仕事はマニュアルやプログラミングというルールに基づくもので、まさに形式知の世界です。
一方の映像制作は、例えば「うれしい」「悲しい」「おもしろい」という抽象的で明文化できない概念を、何とか作り出そうとする世界、センスが問われる世界で、暗黙知の仕事の最たるもの。これまで自分がいた世界とはまったく逆であることがおもしろかったし、魅力的に思えました。

2015年に会社を始めたばかりの頃の撮影風景

シネマライクな映像を作ることで映像制作会社としての強みを打ち出す。名誉な賞も獲得

未経験の世界でどのように仕事を増やしていったのですか?
アシスタントをしながら人脈を広げる一方、平が作ってきた自主映画をポートフォリオに、沖縄のテレビ局や広告代理店へ営業活動を行いました。その成果が徐々に出始めると、テレビCMや企業のPVなどの案件の相談が増え、16年に「やっぱりステーキ」という今や全国区になりつつある大手ステーキチェーンのCMを作る機会に恵まれました。その影響で多くのご依頼をいただけるようになりました。こうして会社がある程度軌道に乗り始めたことで、ようやく平もプロジェクト9一本に絞ることができ、事業内容も映像制作をメインにすることできました。

御社の作る映像は、どのような点が強みだと思われますか?
シネマライクな映像を作れることだと思います。常に営業の際に相手に伝えているのが、弊社は「圧倒的に映画を撮ること、ドラマを作ることが得意」だということです。その強みは設立時から一貫して弊社のブランディング戦略として打ち出していて、報道的な番組の制作を依頼されたとしても、ドラマ仕立てというか、ストーリーをしっかり作り込んだ番組をご提案しています。
その結果、多くの番組をシネマライクに手掛けることができ、例えば与論島を舞台にした特別ドラマを制作した際は、日本民間放送連盟賞ドラマ部門の準グランプリを受賞しました。「シネマライクな映像を作れる会社」としての認知や評価をいただいていると自負しています。

映画『ミラクルシティコザ』沖縄国際映画祭レッドカーペット

沖縄オールロケ 映画『ステップ』制作記者発表

「おもしろい映画を作る」ことで沖縄の映画市場を盛り上げたい。「地の利」を武器に

「シネマライクに作る」ということのほかにも、大切にしていることはありますか?
とにかくおもしろい映画を作ることに妥協をしないことです。弊社はディレクター、プロデューサーを中心とした会社であり、カメラや音響など技術スタッフはいません。というのも、例えばカメラマンを1人雇ったとしたら、雇用主として、その人のためになる仕事や得意な仕事を与える必要が生じます。しかしそれは、必ずしもおもしろい作品を作ることとイコールではありません。
PDとして私の最も大切な仕事は、「作品をおもしろくする」ことであり、そのためのスタッフを集めることに徹しています。作品ありきなんです。経営者としては雇用を生み出すことも大事ですが、それは社内に限る必要はなく、弊社を通じて映画にかかわる雇用を沖縄全体に生み出していければいいと思っています。「おもしろい映画を追求すること」を最優先事項に置き、そのために経営者として整えた仕組みがPROJECT9という形です。

沖縄全体の映画業界を盛り上げたいという思いも強いのでしょうか?
もちろんです。弊社の使命だと思っています。沖縄は映画市場が確立されておらず、県内市場の映画だけで食べていける人は1人もいません。だからこそ、おもしろいものを作ることで経済を動かし、雇用を生み、スタッフを育てられる土壌を築かなければなりません。
映画市場が盛り上がっている地方は、日本にはほとんどないとは思いますが、沖縄は地の利があって、興味を持っていただけるチャンスが他県に比べて非常に多い。だからこそおもしろい映画を作る必要があるはずです。
沖縄で作る映画に「話題性」だけを求めるのだったら、沖縄の社会問題や基地問題をテーマに取り上げればいいのかもしれませんが、テーマを全面に押し出し過ぎると説教くさくなってしまい、そのテーマに興味のない人には見向きもされません。そうならないためには、おもしろいものを作るしかない。おもしろければ、テーマは自ずと伝わるものですから。

琉球トラウマナイトのクランクアップ写真

沖縄の映画市場発展のために、東京やアジアに輪を広げる。「好きなもの」の開示で作る「共通言語」

展望を教えてください。
長期的には台湾などのアジアも見据えて、映画の輸出や制作をしていきたいですね。そのようにして沖縄の映画市場を盛り上げるには、沖縄だけですべてをまかなうのは難しいと考えているので、映画市場が豊かな東京にも基盤があったほうがいいと考え、来年東京支社を作る予定です。

最後に、どのようなクリエイターに参画してもらいたいですか?
挑戦できるクリエイターです。映像業界に入ったばかりの若い方の多くが、自分で自分の道を狭めてしまう傾向があるように感じます。自分の得意分野や好きなことは持っていて然るべきですが、インプットもアウトプットも多いほうが知識も技術も増えますし、仕事の幅も広がります。そして映画に興味を持ってもらいたいです(笑)。
もう一つ望むのは、しっかり話ができるクリエイターです。映画はチームワークなので、皆の土台を合わせる必要があるんです。監督の表現したいことを理解し、スタッフで共有する。そのために会話はとても大切で、それができないと人となりがわかりません。どんなものを今まで見てきたか、好きな映画は何か、などの趣味嗜好を知ることで、監督の求めるものを作り出す際に意思疎通がしやすいんです。感覚的なものを明文化するための共通言語になります。特に若いクリエイターは、恥ずかしがって自分の好きなものを開示したがらないことがあるので、ぜひどんどん話をしてほしいですね。

俳優・桐谷健太さん主演の劇場映画『ミラクルシティコザ』

映画『ミラクルシティコザ』の制作発表

取材日:2024年6月25日

合同会社PROJECT9

  • 代表者名:代表取締役社長 大城賢吾
  • 設立年月:2015年
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:映像制作、VR映像制作、ホームページ制作ASMR映像制作、タイムラプス映像制作
  • 所在地:〒904-0032 沖縄県沖縄市諸見里1-18-18
  • URL:https://www.project-nine.info/

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

仲濱 淳

仲濱 淳

沖縄県那覇市

クリエイターズステーション

埼玉県生まれ、埼玉県育ち。
東京でテレビ制作会社、出版・イベント会社へ勤務するかたわら、
海ナシ県で育ったせいか海への強烈な憧れを抱き続け、2010年に沖縄に移住。
沖縄で観光情報誌やウェブマガジンの営業・編集を経て、フリーランスに。

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