
生ごみの臭いも、虫の心配も、もういらない。
ただ土に埋めるだけで、生ごみが跡形もなく消えていく。そんな方法があるなんて想像もしていなかった。
きっかけは、「環境のための一歩が踏み出せそう」と思って申し込んだ市のイベント「キエーロ体験会」。神奈川県葉山町からやってきたキエーロ開発者・松本信夫さんが、穏やかな笑顔でこう言った。
「ここに生ごみをいれるだけなんです」
目の前で穴を掘り、土に生ごみを入れていく松本さん。 電気も特別な菌も使わない。必要なのは、土と太陽と水と空気。自然の力だけだ。
松本さんが生ごみを土に入れていく、その一つひとつの動作に釘付けになった。
「どうしてこれだけで消えるんだろう」と好奇心が膨らんだ瞬間だった。
目次
思いやりが生んだ発明
松本さんと話してみて、感じたのはその温かな人柄だった。キエーロが生まれたきっかけは奥様への愛情だったという。
「実は、妻が生ごみの臭いが大嫌いだったんです。なんとかできないものかといろいろ試しました」
試行錯誤の日々が続いた。コンポストも使ってみた。しかし虫が湧いたり、臭いが気になったりしたそうだ。
そんなある日、松本さんは思いついた。
「結局、生ごみは土に返るんだから、はじめから土に入れてしまえばいいんじゃないか」

試しに庭に穴を掘って生ごみを埋めてみると、驚いたことに虫も臭いも発生せず、きれいに消えていったのだ。一つの家庭の悩みから生まれた小さな気づきからの発見。それが今、多くの人々の生活を変えようとしている。
どうして消えるの? キエーロの仕組み
「では、実際にやってみますね」
松本さんは、持参した小さく切った生ごみを、プランターの中の黒土に穴を掘って入れた。そこへ、少し水を加え乾いた土をかぶせ、表面を平らにならした。
「これだけです。簡単でしょう?」

キエーロの仕組みはとてもシンプル。黒土に含まれる微生物たちが生ごみを分解する。たったそれだけ。
「微生物も高カロリーなものが大好物なんですよ」
と松本さんは笑う。油っこいものや甘いものが大好きらしい。使用済みの油や、炒め物をした後のギトギトの残り汁も、そのまま土に流して大丈夫だという。入れていけないものはほとんどないというのも特徴だ。
「ただし、コツがあるんですよ」
松本さんは土の状態を見せながら説明してくれた。土の内部は湿気が必要。しかし表面は乾いた土でないと、臭いが上がってきて虫が寄ってきてしまう。
「埋めた後、どうなっているか掘り返したくなるでしょう?でも、それは我慢してくださいね」
掘り返すと生ごみが表面に出て、虫が寄って来てしまう。酸素補給でかき混ぜるなら、突き刺すくらいでいいというお話だった。
夏なら4〜5日で完全に分解されて土に還る。冬はもう少し時間がかかるけれど、確実に消えていく。分解を早めたければ、生ゴミを細かくすればするほど早まるが、手間がかかるので、しなくても大丈夫だと教えてくれた。
そして、不思議なことに土が増えることはない。一度作れば、同じプランターをずっと使い続けられるという。
実際にやってみた——生ごみが跡形もなく消える日々
体験会から数ヶ月。プランターキエーロは、我が家の庭で大活躍している。
最初は半信半疑だった。「本当に消えるの?臭わないの?」と。しかし使い始めてすぐに、その疑いは消えた。生ごみを入れた数日後、同じ場所を掘ると何も残っていない。まさに“消える”という表現がぴったりだった。

「お母さん、本当に消えてる!」
娘が土を掘りながら驚く。微生物の力を実感した瞬間だった。最近は生ごみが土に還っていくプロセスを見守るのを楽しみにしている自分がいる。
三角コーナーは不要。水切りの必要もない。可燃ごみの日まで置いておく必要もない。夏場は特に虫が湧いてしまう生ごみ。その心配がいらないことは革命的な変化だと感じた。
微生物が生ごみを分解してくれるので、プランターの土はふかふかに生まれ変わる。命の循環が詰まった土。その土で、ガーデニングをして緑を増やす。暮らしと自然がつながっていく感覚が心地いいと実感している。
小さなプランターから始まる、未来を守る循環
今、都心部のごみ処理場は、処理能力の限界に達しているところも少なくない。新しいごみ処理場を作ろうにも、土地の問題や住民の反対など、さまざまな壁がある。
だからこそ、私たち一人ひとりが家庭でできる“ごみ減量の一歩”が未来に直結する。
キエーロは、子どもと一緒に環境問題を考えるきっかけにもなる。土の中にいる微生物の働き、自然の循環、私たちの生活が地球に与える影響。小さな箱の中に、大きな学びが詰まっている。
「キエーロ」は簡単に作ることができる。今日から始められる環境活動だ。

未来を支える子どもたちが、少しでも地球の現状を知り、環境への関心を持ってくれるよう、私たち大人が、まず行動を起こすことが重要なのかもしれない。
数ヶ月前の体験会で出会ったキエーロ。この出会いは私の暮らしへの意識を変えた。微生物に生ごみを食べてもらい、その土でガーデニングを楽しむ。そんな小さな循環が未来の地球を守る一歩になるだろう。
情報
キエーロ公式サイト
https://www.kieroofficial.com/




