
ジャカルタから南へ約60キロ。高原都市ボゴール の中心部に、巨大な森のような植物園が広がっている。Bogor Botanical Gardens(ボゴール植物園)である。 面積は約87ヘクタール。日本の感覚で言えば東京ドームおよそ17個分という規模を誇る。園内には世界各地から集めた約15,000種近い植物が育ち、東南アジア屈指の植物研究拠点としても知られている。
しかし、この植物園が特別なのは単に広いからではない。園のすぐ隣には、インドネシアの国家元首が滞在する Bogor Palace が建っている。つまりここは、巨大な植物園と大統領官邸が同じ敷地に隣り合う、世界でも珍しい都市空間なのである。

目次
なぜここに大統領官邸があるのか
この場所が政治的にも重要な拠点となったのは、オランダ植民地時代にさかのぼる。18世紀、オランダ東インド会社はこの地に別荘のような官邸を建設した。現在のボゴール宮殿の前身である。
当時の首都バタビア(現在のジャカルタ)は海沿いにあり、湿気と暑さが厳しかった。一方でボゴールは標高が高く、気温が比較的涼しい。植民地政府の総督は、避暑地としてこの地の宮殿を利用していたのである。
その宮殿の庭園をもとに、19世紀初頭に植物研究施設として整備されたのがボゴール植物園であった。つまりこの植物園は、最初から「庭園+研究施設+官邸」という特殊な環境の中で生まれた場所なのである。
インドネシア独立後、この宮殿はそのまま大統領官邸として使われるようになり、現在でも国家行事や国賓の歓迎などに利用されている。


ボゴールが「雨の街」と呼ばれる理由
ボゴールにはもう一つの有名な呼び名がある。「雨の街(Kota Hujan)」である。
この地域は火山に囲まれた盆地に位置し、周囲にはサラック山やゲデ山といった山々がそびえている。湿った空気が山にぶつかって上昇することで雨雲が発生しやすく、乾季であっても突然スコールが降ることも珍しくない。日差しの中でも、傘を持ち歩く人々の姿をよく目にした。
しかし、この雨こそボゴール植物園が豊かな植物コレクションを持つ理由である。
熱帯雨林気候による豊富な降雨量。さらに周辺の火山から生まれた肥沃(ひよく)な土壌。そして標高約250メートルの比較的涼しい気候である。
こうした環境は植物の成長にとって理想的で、園内には世界各地から集められた熱帯植物が生育している。世界最大の花、ラフレシアをはじめ、サボテンやウツボカズラなど多様な植物が植えられ、園内のコレクションは15,000種以上である。
この植物園は単なる観光地ではなく、インドネシアの植物研究と種子保存の拠点としても重要な役割を果たしてきた。


巨大植物園を支える管理体制
現在この植物園は、インドネシア政府の研究機関によって管理されている。園内には研究施設や標本館、温室などが整備され、植物の保存や分類研究が行われている。
その一方で、市民や観光客にとっては巨大な都市公園のような存在でもある。広い芝生の上で昼寝をする家族、木陰を散歩する人々、ジョギングを楽しむ若者の姿も見られる。
ハスやパピルスが生えている大統領官邸前のフォトスポットにいた地元の大学生たち(写真1枚目)は「時間があれば植物園にみんなで集合して、ピクニックをしています」と話していた。
入園料は外国人とインドネシア人で異なるが、比較的手頃な料金で入ることができる。
また園内は非常に広いため、自転車や電動カート、レンタルバイクで移動するサービスも用意されている。歩くだけでは回りきれないほどの広さだからこそ、こうした移動手段が人気なのだ。


ボゴール植物園は、ただ植物を見るだけの観光地ではない。
研究施設、観光地、歴史遺産、そして市民の憩いの場という複数の顔を持つ場所だった。
まさにインドネシアの歴史と自然、そして都市の暮らしが交差する特別な空間なのである。



※写真は全て筆者が撮影(2026.02.17)
関連リンク
- Bogor Botanical Gardens
https://en.wikipedia.org/wiki/Bogor_Botanical_Gardens - インドネシア観光公式サイト
https://www.indonesia.travel





