
福岡の現代美術シーンを支えてきたギャラリーで、ユニークな映像作品展が開催された——。来場者と作品、そして作家自身の“対話”が印象に残る展示だった。
福岡市博多区のギャラリー「アートスペース・テトラ」で、映像作品の二人展「タイトル、どうする?」が開催された。
会期最終日の3月15日に訪れたところ、現代美術作家の鈴木淳さんが在廊しており、来場者との対話が行われた。

同ギャラリーは約20年にわたり地域の現代美術を支えてきた拠点として知られるが、2026年4月に閉廊を予定しており、本展は節目の時期にあたる展示となった。
目次
不思議な魅力を持つ作家・鈴木淳
筆者が鈴木さんの作品を知ったきっかけは、2020年に福岡県筑後市の
九州芸文館をメインに、筑後地域の複数地で行われた美術展、「旅と恋愛」だった。
日本で唯一、恋命(コイノミコト)を御祭神とする恋木神社(こいのきじんじゃ)での展示である。
当時九州芸文館では、アートプロジェクト『ちくごアートファーム計画』が行われていた。2014年度から同館を拠点に風土、身体、自然、精神性などをテーマに、学芸員を目指す学生やアートに興味を持つ社会人向けの講座の一環として展示が行われていた。
そのアートスタッフの一員として作品や作家について学び、鈴木さんを知ることができた。
鈴木さんの作品は、本人の苗字にかけて境内の木に「鈴」をたくさん取り付けたり、神社によくある猪の目(いのめ)の装飾がハートの形と似ており、恋木神社ゆえにその両方のモチーフが神社内に存在するところに着目しハートのネオンサインを猪の目に見立て、神社の拝殿(はいでん)の中に設置するなど、一見するとダジャレのようにも思える発想が魅力。(実は大きな鈴の切れ込みにも猪の目が隠れているとのこと)
しかし、当の本人は淡々とした語り口…。
そのギャップが、作品に独特の説得力を与えている。
コップの音が“会話”するインスタレーション

会場では複数の映像作品が展示された。
向かい合うモニターに映る異なる形のコップ。そこに水が注がれる音が響き、まるで会話しているかのように感じられる。そのモニターのそばにとりつけられた、まるで巨大な糸電話のようにもみえるホースの両端に大きな漏斗(じょうご)をつなげた装置に耳を近づけても、そこから音は聞こえない。
鈴木さんはこの作品について、「コミュニケーションの不成立」をテーマにしていると説明する。


金髪とイメージのズレ
別の作品では、金髪のかつらを被った人物の後ろ姿が映し出され、さらにモニター自体にも同じかつらが被せられている。
鈴木さんは、マリリン・モンローに触れながら、「本来の姿と演出されたイメージの違い」を示唆する。
その説明は明確なようでいてどこか曖昧で、鑑賞者に解釈の余地を残す。

壁へのインタビューが生む違和感
白い壁に向かってインタビューを続ける映像作品も展示された。
「いつから白いんですか?」
当然返答はない。だが、その一方通行のやり取りが、見る側に強い違和感と問いを残す。
会場で生まれるもう一つの“作品”
展示空間では、来場者が作品の意味を探ろうとし、作家がそれに応答する姿が見られた。
作品そのものだけでなく、その場で生まれる会話や戸惑い、笑い——それら一連の体験が、もう一つの作品のようにも感じられる。


「わからない。でも気になる」
本展にはキャプションやステートメントがほとんど設置されていなかった。鑑賞者は手がかりの少ない状態で作品と向き合うことになる。
また、2人の作品は、入り混じって配置されており、作家の名前すらも設置されていなかった。
そのため、鑑賞者は作家に直接尋ねたり、お互いにどれがどちらの作品かを教えあいながら鑑賞した。
結果として残るのは、「よくわからない」という感覚。しかし同時に、「なぜか気になる」という強い印象でもある。
展示タイトル「タイトル、どうする?」は、作品の意味や言語化そのものを問い返す仕掛けだったのかもしれない。
アートスペース・テトラの閉廊を前に開催された本展。明確な答えを提示しない作品群は、現代におけるコミュニケーションのあり方を静かに問いかけていた。
※写真はすべて筆者撮影
情報
「タイトル、どうする?」/ What Should The Title Be ?
鈴木淳・遠藤梨夏 映像作品による二人展
2026年3月7日(土)〜15日(日)〒812-0028 福岡市博多区須崎町 2-15 art space tetra





